第12章 1:神秘の刻印、占い婆の予言 【カラン、カラン……】
ブラム将軍の襲撃を退けてから数日。
大破して動かなくなったティラノサウルスをドックへ格納した駆たちは、相棒を修復するための応急処置の薬材や、未知の骨格カスタムに関する情報を集めるため、居留地の心臓部にある中央市場へと足を運んでいた。
だが――
白亜紀の市場の現実は、彼らの意地を嘲笑うかのように冷酷だった 。
市場のなかにひしめく無数の資材ハッチや行商人のテントを隅から隅まで駆の骨の目で透過スキャンし、全員で直接あらゆる職人たちへ聞き込みを繰り返して調べ尽くしたが、大破した黒チタンを加工できるような情報は、何一つとして得ることはできなかった 。
「……クソッ、全滅だ 。黒チタンを扱えるような凄腕の鍛冶職人の手がかりなんて、どこの行商人テントにも載ってねえぞ……っ」
バルト隊長が悔しげに拳を握り締め、ドックの仲間たち全員が、市場の喧騒の真ん中で「何も情報は得られなかった」という最悪のエラーを前に、完全に冷たい絶望のなかに途方に暮れて中央市場の大通りを歩くのだった。
「わあ……! すごい賑わいなのもふ! 美味しそうなバイオフルーツがいっぱい並んでるのぱた!」
駆の頭の上でパタが短い羽をパタパタさせ、珍しく目を輝かせる。
「これ、レオン! ポストスクスの荷車の後ろから飛び降りちゃダメって言ったでしょ!」
最強のママ・カルラが、6歳の息子の襟首をガシッと掴む。
その後ろでは、金髪のオールバックを固めたバルト隊長が、ハンスやカイルたち独身組を従えて、市場の賑わいに「元・隊長としての威厳を見せてやる」とカッコつけていた。
「ルナちゃん、お外はあったかくて気持ちいいねぇ」
父親になったギルが、ソフィアの腕の中でスヤスヤと眠る赤ん坊のルナを愛おしそうに見つめている。
重機パーツの手がかりを探すラーナとロッソの表情はまだ硬かったが、生まれたばかりの新しい家族のぬくもりが、傷ついた一行の心を静かに癒やしていた。
そんな賑やかな買い物の人混みを割って、カラン、カラン……と不気味な鈴の音が近づいてきた。
現れたのは、全身を黒いボロ布で包んだ、あの盲目の老女――占い婆のバルバだった。
「……待っていたよ、行く末から来た異邦人」
バルバ婆さんは正確に駆の方を向き、しわがれた声で囁いた。
「あの時の――たしか。バルバさん! そうだ! 『骨の記憶』っていったい――」
駆が言いかけた瞬間、バルバ婆さんは、遮るかのように「この子の名前は?」とソフィアに問いかけた。
「……ル、ルナです……っ」
市場の喧騒のなか、ソフィアが戸惑いながらも、我が子を抱く腕をぎゅっと引き締めて愛おしそうに答えた。
「ルナ、か……。良い名前を貰ったね」
バルバ婆さんはフッと不敵に笑うなり、ソフィアの抱いていた赤ん坊のルナの方へと、ゆっくりと、その皺だらけの右手を伸ばしルナの小さな額へと優しく触れる。
「……ふむ。やはり、そうかい。この子に『ルナ』と名付けたのも、あの黒い太陽《日食》の日に生まれたのも、すべては避けられぬ大いなる運命《因果》だったのだねぇ」
バルバ婆さんはフッと静かに微笑むと、駆に向き直った。
「お主、胸のポケットにある、あの『月のマーク』が入ったリングを出してみな」
「なっ……なぜそれを!?」
駆は驚愕し、周囲に会話が漏れないよう、こっそりと懐から鈍色に輝く【ルナリング】を取り出し、バルバの前にかざした。
バルバはカサカサの手でそのリングの表面をそっとなぞると、深いため息をついた。
「やはり、間違いない……。そのリングはねぇ、もともと私が、何十年も肌身離さず持っていた、私の大切な持ち物だったのだよ」
「ええっ!? バルバさんの持ち物だったのかい!」
駆が目を見開く。
「そうなのさ。だがねぇ、ある日、私の前から忽然と消えてなくなってしまっていたのさ。泥棒に盗まれたのか、それとも時空の隙間に落ちたのか……。」
「まさか、万年の時を超えて、お主の手へと渡り、再び私の目の前へ戻ってこようとはねぇ……。ルナという名がここに集まったのも、すべては決まっていたことなのかもしれないねぇ」
バルバ婆さんの衝撃の告白に、駆の脳細胞は激しく震えた。
(バルバさんの手から消えたリングが、万年の歳月を経て、現代のエジプト遺跡で僕に発掘された……。
そして僕がタイムスリップしてここへ戻り、ルナが生まれた日に『月のマーク』が刻まれて、今、再びバルバさんの前に戻ってきた。
歴史の因果が、完璧な円を描いて繋がっている!)
「お主たちがこれから進むべき道は、北の極寒の大地さ」
バルバ婆さんはリングを駆の手に戻し、静かに告げた。
「そこには、未来をひらく『鍵』との出会いがあるはずさ。歴史の運命に抗うための『救いの骨』を、その手で掴んでくるがいい」
「そのリングは預けておくよ」
バルバ婆さんはそう言い残すと、カラン、カランと鈴を鳴らし、再び人混みの中へと消えていった。
「……北の、極寒の大地」
駆はリングを強く握りしめ、「ただ信じてくれとしか言えないけど、行ってみないか」とラーナとロッソを見つめた。
「他に手は無さそうだしね。信じるよ/信じてあげる」
ラーナとロッソは顔を見合わせ、同時にそう応じた。
二人の瞳にも、もう迷いはなかった。
彼らは相棒を救うため、そしてルナリングが示した運命の先へ進むため、北の極寒の地へと旅立つ決意を固めるのだった。
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なろうは、みてみんを通してるので画像荒目だと思います。
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