75話
夜。
三人で布団に入って、いつも通りの配置。
右に響、左に秋山。
そして——ぎゅっ
「……もう寝る前から強いな」
「……」
「響?」
返事がない。
でも、抱きつく力は強いまま。
「……寝たのか?」
「……起きてる」
小さい声。
「どうした」
「……なんでもない」
「嘘だろ」
「……」
さらに力が強くなる。
「……苦しいって」
「……ごめん」
でも、離れない。
しばらくして。
「……東海林さん」
「ん?」
「……いなくならないよね」
「またそれか」
「……答えて」
「……」
少しだけ間を置く。
「……いなくならないよ」
「……ほんと?」
「今ここにいるだろ」
「……今じゃなくて」
「未来の話かよ」
「……うん」
「……絶対は言えない」
正直に言う。
「……」
ぴくっと、響の体が少し震える。
「……でも」
「……?」
「……出来るだけ、一緒にいる」
「……出来るだけ……」
「それが現実的な答え」
「……やだ」
小さく、でもはっきり。
「……やだ、じゃなくてだな」
「……やだ」
ぎゅっ
さっきよりも強く抱きつく。
「……離れたくない」
「……」
「……いなくなるの、やだ」
声が少し震えてる。
「……何かあったのか?」
「……夢」
「夢?」
「……東海林さん、いなくなってた」
「……」
「……どこにもいなくて」
「……」
「……探しても、いなくて」
呼吸が少し荒くなる。
「……怖かった」
「……」
「……起きたら、いたけど」
「……うん」
「……またいなくなるかもって思って」
「……それでか」
今日ずっとおかしかった理由。
全部繋がった。
「……東海林さん」
「ん?」
「……ここにいるよね」
「いるって」
「……ほんとに?」
「触ってるだろ今」
「……うん」
少しだけ顔を押し付けてくる。
「……怖い」
ぽつりと。
「……またいなくなったらどうしよう」
「……」
「……私、一人で寝れないし」
「……知ってる」
「……一人になったら」
言葉が詰まる。
「……大丈夫だ」
頭に手を置く。
「……今はちゃんといる」
「……今は……」
「今を積み重ねるしかないだろ」
「……」
納得しきれてない顔。
「……秋山さん」
「なに?」
左から声。
「……いなくならない?」
「ならないよ」
「……ほんと?」
「僕もここにいるでしょ」
「……うん」
「……三人でいれば」
秋山が続ける。
「そう簡単に崩れないよ」
「……」
少しだけ、響の力が緩む。
でも——
「……やっぱり怖い」
また、強く抱きつく。
「……東海林さん」
「ん?」
「……もっと」
「何をだ」
「……抱きしめて」
「……」
少しだけ体勢を変えて、しっかり抱き返す。
「……これでいいか」
「……うん」
「……あったかい」
「そうかよ」
「……キスしていい?」
「この流れでそれか」
「……落ち着く」
「……軽くだぞ」
「……うん」
ちゅ
いつもより少し長い。
「……まだ怖い?」
「……少し」
「そりゃすぐには消えないだろ」
「……うん」
「……でも」
「……?」
「……ここにいる」
自分で言い聞かせるみたいに。
「……東海林さん」
「ん?」
「……寝るまで、離さないで」
「最初から離してない」
「……もっと」
「欲張りだな」
でも——ぎゅっ
さらにしっかり抱き返す。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
しばらくして、呼吸が少しずつ落ち着いていく。
「……寝たか?」
「……まだ」
「どっちだ」
「……今から寝る」
「そうか」
数分後。
「……すー……」
「……寝たな」
さっきまでの不安が嘘みたいに、
静かな寝息。
でも——抱きつく力だけは、さっきよりも強いまま。
「……大変だね」
秋山が小さく言う。
「……だな」
「でも」
「?」
「頼られてるね」
「……まぁな」
「……どうするの?」
「何が」
「このまま」
「……」
少しだけ考える。
「……とりあえず」
響の頭を軽く撫でる。
「……今はこれでいいだろ」
「……甘いね」
「うるさい」
そのまま三人でくっついたまま、朝まで眠り続けた。
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