第3章 第12話 「視察許可」
20210806公開
【‐皇国歴313年「衣月」11日午前‐】
「それで、特任大使、筆頭宿老殿の用件は如何でしたか?」
神聖アースガーズ皇国の皇都に駐在している2等臣の中で、任期が一番長いヤヒヤ・ジャワラが興味を剥き出しにして訊いて来た。
他にも同席している2人の3等臣も似た表情を浮かべておる。
今日、筆頭宿老殿と一対一での会合を呼び掛けられて出掛けたんじゃが、戦に関して何らかの情報が得られるかと期待していたんじゃがのう。
結局、それどころでは無い話を聞かされた。
「まあ、待て。話は果種茶を飲んで、儂の喉を潤してからじゃ」
ジャワラが焦るのも分からないでもない。
本国からはあらゆる事柄で矢の様な催促が来ておるからの。
本国も気が気では無いのだろう。なにせ、隣国で国力が上の皇国が負ければ、明日は我が身じゃ。
皇国でさえ勝てない相手に、我が祖国が勝てる筈もない。
まあ、最悪の場合は無条件で降伏をせざるを得んが、これまでの様な暮らしなど認めて貰えんじゃろう。
それに、ここ最近のフク族どもの動きが怪しいからのう。
活発に動いているのは分かっておるが、その狙いが分からん。
儂のお気に入りの産地の果種茶を若い3等臣が淹れてくれるのを待つ間に、どう説明するかを軽く組み立てる。
いつもなら香りを楽しめるくらいは落ち着いていられるが、今現在はそんな余裕が無い。
「我が祖国による支援に対する感謝の書状を預かって来ておる」
少し喉が潤った後に、説明を始めた。
「加えて、更なる支援も求められたんじゃが、見返りに、例の部隊の視察の許可を出してくれたぞ」
「え、まさか『神童』の部隊ですか?」
「そうじゃ。言うてみるもんじゃのう。意外とあっさりと許可が出たぞ」
ヤヒヤ・ジャワラが驚いた通り、『神童』の部隊は謎に包まれていた。
もちろん、儂らも付き合いのある士家や役士などから情報は集めていたが、一言で言うと『有名だが実態が掴めない』に尽きた。
かなりの数の騎獣を集めているとか、新たな部隊を幾つも新編したとか、人員の補充も活発だとか、そういう外殻に当たる情報は手に入る。
じゃが、どういう構成で、どういう武器で、どういう戦い方をするのか? がさっぱりと分らん。
民草が出しておる情報紙の方が細かい情報を持ってそうなくらいじゃ。一体どこから情報を取って来ているのか知りたいくらいじゃ。儂らでは掴めん情報をぼんぼんと出したくらいじゃからな。
勿論、手に入る全ての情報紙を買い集めて来たんじゃが、戦果は分ったがやはり中身が分からん。
チャイン帝国が皇国に戦いを挑んだ事で、急遽儂が特任大使として再び赴任して来る前から、神童の情報はヤヒヤ・ジャワラがかなり集めていた。それこそ、神童が模擬戦(皇国独自の娯楽じゃな)で頭角を現して来た時からじゃ。
戦になってからは、さほど名を聞かんかったが、実は「タダ村の戦い」で大きな戦功を上げていた事を知ったのは、情報紙に載ってからじゃ。
まあ、最近ではどうやら、この国の母大樹様が大きく関わっている事が分かって来ている。
でなければ、第一皇子派の動きが説明つかんし、巨額としか言えん大金や膨大な物資が神童の部隊に流れ込んでいる事も説明つかん。権勢を誇ったラーレ卿が急速に冷遇されて始めておる事も無縁じゃないのだろう。
「それで、いつ視察出来るのですか?」
「ふむ、明日の後昼刻に迎えに来るそうじゃ。ちなみに招待されておるのは儂とジャワラの2人のみじゃ」
「2人とは少ないですね。とはいえ、少しでも情報を得る良い機会ですな」
視察の結果、可能な限りの支援を引き出すべく、儂自ら祖国に帰る事にしたほどの衝撃を受けたわい。
ここで貸しを作っておかんと、取返しのつかん外交上の瑕疵が生れる。
神童の奴め、戦そのものを変える気か?
皇国が勝っても負けても、神童の名は必ず残る事になるぞ。
お読み頂き、誠に有難うございます。
7月の投稿数3話に対し、7月に公開したブログ記事数が21・・・
更新するモチベーションをどうにかしないと、もっと差が付く気がする今日この頃・・・




