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第3章 第11話 「訓練の日々」

20210719公開



【‐皇国歴313年「衣月いづき」7日深夜‐】



 今、僕の目に映るのは、真冬の夜景だ。

 星々の光が降り注ぐ平原だ。草が枯れているのが何とか分かる。


 召集されて一月ひとつき近く経ったけど、訓練は厳しさを増していた。

 『何の技術を習得するのか?』を明確にした上で、1日から数日にかけて訓練に励む。

 徹底して反復して訓練する。

 もし、習熟が不十分なら再度訓練が行われる。

 おかげで、初等学校に行っている時よりも濃い時間を過ごしている。

 


「坊ちゃん、用意は良いか? そろそろ命令が出る頃だぞ?」


 隣で待機しているロディーン5等士が小さな声で訊いて来た。

 うん、僕のことを、坊主呼びから坊ちゃん呼びに格上げしてくれたんだ。

 ロディーン5等士は口は悪いけど、意外と面倒見の良い人だ。

 奥さんと、可愛いといつも自慢している3歳の息子さんとご両親が家で待っているそうだ。

 「バルテルストレーム」奪還作戦から帰還して帰宅した夜、息子さんは一晩中離れなかったそうだ。

 そして今回の出征の朝、息子さんは泣きながらも気丈に見送ってくれたそうだ。

 そんな話を聞いたら、何としても帰して上げたくなるな。

 もちろん、僕も絶対に生きて還るけど。

 


「大丈夫です。さっき念の為に確認しときましたから」

「なら、良し。とはいえ、こんな夜中にする訓練じゃないよな」


 確かに・・・


 これから始まる訓練は、気配を消して丘のふもとまで進軍した後、丘の頂上に突撃して一気に攻略する訓練だ。

 いつもなら分隊ごとに訓練するのに、珍しく第3小隊の全分隊が参加している。

 この訓練の前には、簡単な構造の魔道具まで配られたのだから、よほど重視している気がする。

 僕、アイナ、ロディーン5等士の3人は、班長のインゲルソン5等曹が合図を出すのを見つめたけど、待っている時間が長く感じた。

 後方のロセアン分隊長を見つめていたインゲルソン班長がスッと手を振り下ろした。

 インゲルソン班長、ロディーン5等士、僕、アイナ、の順番で縦列になって丘のふもとに向かう。

 見つかりにくい様に、腰をかがめて、足元と進路を交互に見ながらゆっくりと進む。

 背中に背負った背嚢が変に動かない様にきつく締め付けているけど、それでも重心がブレるたびに身体に帯が食い込む。

 前を進んでいるインゲルソン班長とロディーン5等士の背嚢に付けられた目印の魔道具は僕ほどフラフラとしていない。

 後ろを進むアイナの様子は分からないけど、きっと僕と同じ様に苦労をしていると思う。

 

 この事で、ちょっとエルを恨んでも怒られないと思う。

 エルが自分が背負える大きさと重さを基準にして背嚢の大きさを決めたからね。

 エルの『ボディチャージ』の強さと使い方の上手さは大人顔負けだ。

 下手をすれば大人よりもうまく操れるかもしれない。

 それを基準にしてるんだから、凡人の僕たちは苦労して当然だ。


 それに、魔杖弓M16も子供の身体には長いんだ。いざという時は槍代わりにする為だけどね。

 移動中は鏃が出て行く方を下に向けるんだけど、長過ぎて地面をこすりそうになるんだ。こすらない様に気を付けないといけないから、気が休まらない。 

 試し撃ちさせてもらった魔杖弓は短かったんだけどな。

 


 苦労しながら丘のふもとまで辿り着いた後は他の分隊が配置に着くまで、すぐに動ける様に片膝を付いて待機だ。

 距離にすれば短かったけど意外と疲れた。

 待っている間に息を整える。


「よし、行け(GO!)! 行け(GO!)! 急げ(HURRY UP!)!」


 インゲルソン班長の小声の命令と同時に頂上めがけて走り出す。

 自分を鼓舞する為に雄叫びを上げたいけど禁止されている。

 だから、周りから聞こえるのは足音と荒い呼吸音だけだ。 



 丘の頂上で背嚢を外した時に嬉しくなったのは仕方が無い事だと思うんだ。



 苦労した分、頂上から眺める星空は最高だった。




お読み頂き、誠に有難うございます。



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