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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
14/51

第14話『被害者の輪郭』

資料室の空気は、まだ静かだった。


だが、その静けさの中に“違和感の重さ”だけが沈んでいる。


白鐘雨音は、被害者の顔写真を机に並べていた。


「久瀬さん……これ見てください」


有馬が覗き込む。


「同じ人だろ?」


白鐘は首を振る。


「“同じ人のはず”です」


その言い方に、久瀬の視線が動く。


「はず?」


白鐘は写真を指す。


「この被害者、記録上は同一人物です」


「でも……顔の印象が違います」


有馬が眉をひそめる。


「いや写真なんて角度とか光で変わるだろ」


白鐘は即座に否定しない。


ただ静かに続ける。


「そういう違いじゃないんです」


久瀬は写真を手に取る。


どれも同じ人物のはずなのに。


微妙に“別人のような気配”がある。


完全な別人ではない。


しかし同一人物とも言い切れない。


久瀬は静かに言う。


「輪郭が揺れている」


白鐘が小さく頷く。


「はい……」


有馬が不安そうに言う。


「それってつまりさ……」


「被害者が複数いるってこと?」


白鐘は答えない。


その代わり資料をもう一枚出す。


そこにはこう書かれている。


――被害者:A(確定)

――被害者:A(別記録)


有馬が固まる。


「は?」


「同じ名前が二つ?」


久瀬は静かに言う。


「違う」


「“同じ名前に見えているだけ”だ」


白鐘が顔を上げる。


「どういうことですか」


久瀬は資料を見たまま続ける。


「記録が対象を固定できていない」


「だから同じものを複数として扱っている」


沈黙。


雨音だけが一定に続く。


だが、その雨の“粒の落ち方”が微妙にズレている気がする。


有馬が呟く。


「もうこれ事件じゃなくね?」


白鐘が即座に否定する。


「いえ……事件は成立しています」


「ただし、成立の仕方が変です」


久瀬は窓を見る。


そこにはただの雨景色がある。


だが一瞬だけ、窓の外に“誰かの影”が映った気がした。


次の瞬間には消えている。


久瀬は静かに言う。


「被害者が揺れているんじゃない」


白鐘が息を呑む。


「じゃあ……何が……」


久瀬は短く答える。


「事件が被害者を探している」


その言葉に、部屋の空気が一段だけ冷える。


有馬が小さく言う。


「それもう……刑事ドラマじゃねぇよ」


久瀬は答えない。


ただ確信だけが少しずつ固まっていく。


この事件はまだ壊れていない。


だが確実に――


「対象の形が定まらなくなっている」

読んでいただきありがとうございます。

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