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あたしは手相占い師ー異世界で生き抜くためにはこれしかないの  作者: 陸 なるみ


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俺を嫌う魔性の占い師(引き続き若様ターン)

 

 オレが公爵に「ようこそ」と声をかけると、「トリスタンはもう見てもらったのか?」と訊かれた。


「占いなんぞに興味ありません」


 彼は、ハハッと笑ってから、

「そうだよな、オレも若い頃だったらそんなもんだったろうよ。だが歳をとるとな、孫の顔を見るまで生きていられるのか、とか気になるな」

 と俺に真っ直ぐ目線を寄越した。


 40歳になったばかりで年寄りぶって。


 怪我をしようが病気になろうがその状況を逆に楽しみそうなこの叔父を、シェリル叔母は眩しそうに眺めている。

 幾つになってもお熱いカップルだ。


 そこで何となく気になった。

「う、占い師、君には家族はいるのか?」


 なぜか意識してしまって恵茉という名前を呼べない俺は、職業名で呼ぶしかないのだが、彼女はビクンとして肩を震わせた。


 ――それだ。俺が距離を置いているもう一つの理由。小娘は俺を嫌っている。


「は、はい、若様、国に両親と、弟が……」


「ま、日本国なんて地図に無い国名を言われちゃ、こっちもどうしようもないけどな」


 小娘は、「えっ?」と声を上げ、父に「我々が無知なだけだよ」とたしなめられたが、そこへ「晩餐が整った」と家令が呼びに来てその場は事なきを得た。


 翌朝から母と小娘は何だか慌ただしそうにしていた。


 左腕はまだ三角巾で吊っているのに、ここ、ティエリ・シュデックス侯爵家、俺の生まれ育った家で手相占いを始めるという。


「領内の方々には私の練習台になっていただきたいので」

 などと殊勝なことを父に告げていた。本当に取り入るのが上手い。


 俺は父の指示と母からの「お願い」で、離れになっている東塔の、空いていた一階小部屋に机やランプを持ち込み、妖しげなタペストリーやカーテンを掲げるのを手伝わされた。


 母なんて、「こんな衣装はどうかしら、腕の包帯も隠せるし、異国情緒があっていいと思うの」

 などと言って、どこからか濃緑のベールとマントを調達してきた。


「お客様の手に息がかかると申し訳ないので、レース布をいただけませんか」

 と、占い師はベージュの透かし模様で柔らかそうな唇を隠す。


 ――そんなことをすると、栗色の瞳がより大きく見えるじゃないか。


 一通りの衣装を身に着けてから試しに母の手を覗き込んでいたが、俯くたびにサラサラ髪からベールがずり落ちてくる。


 俺は見るに見かねて、

「母上、お祖母さまのガーネットを貸してやってもいいでしょうか?」

 と口を挟んだ。

「あれを頭に載せて重しにすればベールも落ち着くのでは?」


「あら、トリスタンにしてはいい考えね。あれはお祖母さまがあなたに遺されたもの、どう使おうが私の許可は要りません。貸すなどと言わず、プレゼントすれば?」


 母のセリフの最後のほうは聞こえなかったことにして、俺は足早に本宅の自室に戻り、アラベスク模様の銀細工に複数のガーネットをあしらった首飾りを手にした。

 真ん中に垂れさがる石は涙型でかなり大きく、ファセットに切ってある。


 それを握り締めて占い部屋に駆け戻り、ぽいっと小娘の頭に載せた。

 ベールの上からだといえ、嫌いな男に触れられたくはないだろう。


「もう、トリスタン、首飾りも恵茉さんももっと大切に扱って……」

 俺はすぐさま小娘から離れ、母上がベールとネックレスを整えるのを眺めた。


「どう?」と声をかける母。


「あ、とってもいいです、これなら俯いても覗き込んでも大丈夫」

 いろんな姿勢を試してから顔を上げた小娘は、額の真ん中に大きなガーネットが輝き、すぐ下の栗色の瞳をよりエキゾチックに見せていた。


 その姿に俺は、克服したと思った生来の人見知りを激しくぶり返し、まるで物理的に弾き飛ばされでもしたかのような感覚がした。


「神秘的な占い師さんのできあがりだわ」

 母上はご満悦だったが、俺は「君子危うきに近づかず」、非科学的な占い、魔性を隠していそうな妖しげな占い師とは距離を置くと再度心に決めた。



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