第4章 2:大地の咆哮、暴走重機を救え
「そこね……喰らいなさいっ!」
ラーナがコックピットのコンソールを鮮やかに叩き、生体メンテナンス用アームを精密に操った。
アームの先端に仕込まれたレーザーカッターが、横転したアンキロサウルスの首の隙間に滑り込み、赤く光るリミッターの主要回路をパチンと正確に切断する。
パチパチ、と青い火花が散り、アンキロサウルスの瞳から狂気の赤光がスッと消え去った。
「フシュー……」
高圧の蒸気が抜け、本来の優しい瞳に戻ったアンキロサウルスが、安堵したように静かに横たわる。
「やったよ駆アニキ!まずは一体、救出成功だ」
「喜んでる暇はないのもふ! 正面からトリケラ・ブルドーザーが突っ込んでくるのがおーっ!」
パタがフロントガラスに短い手足をへばりつけて悲鳴を上げる。
見れば、時速40キロを超えたトリケラトプスが、3本の超硬度角をこちらへ向け、大地を削りながら肉薄していた。
まともにぶつかれば、ティラノの装甲ごとコックピットを貫かれる。
「駆アニキ、どうすればいい!?」
冷や汗を流すロッソ。
だが、駆の「骨の目」は、すでに突進してくるトリケラトプスの骨格構造を完全に透過スキャンしていた。
「トリケラトプスは頭部のフリルと首の関節が一体化して強固な盾になっている。正面からの衝撃には無敵だ。だけど、その莫大な突進力を支えているのは、前足の『肩甲骨』のクッション構造。――現代の重機で言えばサスペンションシリンダーだ! 外部電波で出力を限界まで上げられている分、あの子の肩甲骨は突撃の直前、自重の衝撃に備えてグッと頭部を上げる瞬間に、上方向からの力に対して致命的な死角が生まれる! 下から顎を跳ね上げるんだ!」
「下から……アッパーカットだね! よし……合わせろよ、ティラノ!」
ロッソの叫びに応え、ティラノサウルスが自らの意志で咆哮する。
激突の1秒前。
突撃の衝撃に備え、トリケラトプスがその巨頭をわずかに上へと持ち上げた。
その刹那、完璧な死角が駆の読み通りに露出する。
「今だーーーっ!!」
ロッソが手綱(操縦桿)を全力で引き絞った。
ティラノサウルスは強靭な首の人工筋肉を爆発させ、下からトリケラトプスの顎へ向かって、チタン合金の牙をアッパーカットのように激しく叩きつけた。
ドゴォォォォーーン!!!
凄まじい金属衝撃音が響き渡る。
駆の計算通り、前足のクッション構造に強烈な過負荷がかかり、トリケラトプスの巨体が前のめりに大きく浮き上がった。
「すげえよ駆アニキ! アニキが言った通り、恐竜の骨の仕組み(弱点)を狙ったら、本当に一撃で動きが止まった……! 骨格を見ただけで、敵の次の動きまで全部分かっちゃうなんて魔法みたいだ!」
ロッソが興奮で声を上ずらせる。
「ラーナさん、リミッターを!」
「任せなさい!!」
ティラノの牙がトリケラの頭部を押さえつけているわずか数秒の間に、ラーナのバイオアームがリミッターのコードを正確に引きちぎる。
火花が散り、トリケラトプスがどすんと大地に頽れた。その瞳から狂気が消え、ふぅ、と静かに大きな鼻息が漏れる。
「やった……やったのぱた! 2体とも助けたのもふ!」
パタがコックピット内で飛び跳ねて喜ぶ。
その頃、破壊された工事現場の物陰には、一台のデイノニクスに跨った男が身を潜めていた。
泥を綺麗に拭い去ったものの、相変わらず大袈裟な肩パッドを身につけたバルト隊長である。
彼は、散り散りになった部隊を再編成する前に、様子を探ろうとここに戻ってきていた。
「……バカな」
バルトは、手綱を握る手が小刻みに震えるのを抑えられなかった。
自国が誇る最新の精神操作リミッター。
あれが起動した恐竜は、脳を焼き切られるような激痛のなかで、ただの無慈悲な破壊兵器と化す。
一度暴走すれば、殺処分にするしかないというのが、彼のいる軍の常識だった。
それを、あのボサボサ髪の男(駆)は、傷一つつけずに救い出してみせた。
それどころか、あの一見して獰猛なティラノサウルスが、自らの意志で人間を守り、救われたトリケラトプスたちが、感謝を伝えるように静かに鼻息を漏らしている。
「恐竜が……人間を信頼して、自ら動いているというのか……?」
バルトは自分の足元のデイノニクスを見つめた。
リミッターヘッドギアを嵌められた愛車は、生気のない目でただじっと佇んでいる。
バルトの胸の奥で、かつて純粋に恐竜を愛していた頃の記憶が、激しく疼き始めていた。
リミッターで心を殺し、命を削って兵器として使い潰すキルガ軍のやり方に、彼は初めて、決定的な疑問を抱き始めていた。
「隊長! 本隊から緊急通信です!」
物陰に飛び込んできた通信兵の声に、バルトはハッと我に返った。
「な、何だ! 急に大声を出すな、カッコつかないだろうが!」
「す、すみません! ですが、キルガ総帥から直令です。この街へ向けて、例の『ギガノトサウルス型超巨大破城兵器』が実戦投入されたとのことです!」
「……何だと!?」
バルトの顔から、いつものコミカルな色が完全に消え去った。
あれは、心を殺すだけではない。
恐竜の命そのものを燃料にして走る、狂気の生体兵器だ。
バルトはもう一度、遠くで恐竜たちの泥を拭ってやっている駆たちの姿を見た。
「ええい、クソ真面目な侵略者もおしまいだな……」
バルトは深くマントを翻すと、デイノニクスに拍車をかけた。彼の心の中で、何かが確実に変わり始めていた。
(第4章・完 / 第5章へ続く)
恐竜・古生物重機図鑑(第4章)
【アンキロサウルス(超振動削岩・粉砕重機仕様)】
弱点(骨格特性): 尾の超振動ハンマーを振る際、強烈な反動を逃がすため、打撃の直前に必ず「右の後ろ脚」へ全体重を集中させる。外部電波で出力を無理やり上げられている状態では、この右膝の人工筋肉にかかる負荷が限界を超え、一時的な硬直と致命的な死角を生み出す。
【トリケラトプス(装甲型ブルドーザー仕様)】
弱点(骨格特性): 突撃の超重量を受け止めるため、前足の「肩甲骨」に生体サスペンション構造を持つ。時速40キロを超える突進の直前、自重の衝撃に備えてグッと頭部を持ち上げる習性があり、この瞬間だけ上方向への応力分散がゼロになり、下から顎を跳ね上げる衝撃に対して前足のクッション構造が完全にロック(過負荷壊滅)される。




