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あたしは手相占い師ー異世界で生き抜くためにはこれしかないの  作者: 陸 なるみ


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幼馴染恋愛線(若様ターン)

 

 国防総長である叔父があんなに甘くていいのか?


 俺は図らずも同居することになったあの小娘を、依然として「魔女見習い扱い」している。疑いが晴れるまで、俺自身が納得するまで、だ。


 母上も父上もコロッと騙されやがって。

 手のひらを見せて小娘がたどたどしく説明する性格判断や人付き合いのコツ、将来のことなどに一喜一憂、良いことを言われると手をたたいて喜んだりする。


『左手は生まれ持った運命、右手は自分で築き上げてきた現在から先のことを見せる』なんて、信じられるか?


 俺の運命は、自分で切り拓く。小娘にも自分の手にも、予想も予言もされてたまるか。


 そういう理由で、俺は極力小娘に関わらなかった。


 夕食時だけは家族全員が顔を合わせる約束だから、それだけはしょうがない。


 左腕を預けた三角巾は痛々しいが、母があつらえたこの国のドレスに身をつつんだ占い師は、初対面の時よりかは見栄えがした。


 髪をアップにせずにゆったりと後ろで結んでいるのは、サラサラの黒髪の照り返しを自慢しているのだろう。どこか魔力を秘めているようでつい目を奪われる。


 小娘が現れて数日後だったか、いつものように鍛錬がてら領地内の警備をしていると、アッシュ公爵家の馬車が訪ねて来た。

 玄関前で御者が馬を止め、足台を置き、馬車の扉を開く。


 オレは足早に近づいてその前に立ち、中から出てくる公爵令嬢ジェシカと母親のシェリル様に手を貸した。

 ジェシカは従妹だし、シェリル様は叔母にあたる。


「トリスタンお兄さま、ご機嫌よう。父さまは夕食前に飛んでくるって」

 波打つブロンドが一層美しくなったジェシカは14歳になったぐらいだろうか。


「こちらにお泊りのお嬢さんのお怪我はいかがかしら? 何かお手伝いできるかと湿布などをお持ちしたの」

 とシェリル叔母。彼女は薬草一般に造詣が深い。


「ようこそ、おいでくださいました」

 不調法なオレはそれだけ言って、ふたりを邸内にエスコートした。


 警備服から略礼装に着替えてティールームに顔を出すと、父がお客に小娘を紹介した後だったようで、既にきゃぴきゃぴ占いが始まっていた。

 十代の女子がふたり集まれば、占い無しでもかしましくなるよな。


「この子は遠距離恋愛してるのよ。恵茉さん、恋愛のことも手相に出るものなの?」

 と叔母が聞いている。


「あ、はい、恋愛線と結婚線で観ることができます。でもお若い方はお手が瑞々しくて、細かな線は見えないこともあるので、判るかどうか自信はありません」


 小娘占い師は公爵夫人と話しているせいか、妙に丁寧だ。うちに現れた時なんて俺に応えもしなかったくせに。


 女同士はともかく、父上たちとも話すし、なぜか自分だけがのけ者にされているようで、面白くない。占いなんぞに興味はないとしても、だ。


「あの、恵茉さん、次にいつ彼に会えるかわかる?」

 ジェシカが頬を赤らめながら訊いている。

「あ、それは手相からは読めません」


「あら、ジェシカ、あなたが会いたいと強く願えばルーナスは飛んできてくれるわよ?」

 叔母はすぐさま娘を元気づけようとしたけれど、そんな必要あるか?


 ジェシカとその想い人のルーナスは兄妹として12年間育ってきて、兄じゃないとわかった途端に恋人同士になった。それから2年たった今でも、切っても切れない間柄だ。


 ちょっと隣国に留学中なだけで、ルーナスがジェシカ以外の女に目を向けるわけもない。何を憂うことがある? 


 その上アイツは、瞬間移動は大得意、アッシュ叔父のように今ここに現れたって驚きゃしないよ。

 俺と同い年の18歳のくせに「魔力王者」と呼ばれ何でもできるルーナス。身に備わった魔法体系が違うにしても、妬みも浮かばないほど敵わない。


「ジェシカさん、顔の前で両手を合わせて小指の横側を見せていただけますか?」

 ジェシカは小首を傾げながら占い師の言葉に従った。


「ここに結婚線があるんです。左も右も同じ位置にくっきりとしてますね。素敵なお相手とゴールインするお印です。次に手のひらにペンライトを当てさせていただきますね」

 小娘は万年筆の先に灯のついたようなものを手のひらに当てた。

「あ、はい、見えました。確かに」


「な、何が見えたの? 私の相手はルーナスよね?」

「その方、幼馴染さんですか? 子供の頃からのお知り合いですよね?」


 そこでシェリル叔母がフフッと笑った。

「ジェシカが生まれる前からふたりは恋仲だったみたいなの」

「ああ、それで納得です」

「何が納得なの?」

 ジェシカは胸の前で両手を握り合わせると、占い師の顔を覗き込んだ。


「ジェシカ様はお年の割に恋愛線がくっきりとしていて、それも親指の付け根から結婚線までしっかり繋がってるんです」


「珍しいの?」


「ええ。早くに知り合った方と添い遂げる印です。ほら、あたしの手、ご覧になってください。この線が恋愛線なんですが、とっても薄いでしょ。生命線と重なったところが結ばれる年齢だとも言われるんですけど、それが本当なら私にだってそろそろお相手ができてもおかしくないんですが……」


 占い師は淋しそうに自虐的に笑った。故郷でも思い出しているのだろう。


「私は? いつルーナスと結婚できるの?」

「えっと、ここで生命線と重なってますよね。かなり早いです。18歳前」


「えー、18歳って4年も先よ? 待てないわ」

「待てなくても、他にお相手は現れませんから……」

 小娘がおずおずと囁いた。


 ジェシカの「待てない」はそういう意味じゃない。ルーナスを待てないんじゃなくて、結婚するのが待ち遠しいってことだ。


「ルーナスさんの手相も見れたらいいんですが……」


 似非占い師が言葉を濁したところで紫色の魔素が壁際に見えた。アッシュ公爵出現の兆し。


「手相占いのためだけにルーナス呼び戻すなよ? 邪魔すればするほど帰国が遅れる」


「わかってるわ。だから頑張って我慢してるんだから」

 ジェシカは父親に向かってぷくうと膨れて見せ、ティールームは笑いに包まれた。


トリスタン若様の年齢設定を間違えていました。現在18歳です。ごめんなさい。

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