88話
家に着く。
「……ただいま」
「ただいまー」
「……ただいま」
ドアを開けて中に入ると、一気にいつもの空気に戻る。
「……落ち着く」
「そりゃ自分の家だしな」
「……うん」
そう言いながら—ぎゅっ
「はいはい」
もう反射みたいなもんだ。
荷物を適当に置いてリビングへ。
ソファに座った瞬間——
「……よいしょ」
「乗るな」
響が膝の上にくる。
いつも通り。
でも——ぎゅっ
「……強いな」
「……帰ってきたから」
「理由になってるのかそれ」
「やっぱり家が一番だね」
秋山が隣に座る。
「だな」
「……うん」
しばらく静かにしていると——
「……東海林さん」
「ん?」
「……キス」
「帰って早々か」
「……だめ?」
「……軽くだぞ」
「……うん」
ちゅ
短く。
でも、そのまま離れない。
「……僕もいい?」
「お前もか」
「ダメ?」
「……」
少しだけ考える。
でも——
「……軽くだぞ」
「やった」
ちゅ
今度は秋山。
しかも普通に唇。
「……」
「……どう?」
「どうってなんだ」
「……」
上にいる響がじっと見てる。
「……秋山さん」
「なに?」
「……ずるい」
「先にしただけだよ」
「……」
ぎゅっ
「……強くするな」
「……私も」
「さっきしただろ」
「……もう一回」
「多いな」
「……いいでしょ」
「……軽くだぞ」
「……うん」
ちゅ
さっきよりも少し長い。
「……」
「……満足か」
「……うん」
「じゃあ僕も」
「多いって」
「バランスだよ」
「なんの」
ちゅ
また秋山。
今度は少しだけ長い。
「……お前な」
「いいでしょ」
「よくない」
でも——拒まない。
というかもう止めるのも面倒になってる。
「……東海林さん」
「ん?」
「……もういい?」
「何が」
「……ずっと」
「何をだ」
「……こう」
ぎゅっ
「……ああ」
「僕もいい?」
「増やすな」
でも——ぎゅ
「……増えたな」
左右から、そして上から完全に囲まれる。
「……これさ」
秋山が小さく言う。
「いいの?」
「何が」
「このまま」
「……」
少しだけ考える。
ぎゅっ
離さない手。
「……もういいか」
「え?」
「どうせ止めても無理だろ」
「……まぁね」
「……東海林さん」
「ん?」
「……いいの?」
「何が」
「……キスとか」
「……」
「……別に」
少しだけ間を置いて、
「嫌じゃないしな」
「……!」
ぎゅっ
「……強すぎ」
「……うれしい」
「分かりやすいな」
「ほんとに?」
秋山が聞く。
「無理してない?」
「してない」
「……そっか」
「じゃあ」
秋山が少し近づく。
「もう一回いい?」
「多いなほんと」
でも——
「……いいけど」
「やった」
ちゅ
今度は自然に受け入れる。
止めない。
「……東海林さん」
「ん?」
「……私も」
「はいはい」
ちゅ
今度は自分から少し寄せる。
「……」
「……」
一瞬、静かになる。
「……これ」
秋山がぼそっと言う。
「完全にダメなやつじゃない?」
「かもな」
「今更だね」
「……でも」
響が小さく言う。
「……好き」
「知ってる」
「……うん」
ぎゅっ
さらに強く抱きついてくる。
「……離れない」
「はいはい」
そのまま、ソファの上で三人くっついたまま。
キスも距離も、もう止める気はなくなっていた。
「……楽だな」
ぽつりと呟く。
「何が」
「……こういうの」
「……うん」
「僕も」
結局——帰ってきても、変わらないどころか少しだけ踏み込んだ距離のまま、三人の時間は続いていく。
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