29話
体育祭が終わって数日。
俺はため息をつきながら、駅のホームに立っていた。
「本当に来るのか」
「去年も来たじゃないか」
隣で当然のように言う秋山。
今年も勝手についてくる気満々らしい。
「……約束…したから」
反対側に立つ響が、小さく言う。
今年は響も一緒だ。俺の祖母の家に行くと、あの日約束してしまった。
電車が滑り込む。
三人で乗り込むと、ちょうどボックス席が空いていた。
向かい合わせに座る形になる。
なぜか、俺の隣は響。その向かいが秋山。
「遠いのかい?」
「片道一時間ちょい」
「小旅行だね」
響は窓の外を見ながら、そっと俺の袖を掴んでいる。
無意識なのか、意識的なのか分からない。
「緊張してるのか?」
「……少しだけ」
「祖母は優しいぞ」
「東海林君の優しいは信用ならないよ」
「失礼だな」
電車が揺れる。
郊外に出ると、景色がゆっくりと田んぼに変わる。
響の肩が、そっと俺に寄りかかる。
秋山がそれを見て、静かに微笑む。
「今年は三人か」
「嫌なら帰るけど?」
「もう乗ってるだろ」
響が小さく言う。
「……一緒に行きたい」
その一言で十分だった。
駅に着き、祖母の家まで歩く。
昔から変わらない道。
古い商店、用水路、少し傾いた電柱。
「田舎だね」
「傾いた電柱も永遠にあのままだな」
「嫌いじゃないよ」
響は少しきょろきょろしている。
俺の袖は掴んだまま。
やがて見えてくる平屋の日本家屋。
引き戸を開ける。
「ただいま」
奥から足音。
「おかえり」
祖母の穏やかな声。
「まぁまぁ、今年も来たのかい」
秋山を見て笑う。
「ご無沙汰してます」
「今年はもう一人いるのかい?」
祖母の視線が響に向く。
響が一瞬固まる。
「……はじめまして」
「ふふ、そんなに緊張しなくていいよ」
祖母は本当に優しい。空気が少し柔らかくなる。
荷物を置いて座敷に上がる。
畳の匂い。懐かしい匂い。
「相変わらず落ち着くな」
「去年も同じこと言ってたよ」
秋山が笑う。そのとき、玄関の方から声がした。
「おばあちゃーん!」
聞き覚えのある声。
俺は嫌な予感がした。
「来たか……」
襖が開く。
そこに立っていたのは、同い年の親戚。
楓。
「久しぶり」
ショートカット、涼しげな目。
昔はよく一緒に遊んでいた。
木登りも、川遊びも、全部こいつとだった。
「また来てるんだ」
「お前もな」
「当たり前でしょ、ここ私の第二の家みたいなものだし」
楓の視線が、秋山、そして響に向く。
「へぇ」
「何だよ」
「今年は賑やかなんだなって」
響が少しだけ俺の後ろに隠れる。
分かりやすい。楓はそれに気付いている。
「その子が噂の?」
「噂って何だ」
「おばあちゃんが言ってたよ。最近よく名前が出る子がいるって」
祖母、余計なことを。
響の手が、ぎゅっと俺の服を掴む。
秋山が静かに口を開く。
「楓さんでしたっけ」
「そうだけど?」
「東海林君は昔からお世話になってるんですか?」
「まぁね。腐れ縁」
楓は俺の隣にどかっと座る。
距離が近い。
「今年は泊まり?」
「その予定」
「じゃあ夜は花火でもする?」
昔みたいに、という含みがある。
響が小さく言う。
「……楽しそう」
その声は、少しだけ無理している。俺は気付く。秋山も気付いている。
楓は、悪気はない。
でも、昔を知っている存在は、今の三人の関係に小さな波を立てる。
「響もやるだろ?」
「……うん」
「秋山は?」
「もちろん」
楓がにやりと笑う。
「面白くなりそう」
何がだよ。俺はため息をついた。
懐かしいはずの祖母の家。
でも今年は、少しだけ空気が違う。
昔を知る楓。今を共有する秋山と響。
その間に立つ俺。
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