113話
昼休み。
教室。
「……眠い」
「昨日遅かったしね」
東が横でぽつり。
「……来る」
「だろうな」
ガラッ
「……東海林さん」
来た。
すとん
「……はい」
「もう何も言わん」
ぎゅっ
「……ここ」
「定位置だね」
秋山も少し寄ってくる。
少しして。
「ねえ」
クラスメイトの女子が話しかけてくる。
「ん?」
「ちょっと聞いていい?」
「何だ」
「幸せって何だと思う?」
「……急だな」
「さっき話してたんだよね」
別のやつも混ざる。
「将来の話とかでさ」
「へぇ」
秋山が反応する。
「東海林は?」
「……」
少し考える。
「……難しいな」
「だよねー」
「お金とか?」
「それもある」
「恋人とか?」
「それもある」
「じゃあ何?」
「……」
言葉を探す。
その時、ぎゅっ
「……」
響が少しだけ強く抱きつく。
「……これ」
ぽつり。
「え?」
「……今」
教室が少し静かになる。
「……ここ」
「……」
「……東海林さんがいて」
「……」
「……一緒にいる」
「……」
「……それ」
誰もすぐに言葉を返さない。
「……それが幸せ?」
女子が聞く。
「……うん」
「……シンプルだね」
「……それでいい」
「……」
秋山が小さく笑う。
「僕も似た感じかな」
「へぇ」
「安心できる場所があること」
「それが一番」
「……」
東がぽつり。
「……継続性」
「何それ」
「……続くこと」
「……」
「……一瞬じゃなくて」
「……ずっと続く状態」
「……」
「……それが幸せ」
「なんか難しいな」
「……でも分かるかも」
「東海林は?」
「……」
腕の中の重さ。
温もり。
「……まぁ」
「……似たようなもんだな」
「どんな?」
「……今のが続けばいい」
「……」
「それが一番楽だ」
「楽って大事だよね」
「だな」
ぎゅっ
「……東海林さん」
「ん?」
「……続く?」
「……」
少しだけ間。
「……続ける」
「……うん」
小さく頷く。
教室の空気が、少しだけ柔らかくなる。
「なんかさ」
女子が言う。
「いいね、それ」
「……何が」
「ちゃんと幸せっぽい」
「曖昧だな」
「でも分かるよ」
「そうか」
チャイムが鳴る。
「じゃ、戻るか」
「……うん」
ぎゅっ
そのまま、いつも通りの距離で。
でも少しだけ、幸せが言葉になった状態で、午後の授業が始まっていった。
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