第4章 1:大地の咆哮、暴走重機を救え
バルト隊長が去った直後、南区画の開墾現場の方角から、空気をビリビリと引き裂くような異様な地鳴りがドックまで伝わってきた。
「ピギッ!? な、なんだか遠くの空気がピリピリして嫌な感じがするのぱう……」
駆の頭の上で、パタが感覚毛を逆立てて怯え始めた。
「……おかしいな」
駆は普段の冴えない学者の顔から、一瞬で鋭い「天才スイッチ」へと切り替わった。
双眼鏡を覗き込み、開墾現場で動いている恐竜たちの姿を凝視する。
「トリケラトプス(ブルドーザー)の歩行周期が狂っている。前足のサスペンションの圧力が異常に高すぎるんだ。あれじゃあ、まるで自重を無視して限界以上のトルク(出力)を強制的に絞り出されているようだ」
「え……? でもあの子たちの操縦士は、みんなドックの腕利きの職人たちよ? そんな無茶な動かし方をするはずが――」
ラーナの言葉が終わるより早く、南区画の防壁が爆音と共に内側から粉砕された。
ドゴォォォォーーンッ!!!
「ギャオォォォォーーンッ!!」
土煙の向こうから現れたのは、目を血走らせ、狂ったように周囲の建物を破壊し始めたアンキロサウルス削岩機だった。
その巨大な尾の超振動ハンマーが、本来の工事対象ではない一般の民家を容赦なく打ち砕いている。
「そんな、どうしちゃったのよアンキロー!」
ラーナが悲鳴を上げる。
駆はさらに目を凝らし、アンキロサウルスの首の付け根に、不自然な火花を散らしている『金属製のヘッドギア』を見つけた。
バルトのデイノニクスたちが嵌めていたものと、全く同じ構造の機械。
それが、恐竜たちの肉体に無理やりバイオ電流を流し込んでいる。
「……そういうことか。謎が解けたよ、ラーナさん」
駆は双眼鏡を降ろし、静かに呟いた。
「彼らは暴走しているんじゃない。向こうの方角から響いた人工的な重低音――
あれはただの咆哮じゃない、『精神操作用の超低周波電波』だ。あの電波が、恐竜たちの頭部にあるリミッターを外部から強制起動させ、脳を焼き切るような激痛で彼らの感情を殺し、操り人形(兵器)に変えたんだ!」
現代の科学が知る由もなかった、超古代の『恐竜兵器システム』。
その悪辣な仕組みを、駆の知恵が一瞬にして暴き立てた。
「そんな……じゃあ、あの子たちは苦しんでるっていうの……!?」
ラーナが琥珀色の瞳を怒りと悲しみに震わせる。
「あの子たちを壊させはしないわ! ロッソ、ティラノを出すわよ!」
「応! 駆アニキ、ラーナ姉ちゃん、乗ってくれ!」
ティラノサウルスの胸部ハッチがウィーンと開放され、3人と1匹がコックピットへ滑り込んだ。
内部はシリンダーとメーターが並ぶ、ハイテクな空間だ。
手綱(操縦桿)を握るロッソの横で、ラーナが計器のバイオバルブを急速調整していく。
「ティラノ、僕らの力を貸してくれ……!」
ロッソが手綱を引き絞ると、ティラノの生体モニターが鮮やかな緑色に優しく発光した。
心を殺された敵の兵器とは違う。
このティラノは、自らの意志で主人のために戦うことを選んでいる。
「ガガガガガッ!」
突風を巻き起こし、眼前に立ちはだかるアンキロサウルス。
さらにその後ろからは、巨大なフロントブレード(角とフリル)を下げたトリケラトプスブルドーザーが、時速40キロ以上の猛スピードでこちらへ向かって突撃してきていた。
「まともに行ったら、ティラノの装甲だって引き裂かれるわよ! どうするの駆!?」
ラーナが叫ぶ。
「ロッソくん、まずはアンキロだ! あの子は超振動の反動を逃がすため、尾を振る直前に右の後ろ脚へ全体重をかける。リミッターで出力を無理やり上げられている分、右膝のバイオサーボ(人工筋肉)にかかる負荷は限界を超えている。そこを狙うんだ!」
「分かった! いけええ、ティラノ!」
ロッソが操縦桿を激しく押し込む。
ティラノ重機が地を蹴り、驚異的な瞬発力でアンキロサウルスの側面に回り込んだ。
「今だ、噛み砕け!」
ティラノのチタン合金の牙が、アンキロの右後ろ脚の金属フレームを、傷つけない絶妙な強さでガチリとホールドした。
「ギャンッ!?」
バランスを崩し、巨体が横転する。
「ラーナさん、今だ! 転倒した隙に、首の付け根にあるリミッターの配線をカットしてくれ!」
「言われなくたって、もう準備万端よ!」
ラーナがコックピットのサブパネルを叩くとティラノの背中から、メンテナンス用の小型バイオアームが飛び出し、アンキロの頭部に迫った!
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