23話
投稿の日にちの設定を間違えていました
あの日から、数日が過ぎた。
特別なことは何もなかった。
学校に行って、くだらない話をして、
響は相変わらず距離が近くて、
秋山はそれを面白がるように、時々静かに見ていた。
でも響の視線が、ほんの少しだけ遠くなる瞬間が増えた。
俺は気づいていたし、秋山も多分、気づいていた。
そして今日。
響の親戚の家に行く日。
玄関で靴を履きながら、響はやけに静かだった。
「緊張してるのか」
声をかけると、少し間があってから返事がくる。
「……ちょっとだけ」
ちょっと、じゃない手が震えてる。
「大丈夫だろ。挨拶するだけなんだろ?」
「うん……でも」
響は言葉を飲み込む。親戚の家。
多分、引き取るかどうかの話。
それが本題だ。
秋山が横から口を挟む。
「みんなで行けば大丈夫だよ」
「……うん」
俺は扉を開ける。
外は曇り空だった。いかにもな天気。
駅までの道、響はずっと俺の袖を掴んでいる。
前みたいに無邪気に抱きつくわけでもない。
ただ、離れない。
「なあ」
電車を待ちながら言う。
「嫌なら、帰ってもいいぞ」
響は首を横に振る。
「……逃げたくない」
その声は、前よりずっと強い。
少しだけ、成長してる。
秋山がぽつりと言う。
「もし向こうが連れて行くって言ったら?」
空気が止まり響の指が強くなる。
俺は少しだけ考えて、答える。
「その時は、その時だ」
「曖昧だね」
「未来の話を今決めるほど、俺は偉くない」
秋山はふっと笑う。
「正直だね」
電車がホームに来て扉が開く。
乗り込む前に、響が小さく言った。
「……置いていかないよね?」
あの朝と同じ言葉。
俺は迷わず答える。
「俺が決めることじゃない」
一瞬、響の顔が曇る。
でも続ける。
「でも、響が嫌なら、一緒に考える」
それでいい。約束じゃない。
⭐︎
親戚の家は、思っていたよりも古かった。
木造の二階建て。
門をくぐった瞬間、空気が変わる。
「……ここ」
響の声が、少しだけ小さくなる。
インターホンを押すと、すぐに玄関が開いた。
出てきたのは、五十代くらいの男性だった。
スーツ姿で無表情。
「……響か」
それだけ言って、視線が俺と秋山に移る。
「お友達か」
響が小さく頷く。
「今日はありがとうございます」
俺が軽く頭を下げると、男は少しだけ目を細めた。
「祖母が待っている。上がりなさい」
靴を揃えて上がる。
廊下はやけに静かだった。
案内されたのは、畳の客間。
座布団と三枚並べられている。
「ここで待っていなさい」
そう言われ、俺たちは正座する。
正直、退院明けの足にはきつい。
隣で響も正座している。
背筋がやけに伸びている。
秋山は横目で俺を見て、小さく笑う。
「似合わないね、正座」
「うるさい」
小声で返す。静かすぎる時間が続く。
廊下の向こうから、足音が聞こえた。
ゆっくりとした、杖の音。
襖が開く。
出てきたのは、小柄な女性だった。
白髪で柔らかい目元、歳は80くらいだろう。
「まあ……大きくなって」
声は、思っていたよりも優しい。
響の肩がわずかに震える。
「……おばあちゃん」
その時だった。
祖母の後ろから、もう一人入ってくる。
同年代くらいの女の子。
長い髪で落ち着いた雰囲気。
一瞬、見覚えがある気がした。
俺は息を止める。
女の子も、こちらを見て止まった。
その瞬間。
「……え」
響の声よりも先に、俺の口が動いた。
「東……さん?」
女の子の目がわずかに見開かれる。
そして。
「……なんで、…ここにいるの?」
空気が凍る。
秋山がゆっくり俺を見る。
「知り合い?」
俺は頷くしかない。
「……従姉妹だよ」
小さく、響が言う。
世界が、少しだけ繋がる音がした。
東さんは一瞬視線を逸らしてから、
静かに正座する。
祖母は状況を察しているのか、いないのか、
穏やかに微笑んでいる。
「縁というのは、不思議なものね」
誰も笑えなかった。
響は俺の袖を、ぎゅっと掴む。
その力は、さっき駅で握った時よりも強い。
東さんの目は、どこか複雑だった。
知っていたのか。知らなかったのか。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




