第2章 3:咆哮するチタンの牙
誰もが諦め、殺処分するしかなかった暴れティラノサウルスを、振動時 駆は「骨格のズレ」を指摘しただけで完璧に修理し、手懐けてみせた。
「ほら、ぼさっとしないで駆! 今日は南区画の大開墾ルートの現場に行くわよ。あんたのその『骨マニア』な知識が、本当に使い物になるかテストなんだから!」
翌朝、ドックの入り口で、ラーナが腰に工具袋をぶら下げ、小走りで駆を急かした。
「あ、待ってよラーナ姉ちゃん、駆アニキ!」
後ろからロッソが、すっかり大人しくなったティラノサウルス解体機の足元から笑顔で付いてくる。
昨日、相棒を救ってもらったロッソは、駆のことを心からの尊敬を込めて「アニキ」と呼ぶようになっていた。
案内された大規模な土木工事現場は、まさに「恐竜重機」たちのパラダイスだった。
現代の最新テクノロジーでも何ヶ月もかかるような巨大な山切り崩し作業が、生体メカたちの圧倒的なパワーで進められている。
「うわあ……壮観だな……」
駆の目は、現場に足を踏み込んだ瞬間から、再び少年のように輝いていた。
「ズ、ズゥン!」と地響きを立てて土砂を押し出しているのは、頭部に頑丈な超硬度装甲をバイオカスタムされたトリケラトプス(ブルドーザー)だ。
その強靭な三本の角と首のフリルは、土砂を受け止める排土板そのものの役割を果たし、一歩踏み出すたびに大量の土塊を押し退けていく。
そのすぐ隣、硬い岩盤の層に立ち向かっているのはアンキロサウルス(削岩・粉砕機)だった。
尾の先端にある数トンもの重量を持つ巨大な骨の塊には、超振動を発生させるバイオシリンダーが組み込まれている。
「位置よし! 叩け、アンキロー!」
操縦士の合図とともに、尾が凄まじい速度で一閃。
――ガガガガガッ! ドゴォォン!
火花を散らしながら、一瞬にして硬い岩盤が細かな砂利へと粉砕されていった。
「なるほど……アンキロサウルスの尾の腱は、強烈な打撃の反動を吸収するために、あんな風に幾重にも硬化していたのか。現代の油圧ブレーカーのダンパーそのものだ!」
駆は現場の職人に白い目で見られながらも、化石では分からなかった「生きた生体工学」の美しさに大興奮し、スケッチブックに猛烈な勢いで構造を書き留めていく。
「ちょっと、下ばっかり見てないで上も見なさいよ」
ラーナが呆れ顔で上空を指差す。
見上げると、抜けるような青空を優雅に舞う巨大な翼があった。
プテラノドン(測量ドローン兼・軽輸送機)だ。
その長い嘴の先には、超古代の光学測量レンズがカスタム装着されている。上空から工事現場全体の立体的な地形データを正確に測量し、それを地上へ送信しているのだ。
時折、翼の付け根に取り付けられた特殊なコンテナから、現場で足りなくなった小さな工具や設計図の筒を、正確に職人たちの足元へ投下していく。
「あいつらは測量のプロよ。プテラノドンの脳のジャイロ機能(平衡感覚)は、どんな精密機械より正確だからね」
ラーナが自慢げに胸を張る。
「本当に素晴らしい。ここでは人間と彼らが、完全なパートナーとして信頼し合っているんだね」
駆の純粋な言葉に、ラーナは少し照れくさそうに視線を外した。
「……まあね。感情が通じ合わないと、そもそも操縦用の手綱が拒絶反応を起こして動かないのよ。だから、あの子たちは家族みたいなもの」
そう語るラーナの横顔を見て、駆はふと思う。
(こんなに優しくて暖かい世界が、なぜ未来の僕の時代には『ただの絶滅した骨』になってしまうんだ……?)
そんな駆の疑問を見透かしたかのように、現場の騒音の向こうから、カラン、カランと不気味な鈴の音が近づいてきた。
人混みを割って現れたのは、全身を黒いボロ布で包んだ、盲目の老女だった。
「行く末から来た異邦人よ」
未来を視ると噂される占い婆のバルバが、正確に駆の方を向いて、しわがれた声で囁いた。
「幸せな日常に目を奪われるな。大いなる滅びの足音が、すぐそこまで迫っている。お前たちがいくら足掻こうと、この世界の運命を変えることはできぬ……」
「ば、婆さん、何を不吉なことを言ってるんだよ!」
ロッソが慌てて割って入るが、バルバ婆さんはただ静かに首を振る。
「だが……絶望するな。お前たちが紡ぐ『骨の記憶』だけは、万年の時を超えて、いつかお前のいた未来の空へと届けるだろう。その約束を忘れるな、このバルバからの予言を決して忘れるでないぞ」
そう言い残し、婆さんは人混みの中へと消えていった。
「な、何だったのよ、気味の悪い……」
ラーナが身震いする。
しかし、駆の顔はそれ以上に強張っていた。
占い婆バルバが遺した「大いなる滅び」という不吉な言葉、駆の脳裏をよぎったのは、現代の科学が証明している「絶対の歴史」だった。
(……まさか、あの『巨大隕石の衝突』が、僕のいるこの時間軸に迫っているというのか!?)
何千万年もの間、地球の王座に君臨した恐竜たちを一瞬で消し去った、宇宙からの厄災。
それが近づいているのだとしたら、人間ごときの科学や土木技術で抗えるはずがない。駆の背中に冷たい汗が流れた。
駆がそんな未来への恐怖に囚われた、その瞬間だった。
――ウォォォォォン!!!
遥か最果ての方角から、聞いたこともない不気味な、そして人工的な重低音の咆哮が、居留区全体に響き渡った。
隕石ではない。
それは、平和な日常の終わりを告げる、要塞勢力の「恐竜兵器」の咆哮だった。
(第2章・完 / 第3章へ続く)
恐竜・古生物重機図鑑(第2章)
【トリケラトプス(装甲型ブルドーザー仕様)】
分類: 角竜類(白亜紀後期)
重機用途: 大規模な土砂の押し出し、不整地の整地、岩盤のブレード排土。
カスタム特徴: 頭部の頑丈なフリルと三本の角を「排土板」として強化。前足の関節に強固な生体サスペンションを組み込み、数トンもの土砂を力任せに押し退ける際の衝撃を完全に吸収する。大地を切り拓く土木工事の主役。
【アンキロサウルス(超振動削岩・粉砕重機仕様)】
分類: 曲竜類(白亜紀後期)
重機用途: 硬い岩盤の粉砕、トンネル掘削時の削岩、解体材の微細粉砕。
カスタム特徴: 尾の先端にある骨の塊に、高周波の超振動を発生させるバイオシリンダーを内蔵。これを一閃させることで、現代の重機の油圧ブレーカーを遥かに凌ぐ破砕力を発揮する。
【プテラノドン(空中測量ドローン・軽輸送仕様)】
分類: 翼竜類(白亜紀後期)
重機用途: 上空からの三次元地形測量、進捗管理、緊急工具・設計図の軽輸送。
カスタム特徴: 長い嘴の先に超古代の光学測量レンズを換装。脳の卓越したジャイロ機能(平衡感覚)を活かし、上空を正確に旋回しながら進捗データを地上へ転送する、現場の「目」となる飛行メカ。




