90話
夜。
電気は消えてる。
でも—すぐには寝てなかった。
「……東海林さん」
すぐ近く。
ほとんど顔が触れそうな距離。
「ん?」
「……起きてる?」
「起きてる」
少しの沈黙。
呼吸だけが近い。
「……今日」
「ん?」
「……嫌じゃなかった?」
「何が」
「……キス」
「……別に」
「……ほんと?」
「ほんと」
ぎゅっ
「……なら」
少しだけ声が変わる。
「……もっと」
「……」
そのまま——ぐっと距離を詰めてくる。
覆いかぶさるようにいつもより強い。
「……おい」
「……やだ」
「まだ何も言ってない」
「……止めるでしょ」
「……」
否定できない。
「……止めないで」
「……」
声が、少しだけ震えてる。
「……東海林さん」
「ん?」
「……離れたくない」
「……」
「……取られたくない」
そのまま——ぐっと押し倒される形になる。
「……お前な」
「……やだ」
「……全部」
「?」
「……私のにしたい」
「……それは無理だな」
「……やだ」
そのまま強く抱きついたまま離れない。
「……響」
「……なに」
「……落ち着け」
「……やだ」
「……怖い」
ぽつりと。
「……」
「……いなくなるのが」
「……」
「……だから」
「……」
「……離したくない」
そのまま——顔を押し付けてくる。
さっきまでの勢いとは違う、
不安の強さ。
「……」
少しだけ息を吐いて、
「……ここにいる」
「……ほんと?」
「ほんと」
「……逃げない?」
「逃げない」
「……ずっと?」
「……出来るだけな」
「……やだ」
「だからそれは——」
「……やだ……」
ぎゅうっ
さっきよりも強い力。
「……じゃあ」
少しだけ間を置く。
「……今はここにいる」
「……」
「……それじゃダメか」
「……それでいい」
小さく頷く。
でも——離れない。
覆いかぶさったまま、
ずっと。
「……キス」
「……軽くだぞ」
「……うん」
ちゅ
静かに。
でも今までで一番長い。
「……これでいいか」
「……うん」
「……」
少しずつ、呼吸が落ち着いていく。
「……怖かった」
「……分かる」
「……東海林さん」
「ん?」
「……好き」
「知ってる」
「……だから」
「……」
「……離れない」
「……はいはい」
結局——そのまま押し倒された形のまま、響は離れず、秋山も静かに隣でくっついて、三人で眠る。
襲うみたいな勢いはあったけど、結局それは不安と依存が溢れただけで、それ以上には進まなかった。
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