46話
文化祭まで、あと数日。
放課後の教室は、いつもより少し騒がしかった。
机は端に寄せられていて、教室の中央には段ボールや画用紙、装飾用のリボンなんかが散らばっている。
黒板には大きくチョークで書かれていた。
「文化祭カフェ準備」
「このテーブルここでいい?」
「もうちょい寄せて!」
「看板どうする?」
クラスのあちこちで声が飛ぶ。
一年生の文化祭なんて、正直ほとんどが初めてだ。だから余計に、みんな少し楽しそうだった。
俺は教室の窓側で、段ボールを開けていた。
中身は紙コップと紙皿。
「東海林、それ全部出しといて」
クラスの男子が言う。
「はいはい」
箱を開けて並べる。
その隣の席。東が静かに画用紙を切っていた。
カッターを使って、まっすぐ。
「……東海林」
「何」
「……紙」
「そこ」
俺が横の束を指す。東は小さく頷く。
「……ありがとう」
また静かに作業を続ける。
少し離れた教室の後ろ。秋山が女子たちと話している。
テーブルクロスの色を決めているらしい。
「白がいいと思う」
「でもそれ普通じゃない?」
「カフェっぽいのは白かなって」
秋山はこっちを見て、軽く手を振る。
俺も軽く手を上げる。
そのとき教室のドアが―がらっと開いた。
何人かが振り向く。
「ん?」
「誰?」
そこに立っていたのは―響。
銀色の髪が窓の光で少し光る。
そして俺を見つけた瞬間。
迷いなく歩き出す真っ直ぐ一直線。
教室の中央を突っ切る。
クラスのやつが笑う。
「響ちゃん来た」
「まっすぐ東海林行くぞ」
「早い」
響はそんな声を気にしない。
俺の席の前まで来る。
「……東海林さん」
「何」
「……来た」
「見れば分かる」
響は少しだけ周りを見る。
教室中に文化祭の材料。
段ボール。画用紙。リボン。
「……準備?」
「カフェ」
「……そう」
数秒。響は俺を見る。
それから何も言わずに――抱きつく。
ぎゅっと。
俺が座ってる状態で、上から。
「おい」
「……会いたかった」
「数時間だろ」
「……長い」
前の席の男子が振り返る。
「準備中でもそれかよ」
「平常運転だな」
クラスが少し笑う。響は全く気にしていない。
俺の肩に顔を乗せる。
「……疲れた」
「何もしてないだろ」
「……人多い」
教室の空気。準備のざわざわ。
響は少しだけ腕の力を強くする。
そのとき東が手を止めて言う。
「……響」
「……なに」
「……邪魔」
響は少し考える。
それから俺を見る。
「……邪魔?」
「作業中」
響は少しだけ体を離す。
でも離れない。
腕はそのまま。
「……見てる」
東は少しだけ笑う。
「……自由」
後ろから秋山の声。
「響君」
振り向く。秋山が歩いてくる。
「来たんだ」
「……うん」
「東海林君まっすぐだね」
響が小さく言う。
「……当たり前」
秋山は俺を見る。
「作業進んでる?」
「普通」
秋山は教室を見回す。
テーブルの配置。
装飾。
「なんか文化祭っぽくなってきたね」
響が言う。
「……文化祭」
「うん」
「……楽しみ?」
秋山が笑う。
「僕はね」
響は少し考える。それから言う。
「……私も」
俺が言う。
「理由は」
響はすぐ言う。
「……東海林さん」
秋山が吹き出す。
「やっぱりそれか」
響は俺の肩にまた顔を乗せる。
教室は文化祭準備で騒がしい。
テープを貼る音。笑い声。机を動かす音。
その中で俺の席の周りだけはいつもの空気だった。
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