第8章 2:鉱物の発掘とティラノの牙の改造【そこまでよ!】
「おい、そこは崩落の危険があるのもふ! 下ばっかり見てたら頭をぶつけるのぎゃお!」
松明の炎が怪しく揺れる漆黒の地下洞窟。
駆の頭の上でパタが感覚毛を震わせ、短い手足で周囲の岩肌を指差した。
南区画のさらに地下、前人未到の未開鉱脈。
黒チタン鉱が放つ微微たるバイオフラックス(生体磁場)を頼りに、駆たちはパキケファロサウルス型『超高圧岩盤発掘重機』を先頭にして、暗い地下迷宮を突き進んでいた。
「パキケ、あの正面の断層をぶち抜いて!」
ラーナの指示に、発掘重機が力強く前足を鳴らした。
頭頂部のダイヤモンドドリルが毎分3000回転という凄まじい超高速で回転し、バイオピストンの駆動音が洞窟内に鳴り響く。
――ガガガガガガガガガッッッ!!!
火花が激しく飛び散り、現代のいかなる大型シールドマシンをも凌駕する圧倒的な掘削力で、行く手を阻んでいた硬質な岩盤が一瞬にして細かな砂利へと砕け散っていく。
駆はその反動を完璧に吸収している背中のバイオダンパー(減衰シリンダー)の骨格連動に、再び天才スイッチを入れて目を輝かせていた。
「見事だ……! 堅頭竜類の頸椎の並びが、ドリルの衝撃を縦方向の応力へ完璧に逃がしている。だから脳に1ミリのダメージもいかないんだ!」
「感心してる場合じゃないわよ駆! 見て、ドリルの刃の先!」
ラーナがランタンを掲げた先、砕けた岩肌の奥から、不気味なほど深い漆黒の輝きを放つ結晶が姿を現した。
「……黒チタン鉱だ!」
ロッソが歓声を上げる。
これさえあれば、ティラノサウルスの牙と爪を最強の硬度へと鍛え直すことができる。
しかし、駆たちがその奇跡の鉱石を手に入れようと一歩踏み出した、その瞬間だった。
暗闇の奥から、チチチチチ……と、無数の不気味な虫の羽ばたきのような、地を這う足音が響き渡ってきた。
「ピギッ!? な、何かが大量に押し寄せてくるのぱう! 生体反応が、1、2……10頭、いや、もっといるのぎゃおーっ!」
パタが駆の髪の毛に文字通りしがみついて悲鳴を上げる。
松明の光の境界線に現れたのは、体長わずか60センチほどのごく小さな肉食恐竜、『コンプソグナトゥス』の大群だった。
それらは頭部に簡易的なバイオインカムを装着され、カチカチと鋭い顎を鳴らしながら、完全に統率された軍隊のように駆たちの周囲を瞬く間に包囲していった。
「な、何よこのチビちゃんたちは……! 敵の斥候部隊!?」
ラーナがスパナを構える。
だが、暗闇の奥から現れたのは、キルガ要塞軍の厳めしい軍人ではなかった。
「――そこまでよ。それ以上、私たちの里の鉱脈に手を出すのはやめてもらうわ」
凛とした、けれどどこかあどけなさを残した少女の声が響いた。
現れたのは、肌を露出した野生味溢れる衣服を纏った、ラーナたちと同世代の少女だった。
彼女の細い指先には、他の個体より一回り大きく、美しくカスタムされた『1頭の司令塔』となるコンプソグナトゥスが鎮座していた。
駆の「骨の目」が、その少女の指先と、周囲を囲む無数の個体たちの連動性を一瞬にして見抜いた。
「……すごいシステムだ。彼女は全員に指示を出しているんじゃない。指の上の『1頭』へ、手綱型の伝達神経インターフェースを通じて思念の指令を出しているだけだ」
「その1頭の骨伝導の超音波が、周囲の『9頭』を完全に、同時に、自律駆動させている……!」
「私のコンプ部隊を、ただのチビちゃん扱いしないことね」
少女が不敵に微笑み、指をパチンと鳴らした。
その瞬間、10頭のコンプソグナトゥスが一斉に跳躍し、鋭い牙を剥いて駆たちへと襲いかかってきた!
(第8章:完 / 第9章へ続く)
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