86話
夜。
布団に入って、電気も落とす。
「……今日は静かだな」
「人多かったから疲れたんじゃない?」
「……かも」
楓も横でごろっとしてる。
秋山も静か。
珍しく、落ち着いた夜。
ぎゅっ
「……」
「……どうした」
「……なんでもない」
そう言いながら、いつも通り覆いかぶさってくる。
でも——少しだけ力が強い。
「……東海林さん」
「ん?」
「……いるよね」
「いるって」
「……ほんと?」
「今日何回目だそれ」
「……大事」
「……大丈夫だよ」
秋山が小さく言う。
「今日も一緒にいるでしょ」
「……うん」
そのまま、少し話して——いつの間にか眠りに落ちる。
「……っ……やだ……」
小さな声。
「……?」
目が覚める。
暗い中で、腕の中の響が震えてる。
「……おい、響」
「……やだ……いかないで……」
はっきりした寝言。
でも様子がおかしい。
「……東海林さん?」
秋山も起きる。
「……夢見てるな」
「また?」
「……多分な」
「……やだ……どこ……」
呼吸が荒い。
腕の力が一気に強くなる。
ぎゅっ
「……苦しいって」
でも離せない。
「……東海林さん……!」
そのまま——びくっと体が跳ねて、目を開ける。
「……っ……は……」
荒い呼吸。
焦点が合ってない。
「……響」
「……どこ……?」
「ここだ」
「……え……」
「……東海林さん……?」
「いるって」
顔を近づける。
「ほら」
「……ほんと……?」
「ほんと」
「……っ……」
次の瞬間、ぎゅうっ
さっきよりも強く抱きついてくる。
「……いた……」
「最初からいた」
「……よかった……」
「……また夢?」
秋山が聞く。
「……うん……」
小さく頷く。
「……いなくなってた」
「……」
「……探しても……どこにもいなくて」
声が震えてる。
「……大丈夫だ」
頭を撫でる。
「……ここにいる」
「……うん……」
「……こわかった……」
「……分かる」
秋山が静かに言う。
「でも今は大丈夫」
「……東海林さん」
「ん?」
「……離れないで」
「離れてないだろ」
「……これからも」
「……」
少しだけ間を置く。
「……出来るだけな」
「……やだ」
即答。
「……やだ……絶対やだ……」
さっきよりも強い声。
ぎゅっ
「……怖い」
「……」
「……東海林さん」
「ん?」
「……もっと」
「何をだ」
「……抱きしめて」
「……」
そのまま、しっかり抱き返す。
「……これでいいか」
「……うん……」
「……あったかい……」
「……キスしていい?」
「この流れでか」
「……落ち着く」
「……軽くだぞ」
「……うん」
ちゅ
少し長め、離れたあとも顔を押し付けてくる。
「……まだ怖い?」
「……ちょっと」
「そりゃすぐには消えないな」
「……東海林さん」
「ん?」
「……寝るまで……このまま」
「最初からそのつもりだ」
「……うん……」
「……私もいい?」
楓が小さく言う。
「増やすな」
「静かにするから」
ぎゅ
「……また増えた」
「安心感大事でしょ」
「まぁな」
「……大丈夫?」
楓が優しく聞く。
「……うん……」
まだ少し震えてるけど、
さっきよりは落ち着いてる。
「……すー……」
少しずつ、呼吸が整っていく。
「……寝たな」
「早いね」
秋山が小さく言う。
でも——抱きつく力は、さっきよりも強いまま。
「……ほんとに怖かったんだね」
楓がぽつり。
「……だな」
「……東海林君」
「ん?」
「ちゃんと考えた方がいいかもね」
「……」
少しだけ黙る。
腕の中の重さ、離さない力。
「……今は」
小さく言う。
「……これでいい」
そのまま、四人でくっついたまま、静かな夜が続く。
そして、朝まで誰も離れずに眠り続けた。
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