92話
結局、ギリギリで学校に来た。
「……眠い」
「それはそう」
「昨日あれだけやってればね」
「やめろその言い方」
教室。
席に座る、隣は東。
「……おはよう」
「おはよう」
相変わらず静か。
「……」
でもじっと見られてる。
「何だ」
「……近い」
「何が」
「……距離」
「いつもだろ」
「……違う」
その時—ガラッ
「……東海林さん」
来た。
「お前な」
「……会いに来た」
「授業あるだろ」
「……あとで戻る」
「毎回それだな」
そしてそのまま——すとん
「乗るな」
膝の上。
教室のど真ん中。
「……離れない」
「ここ学校だぞ」
「……知ってる」
「知っててやるな」
ぎゅっ
しかも昨日より強い。
「……強すぎ」
「……だめ」
「何が」
「……離れたら」
「離れないって」
「……」
でも、周りの視線が明らかに増えてる。
「ねぇねぇ」
後ろの席のやつが小声で言う。
「今日やばくない?」
「いつもより距離近くね?」
「てかほぼ乗ってるじゃん」
「ほぼじゃなくて乗ってる」
「……」
東がぽつりと言う。
「……重い」
「分かってる」
「……違う意味で」
「やめろ」
「……東海林さん」
「ん?」
「……こっち見て」
「なんだよ」
顔を近づけられる。
「……キスしていい?」
「ここで言うな」
「……だめ?」
「だめに決まってるだろ」
「え、ちょっと待って」
周りがざわつく。
「今なんて言った?」
「キスって言った?」
「マジ?」
「……」
響は気にしてない。
むしろ——ぎゅっ
さらに密着。
「……隠さない」
「隠せ」
「……やだ」
「いやいやいや」
後ろから声。
「今日どうしたのほんと」
「いつもよりやばいって」
「……」
その時、秋山が近づいてくる。
「混ざるよ」
「混ざるな」
「……東海林君」
「なんだ」
「僕もいい?」
「だから学校だって」
「え?」
周りの空気が一気に変わる。
「え、なにこれ」
「三角関係?」
「いやそれ以上じゃね?」
「……秋山さん」
響がじっと見る。
「なに?」
「……だめ」
「なんで」
「……今は私」
「順番制?」
「違う」
ぎゅっ
さらに強く抱きつく。
「……苦しいって」
「……やだ」
「最近そればっかだな」
「……東海林さん」
「ん?」
「……見ないで」
「何を」
「……周り」
「いや見るだろ」
「……私だけ見て」
「無理だろ」
「……やだ」
完全にアウトな発言。
周りが静かにざわつく。
「これさ」
後ろのやつが小声で言う。
「ガチじゃね?」
「ガチだろ」
「てか依存やばくね?」
「……」
東がまたぽつり。
「……悪化してる」
「自覚ある」
「……東海林さん」
「ん?」
「……放課後も一緒」
「いつもだろ」
「……ずっと」
「帰るまでな」
「……その後も」
「家も一緒だろ」
「……うん」
少しだけ安心した顔。
でも——手は離さない。
チャイムが鳴る。
「……戻れ」
「……やだ」
「先生来るぞ」
「……最後」
「何が」
「……キス」
「だからやめろって」
「え、マジでやる?」
「やばくない?」
「先生来るって!」
「……だめ?」
「……」
ほんの一瞬だけ迷って、
「……軽くだぞ」
「は!?」
周りが一斉に反応。
ちゅ
本当に一瞬。
でも——完全に見られてる。
「「「えええええ!?」」」
「……満足」
「するな」
「ほんとにやったよあいつら」
「終わってるって」
「やばすぎ」
「……戻る」
「最初からそうしろ」
立ち上がって、ようやく自分の教室へ戻っていく。
静かになる教室。
でも——視線が痛い。
「……やばいね」
秋山が笑う。
「他人事だな」
「面白いし」
「……東海林君」
東が小さく言う。
「ん?」
「……どうするの」
「……」
少しだけ考えて
「……どうしようもない」
でも確実に。
昨日よりも、さらに一歩踏み込んで、周りにも見える形で——壊れ始めていた。




