38話
朝食を食べ終えたあと。
父は新聞を読んでいて、母はキッチンで片付けをしている。
そんな中、俺はソファに寝転がっていた。
「……暇だ」
夏休みって、こういう時間が一番多い。
すると、隣に座っていた響がじっと俺を見てきた。
「……どうした」
「……何でもない」
そう言いながら、響はゆっくりとソファから立ち上がる。
そしてそのまま、俺の上にまたがった。
「おい」
「……座っただけ」
「座る場所違うだろ」
完全に俺の腹の上だ。
軽いから苦しくはないけど、問題はそこじゃない。
父は新聞を読んでいるし、母もキッチンにいる。つまり普通に親の前。
「響」
「……なに?」
顔が近い。近すぎる。
こいつ最近、距離感が完全に壊れてきている。
いや、最近じゃないな。
最初から壊れてた気もする。
「降りな」
「……やだ」
即答。そして響は、少し体を倒してきて――
俺の胸に手をつく。顔の距離が、さらに縮まる。
「お前、親いるぞ」
「……知ってる」
「気にしろ」
「……東海林さんは嫌?」
「嫌じゃないけど」
「じゃあいい」
よくない。そう思った瞬間だった。
響が、軽く俺の唇に触れた。
ちゅ。
ほんの一瞬。
触れるだけのキス。
俺は完全に固まった。
「……」
「……」
リビング、静止。新聞をめくる音が止まる。
キッチンの水の音も止まる。
終わった。俺はゆっくり顔を横に向けた。
父。新聞の上からこっちを見ている。
母。キッチンから完全にこっち見てる。
沈黙。
父が言った。
「……若いな」
母が額を押さえる。
「そういう問題じゃないでしょ」
響は俺の上に乗ったまま。
まったく動じていない。
むしろぎゅっと抱きついてくる。
「……落ち着く」
「お前な……」
秋山がソファの横に立って、笑っていた。
「やったね響君」
「……うん」
「お前煽るな」
秋山は俺の横に座る。
そして俺の手を取った。
指を絡める。
「僕もこれくらいならいいよね」
「お前もか」
母が深くため息をついた。
「ちょっといい?」
母の声。完全に呼び出し。
「三人とも」
父は笑いをこらえている。
「俺は面白いからこのままでいいぞ」
「あなた黙って」
母が真顔で言う。
俺はソファに寝たまま、響を見上げる。
「降りろ」
「……やだ」
「怒られるぞ」
「……一緒ならいい」
そう言って、また抱きついてくる。
完全に甘えモード。
母は少し困った顔をしてから言った。
「……とりあえず」
「?」
「キスは部屋でやりなさい」
俺は天井を見た。
「あー……」
もう止める気ないのか。
父が笑う。
「公認だな」
秋山が嬉しそうに言う。
「東海林君の家、最高だね」
響も小さく頷く。
「……うん」
そして俺の胸に顔を埋めた。
「……ここ好き」
完全に居場所になってる。
俺はもう諦めて、天井を見ながら呟いた。
「……今日も重い一日だな」
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