89話
夜。
風呂も終わって、部屋に戻る。
布団はいつも通り、三人分。
「……なんか」
秋山がぽつりと言う。
「静かだね」
「さっきまでうるさかったしな」
「……うん」
布団に入る。
左に秋山、右に響。
そして——ぎゅっ
「……はい来た」
「……ここ」
「分かってる」
でも今日は、少しだけ違う。
「……東海林さん」
「ん?」
「……こっち向いて」
「……」
体を少し横にする。
近い、いつもより近い。
「……キス」
「またか」
「……だめ?」
「……」
少しだけ迷う。
でも——
「……いいけど」
「……うん」
ちゅ軽く。
……のはずが、少しだけ長くなる。
「……」
離れない。
「……おい」
「……もうちょっと」
「多いって」
でも、押し返さない。
そのまま少しだけ続く。
「……」
横から視線。
「僕もいい?」
「来ると思った」
「ダメ?」
「……」
また少しだけ考える。
でも——
「……いいけど」
「やった」
秋山が近づいてくる。
そして——ちゅ
今度は、さっきよりも自然に受け入れる。
「……東海林さん」
「ん?」
「……こっち」
「待て」
両側から引かれる。
「……お前らな」
「……ずるい」
響が小さく言う。
「何が」
「……秋山さんだけ」
「さっきしただろ」
「……もう一回」
「……いいよ」
自分でも驚くくらい、あっさり出た言葉。
「……ほんと?」
「うん」
ちゅ
今度は、自分から少し寄せる。
「……」
一瞬、空気が変わる。
「……東海林君」
秋山が少しだけ真面目な声で言う。
「ん?」
「どこまでいいの?」
「……」
その質問は重い。
「……分かんない」
正直に言う。
「……でも」
「?」
「……嫌じゃない」
「……そっか」
秋山が少しだけ笑う。
「……東海林さん」
「ん?」
「……もっと」
「何をだ」
「……近く」
「……これ以上か?」
「……うん」
ぎゅっ
覆いかぶさるようにくる。
昼も夜も変わらない。
でも——距離が近い。
近すぎる。
「……いいの?」
秋山がまた聞く。
「……」
少しだけ息を吐く。
「……止めるなら今だよ」
「……」
腕の中の体温。
離さない手
「……いい」
ぽつりと出る。
「……ほんと?」
「……うん」
そのまま、またキス。
今度はさっきより長い。
「……」
呼吸が少し近い。
「……東海林さん」
「ん?」
「……好き」
「知ってる」
「……うん」
「僕もだよ」
秋山が静かに言う。
「……」
「……なんかさ」
秋山が少し笑う。
「これ、もう戻れないよね」
「……かもな」
でも——嫌じゃない。
ぎゅっ
「……離れない」
「はいはい」
結局その夜は、それ以上には進まなかった。
でも——いつもより近くて、いつもより長くて、確実に一歩踏み込んだ距離のまま、三人で眠りについた。
「……おやすみ」
「おやすみ」
「……おやすみ」
離れないまま、そのまま朝まで。
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