31話
37時間くらい起きてる…死ぬ
朝。
障子越しの光で目が覚めた。
隣を見ると、響はまだ俺にくっついたまま眠っている。
秋山は反対側で静かに寝息を立てている。
……動けない。
昨日より拘束力が増している気がする。
なんとか腕を抜き、そっと体を起こす。
響が小さく眉を寄せたが、起きなかった。
「セーフ……」
俺は音を立てないように部屋を出る。
廊下はひんやりしていて、夏の朝独特の匂いがする。
そのまま縁側へ。
庭は朝露で光っていて、蝉がまだ本気を出していない時間帯。
静かで、落ち着く。
「……平和だな」
ぼんやりしていると、後ろで障子が開く音。
振り向かなくても分かる。
「……東海林さん」
「起きたのか」
響が寝癖のまま立っている。目が半分閉じてる。
「……いないから」
「ちょっと外に出ただけだ」
響は何も言わずに近づいてきて――そのまま俺の膝の上に座った。
「おい」
「……ここ」
「ここじゃなくてもいいだろ」
「……ここがいい」
向かい合う形で座る。朝日が横から差して、響の髪が少し透ける。
寝起きのせいか、いつもより無防備だ。
「昨日のこと、まだ気にしてるのか」
「……少しだけ」
「楓はただの幼馴染だ」
「……知ってる」
そう言いながら、腕はしっかり俺の首に回っている。
「でも……昔の東海林さん、知らない」
「知らなくていいだろ」
「……今は、私のだから」
さらっととんでもないことを言う。
「共有じゃなかったのか?」
「……共有だけど、優先」
わがまま進化してないか?
俺が呆れていると、足音。
「朝から熱いねぇ」
秋山の声。
振り向くと、寝癖のまま立っている。
その後ろから楓も出てくる。
「……何その状況」
楓が目を細める。
「普通に座ってるだけだ」
「膝の上で?」
「……特等席」
響が小さく言う。楓が笑う。
「へぇ。独占欲強いんだ」
「……従姉妹さんよりは」
空気が一瞬止まる。
俺の膝の上で、静かな火花が散ってる気がする。
秋山はというと、少し離れたところに座る。
でも視線はこっち。
「楓さん、昨日は楽しかったよ」
「それはどうも」
「でもね」
秋山が微笑む。
「東海林君、夜中ずっと響君に抱きつかれてたよ」
「ちょ、余計なこと言うな」
楓の眉が上がる。
「へぇ?」
「……毎日」
響が追撃する。
「毎日!?」
楓の声が一段高くなる。
「家では普通だろ」
「普通じゃないでしょ」
「……普通」
響が俺の肩に顔を埋める。
完全に勝ちポジションを取りに来てる。
楓が縁側に近づく。
俺のすぐ横にしゃがむ。距離が近い。
「昔はさ、私がここ座ってたよね」
俺の膝を指でつつく。
「記憶にない」
「嘘」
響の腕に力が入る。
「……今は私」
「張り合わなくていいだろ」
楓は少し黙る。
それから、ふっと笑った。
「取るつもりはないよ」
「……」
「ただ、昔みたいに話したいだけ」
響が少しだけ顔を上げる。
楓と目が合う。静かな対峙。
でも、昨日ほど尖っていない。
「……昨日は、ちょっとだけ怖かった」
響がぽつりと言う。
楓は一瞬驚いた顔をする。
「そっか」
それだけ言って、立ち上がる。
「朝ごはん手伝ってくる」
祖母のいる台所へ向かう。
空気が少し軽くなる。
秋山が立ち上がり、俺の後ろに回る。
「僕も混ざっていいかい?」
「どこにだ」
「膝の上は無理だから、後ろ」
そして自然に、俺の背中に寄りかかる。
前に響、後ろに秋山。
「お前らな」
「三人で共有だからね」
秋山が静かに言う。響が小さく頷く。
「……東海林さんは、真ん中」
「俺の意思は?」
「尊重はするよ」
「……多分」
庭に風が吹く。蝉が本気を出し始める。
夏の朝。俺は両側と後ろから包囲されながら思う。
楓は、きっとまだ距離を測っている。
響は、離れる気がない。
秋山は、静かに全部見ている。
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