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『プロジェクト・ジュラ~恐竜は超古代文明の生体重機でした~』  作者: KYORyu


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第7章 1:約束のスパナ【核心に触れる8年前の空】

 8年前。


 鉄鉄の居留区の南区画にそびえる、巨大な鉱山開墾ルート。


 蒸気とオイル、そして恐竜たちの猛々しい咆哮が響き渡るその場所で、二人の男が豪快に笑い合っていた。


「おいガロン! サスペンションの調整はバッチリか!? 今日はトリケラトプスのフロントブレードを限界まで押し込むぜ!」


 操縦席(コックピット)から身を乗り出し、親指を立てて叫んだのは、ロッソの父親であるバロムだった。


 手綱(操縦桿)を握るその姿は、のちの息子のロッソにそっくりだったが、技術はすでに一流のベテラン操縦士だ。


「当たり前だろ、誰に向かって言ってやがる!」


 下から巨大なスパナを掲げて見返したのは、ラーナの父親――ガロンだった。


 ガロンは腕まくりした腕に油汚れをつけ、琥珀色の瞳を輝かせる凄腕の生体整備士(メカニック)。


 二人は同じ村で生まれ育ち、互いの腕を信頼し合う、誰よりも固い絆で結ばれた親友だった。


「ガローーン! 今日もトリケラが最高のコンディションだのもふ!」


 ガロンの足元で、当時からドックにいたパタが短い羽をパタパタとさせていた。


 その様子をドックの入り口から嬉しそうに見守っていたのは、ガロンの妻であるメリアだった。


 彼女の傍らには、すでに物心がついた8歳のラーナと、まだ4歳になったばかりの幼いロッソが並んで座っていた。


「あなた、あまり無理しないでね。ラーナがあなたのかっこいいスパナ捌きをずっと見てるわよ」


 メリアの声に、ラーナはお父さんの持つ大きなスパナを見つめ、「うん! 私、パパの整備を全部覚えるんだから!」と目を輝かせていた。


 幼いロッソは「ガロンの叔父ちゃん、僕のパパのトリケラをよろしくね!」と無邪気に笑っていた。


 誰もが、その平和な日常が永遠に続くものと信じて疑わなかった。


 ――だが、悲劇は突如として訪れた。


 ズズズズズ……ドゴォォォォーーンッッッッ!!!


 大地を激しく引き裂くような、悍ましい轟音が鉱山全体に響き渡った。


「岩盤崩落だ!! 坑道が崩れるぞ! 全員退避しろ!!」


 作業員たちの悲鳴が響く。

 何千トンもの巨大な岩石がドミノ倒しのように崩れ落ち、バロムたちが作業していた採掘現場を完全に埋め尽くした。


「あなた!!」


 ドックの入り口で、メリアが叫ぶ。


 もうもうと立ち込める土煙の向こう、崩落の直下には、巨大な岩に手足を挟まれ、激痛に泣き叫ぶ一体のトリケラトプスがいた。


 さらにそのコックピットには、衝撃で意識を失ったバロムが取り残されていたのだ。


「クソッ、二次崩落が来るぞ! 近づくな、死にたいのか!」


 周囲の作業員たちがガロンの身体を必死に押さえる。


 しかし、ガロンは親友と恐竜の危機に、その目を鋭く光らせた。


『あの子の脚のバイオチューブを今すぐ緩めて圧力を逃がしてやらなきゃ、人工筋肉が破裂して二人とも死んじまう! 俺が行かなくて、誰が行くんだ!!』


 ガロンは周囲の手を強引に振り払うと、片手にその大きなスパナだけを持って、崩落の続く暗い坑道の奥へと一人で飛び込んでいった。


 上空から容赦なく巨大な岩が降り注ぐなか、ガロンはトリケラトプスの足元へ這いつくばり、凄まじい手際でスパナを走らせた。


「頼む……動いてくれ!!」


 バイオ圧力を逆流させ、ロックされていた関節のボルトを強引に叩き切る。


 フシューーーッ……!


 ガロンの整備により、トリケラトプスの瞳に光が戻った。


 意識を取り戻したバロムが手綱(操縦桿)を引き、トリケラトプスは最後の力を振り絞って崩壊する坑道から外へと脱出した。


 だが、親友と恐竜が安全な光の中へと固定された、まさにその刹那――。


 バリバリバリ、ドゴォォォォーーンッ!!!


 それまでを遥かに上回る大規模な二次崩落が、ガロンの頭上を完全に直撃した。 


「ガロンーーーーーーッッッッ!!!!!!」


 バロムの絶叫が、夕闇の鉱山に虚しく響き渡る。

 坑道は跡形もなく、冷酷な巨岩の山へと変えられていた。



 数日後。

 居留区の中央広場で行われたガロンの【骨還式(こっかんしき)の儀】は、彼を慕う多くの職人たちや、彼に救われた恐竜たちが何十頭も集まる、見たこともないほど大きくて厳かな葬送の場となった。


 誰もが涙を流し、偉大なメカニックの死を悼んでいた。


 その時、白亜紀の夕暮れの空には、一生に一度目撃できるかどうかの神秘的な天体現象が訪れていた。


 まだ太陽の残光が残る薄明のグラデーションのなか、西の地平線へと沈みゆく太陽のすぐ傍らに、月、そして遥か彼方の惑星たちが、天空のひとつの軌道の上に、まるで目に見えない糸で結ばれたかのように完璧な一直線の数珠繋ぎとなって並び立っていた。


 昼間でありながら青白く、そして眩く並んだ星々のライン――年に一度の【惑星直列の刻】だ。


 普通の人間にはただの美しい天体ショーにしか見えない。だが、大草原に佇む恐竜重機たちの生体コアだけは、その星々が完璧に並んだ瞬間、空間の磁場(バイオフラックス)がトクン、と熱を帯びて激しく脈打ち始めたことを、肌でビリビリと体感していた。


 その見えない宇宙の引き合いの刻、神秘の星のラインの真下で――。

 まだ4歳だった幼いロッソは、何が起きたのかも分からず、ただ棒立ちのまま、冷たい地面を見つめてポロポロと涙を流し続けていた。


 大好きなガロンの叔父ちゃんが、もう二度と戻ってこないということだけを、本能的に察して怯えるように。


 そのロッソの隣で、ラーナはお父さんの形見となった、油汚れのついたあの大きなスパナを、痛いほど強く胸に抱きしめていた。


 彼女の琥珀色の瞳からは、止めどなく大量の涙が溢れ、頬を濡らしていた。

 けれど、その涙の奥にある瞳の光は、絶望に曇ってなどいなかった。


 お父さんが命を落としたこの惑星直列の刻へ、そして自分の運命へ向かって、誓うように叫んだのだ。


「私、……! 絶対にパパに負けない世界一の生体整備士になってみせるから!! だからパパ、ずっと見てて!!」


 流れる涙の中に宿る、あまりにも強烈で、気高き職人の強い意志。


 その少女の魂の叫びを後ろから涙ながらに見つめていた母親・メリアの記憶(回想)は、現在の駆(かける)たちのいるドックの景色へと、静かに引き戻されていくのだった。


恐竜・古生物重機図鑑(第7章)

【トリケラトプス(初期・坑道開墾ブルドーザー仕様)】

 分類: 角竜類(白亜紀後期)重機用途: 鉱山の深部掘削、狭路の土砂押し出し、崩落材の撤去。

 カスタム特徴: 8年前の全盛期のカスタム。現在のドックにあるものより装甲は薄いが、狭い坑道を小回りを利かせて進むための高圧バイオシリンダー(初期型)を大腿部に装備。人間との深い同調(シンクロ)によって、極限状態でも操縦士バロムと整備士ガロンを守るために稼働した、絆の生体重機。

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