第8章 1:鉱物の発掘とティラノの牙の改造
「おいハンス! そこじゃない、もっと右側のバイオシリンダーを締めろ! 緩んでるぞ!」
朝の爽やかな青空が広がる重機ドック。
金髪のオールバックをビシッと固め直したバルト隊長が、大柄なハンスに向かって、マントを翻しながら大声を張り上げていた。
バルト部隊の面々は、すでにドックの頼もしい「整備助手」として、朝から汗を流して働いていた。
「はいはい、泥んこダイブ元・隊長さん、偉そうに指図してないで、あんたも手を動かしなさいよ」
厨房から大きな鍋を抱えたカルラが顔を出し、豪快に笑いとばす。
「カイル、トード、スープができたわよ! 早く作業を切り上げて食べなさい!」
「お、おう! 了解した、カルラ!」
相変わらず妻のカルラには頭が上がらないバルトを見て、ドックの職人たちからも温かい笑い声が溢れていた。
「ルナちゃん、今日もとってもいい子なのもふ。ミルクをいっぱい飲んでお利口さんなのぱた」
ドックの隅の木陰では、ソフィアが抱く赤ん坊のルナの横で、パタが短い羽を優しくパタパタさせながら、子守りのように寄り添ってじゃれている。
そんなのどかな日常のなか、駆とラーナ、そしてロッソの3人は、ティラノサウルス解体機の前に集まっていた。
「……やっぱり、チタン合金の牙の摩耗が激しいな」
ロッソがティラノの鼻を撫でながら、その鋭い牙を見つめて小さく息を吐いた。
駆がティラノサウルスの巨大な顎を見上げながら、天才スイッチを入れて、静かに、けれど確信に満ちた声で語り出した。
「先のアイゼン将軍のポストスクスとの激戦で、上空から10トンの自重を叩きつけたからね。」
「骨格は無事だけど、建造物を噛み砕くためのチタンの歯の表面に、目に見えない微細なクラック(ひび割れ)が無数に入っているんだ。」
「このままじゃ、次の戦闘で牙が完全に砕け散るだろうな」
「今のドックにある予備のチタンじゃ、強度が足りないわ」
ラーナが父親ガロンの形見のスパナを胸に抱きしめ、琥珀色の瞳を曇らせる。
「もっと純度の高い、地下深くに眠る伝説の希少鉱物『黒チタン鉱』を発掘して、牙と爪を根本から鍛え直すしかないか……。」
「でも、あの硬い岩盤の底を掘り進めるには、普通の重機じゃ刃が立たないわよ」
「それなら、あの子の出番だね、ラーナ姉ちゃん!」
ロッソがドックのさらに奥、まだ駆が見たことのない特別な『発掘専用ドック』のレバーを引いた。
重厚な生体隔壁がウィーンと音を立てて開き、中からズゥン、ズゥンと、重戦車のような足音を立てて姿を現したのは、全身が極厚のトゲ付き装甲で覆われた、中型の鎧竜――『パキケファロサウルス』だった。
しかし、その姿は駆の知る化石とは完全に異なっていた。
その特徴的な分厚い頭頂部(頭の骨)には、超高圧の油圧式ピストンと、超硬度ダイヤモンドでコーティングされた巨大な「掘削用ドリル(ドリルヘッド)」が、バイオフレームで強固にボルト留めされていたのだ。
背中には、激しい打撃の反動を吸収するための巨大な減衰シリンダーがそびえ立つ、完璧な「超高圧岩盤発掘重機」だった。
「すごい……! パキケファロサウルスの、あのドーム状の頭骨の応力分散(衝撃を逃がす構造)をそのまま利用して、毎分3000回転のドリルを打ち込むシステムか!」
駆の目が爛々と輝き、猛烈な勢いでスケッチブックにその美しい骨格を書き留め始めた。
「あいつの名前は『パキケ・ドリル』。どんな大岩盤でも、頭突き一発でトンネルを掘り進める、うちのドック自慢の発掘のプロよ!」
ラーナが誇らしげに胸を張る。
「よし、みんなで南区画の最深部にある、黒チタンの鉱脈へ向かおう。ティラノを最強の解体機へ進化させるんだ!」
駆の力強い言葉に、ロッソもバルトたちも力強く頷いた。




