71話
帰り道。
「……手」
「はいはい」
もう言われる前に差し出す。
ぎゅっ
「……今日はずっとだな」
「……うん」
「離れる気ないだろ」
「……ない」
即答だった。
秋山が横で少し笑う。
「完全に固定装備だね」
「外せないのかそれは」
「呪いみたいなものじゃない?」
「怖いこと言うな」
家に着いて、玄関を開ける。
「ただいま」
「……ただいま」
「おかえり」
靴を脱いで、そのままリビングへ。
そして——ドサッ
「……重い」
ソファに寝転がった瞬間、響がそのまま上に乗ってきた。
「……自然に乗るな」
「……いつも通り」
「いつからこれがいつも通りになった」
「……最初から」
「嘘つけ」
でも否定できないのが怖い。
「……東海林さん」
「ん?」
「……顔、近い」
「お前が近づいてるんだろ」
今の体勢——
俺が寝転がってて、その上に響が乗ってる。
自然と顔の距離は近くなる。
「……」
じっと見てくる。
「……どうした」
「……」
少しだけ、顔が近づく。
「おい」
止める間もなく——ちゅ
軽く、触れるだけのキス。
「……」
「……」
「……したな?」
「……うん」
「確認いらないだろ」
「……したかった」
前にも一回あった。
でも——今日は少し違う。
「……なんで」
「……安心するから」
「それでキスするのか」
「……だめ?」
「ダメではないけど」
否定しきれない自分がいるのが、ちょっと問題だと思う。
「僕もしていい?」
「なんでだよ」
横から秋山が普通に入ってくる。
「対抗心」
「どこと戦ってるんだ」
「響君」
「やめろ」
「……」
響が少しだけ秋山を見る。
「……だめ」
「即拒否かぁ」
「……東海林さんだけ」
「独占欲出てきてないか?」
「……前から」
「そうだったのか」
「……もう一回いい?」
「……軽くならな」
「……うん」
さっきより少しだけ近づいて——ちゅ
今度は少しだけ長い。
「……満足か?」
「……うん」
さっきより、表情が柔らかい。
「東海林君ってさ」
秋山がソファの背もたれに寄りかかりながら言う。
「完全に飼い主だよね」
「誰がだ」
「この子完全に懐いてるよ」
「……懐いてる」
「自分で言うな」
「……だって」
また、ぎゅっと抱きついてくる。
「……離れたくない」
「……分かってるよ」
自然と頭を撫でる。
「……ん」
そのまま目を細める。
本当に小動物みたいな反応だなこれ。
「……東海林さん」
「ん?」
「……今日も一緒に寝る?」
「毎日だろそれ」
「……うん」
「なら聞くな」
「……確認」
「そうかよ」
そのまま。
ソファの上で、響はずっとくっついたまま。
たまに顔を上げて——
「……」
「するなよ?」
「……まだしない」
「まだってなんだよ」
少し笑った。
距離感は確実におかしくなってきてる。
でも——嫌じゃないと思ってる時点でもう手遅れなのかもしれない。




