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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
20/51

第20話『存在する条件』

資料室の空気は、これまでで一番“軽く”なっていた。


軽いのに、息がしづらい。


そんな矛盾した感覚だけが残っている。


白鐘雨音は、白板を見ていた。


そこには事件の整理図がある。


だが、中心がない。


「久瀬さん……これ」


有馬が覗き込む。


「なんか図の真ん中空いてね?」


白鐘は頷く。


「“犯人の位置”がありません」


有馬が呆れる。


「いやそれはまだ決まってないだけだろ」


白鐘は首を振る。


「違います」


「“存在するはずの場所ごと消えてます”」


沈黙。


久瀬が静かに近づく。


白板を見る。


確かにそこには“中心がない構造”がある。


普通の事件図なら、必ず存在する一点。


それが、ない。


久瀬は言う。


「犯人がいない構造ではない」


白鐘が顔を上げる。


「じゃあ……何なんですか」


久瀬は続ける。


「犯人が“まだ成立していない構造”だ」


有馬が眉をひそめる。


「成立してないってどういう意味だよ」


久瀬は答える。


「条件が揃っていない」


白鐘が小さく呟く。


「条件……」


久瀬は資料を指す。


「犯人とは本来、“観測によって確定する存在”だ」


「だがこの事件は違う」


有馬が嫌そうに言う。


「またその話かよ」


久瀬は無視して続ける。


「観測しても確定しない」


「観測の結果が、次の観測に影響する」


白鐘の顔が強張る。


「じゃあ……どうすれば確定するんですか」


久瀬は少し間を置く。


そして言う。


「一つだけ方法がある」


空気が止まる。


有馬が聞き返す。


「何だよそれ」


久瀬は静かに答える。


「観測者を減らす」


沈黙。


白鐘が息を呑む。


「減らす……?」


有馬が即座に反応する。


「それつまり、見てる人いなくすればいいってこと?」


久瀬は否定しない。


その代わり静かに言う。


「そうすれば、ひとつに収束する可能性がある」


白鐘が震える声で言う。


「でもそれって……」


久瀬は遮るように言う。


「現実は成立するために“観測者”を必要としない」


「ただし“複数いると揺れる”」


有馬が頭をかく。


「いやもう哲学じゃん」


久瀬は窓を見る。


雨は変わらない。


だがその雨の粒が、数えようとするたびに増えたり減ったりする。


白鐘が小さく言う。


「じゃあ今の状態って……」


久瀬は答える。


「複数の現実が同時に重なっている」


その瞬間、資料室の時計が一瞬だけ止まる。


すぐに動き出す。


だが針の位置が、わずかにズレている。


有馬が叫ぶ。


「今のズレただろ!」


白鐘は答えない。


見えていたからだ。


久瀬は静かに確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「犯人が存在するための“条件そのもの”が揺れている」。

読んでいただきありがとうございます。

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