112話
夜。
電気は消えてる。
静かな部屋。
ぎゅっ
「……」
いつも通り、響は上から抱きついてる。
「……起きてるか」
「……起きてる」
「珍しいな」
「……うん」
少しだけ間。
「……東海林さん」
「ん?」
「……考えてた」
「何を」
「……幸せ」
「……」
「……私の」
静かな声。
「……何だと思う?」
「……俺に聞くな」
「……でも」
「……」
「……分からない」
ぎゅっ
少しだけ力が入る。
「……前は」
「……怖くなかったらいいって思ってた」
「……」
「……一緒にいられたらいいって」
「……」
「……でも」
少しだけ間。
「……今は」
「……?」
「……足りてるのに」
「……」
「……まだ欲しい」
「……欲張りだな」
「……うん」
否定しない。
「……東海林さん」
「ん?」
「……私の幸せって」
「……」
「……これでいいのかな」
「……」
少し考える。
腕の中の体温。
離れない手。
「……今はいいんじゃないか」
「……今は?」
「……先のことは分からん」
「……」
「……でも」
「……」
「……今、安心してるなら」
「……それで十分だ」
「……」
ぎゅっ
少しだけ力が緩む。
「……安心してる」
「……そうか」
「……前より」
「……」
「……怖くない」
「……」
秋山が小さく言う。
「幸せってさ」
「ん?」
「そんな大きいもんじゃなくていいと思うよ」
「……」
「今みたいに」
「安心して」
「一緒にいられること」
「それだけでも十分」
「……」
「……響はさ」
「……うん」
「それ、ちゃんと手に入れてるよ」
「……」
少しだけ、息を止めるみたいにして、
ぎゅっ
「……ほんと?」
「ほんと」
「……」
「……東海林さん」
「ん?」
「……いなくならない?」
「……」
少しだけ間。
「……出来るだけな」
「……うん」
「それでいい」
さっきより、ずっと落ち着いた声。
「……私の幸せ」
「……」
「……ここにある」
「……」
胸に顔を埋める。
「……だから」
「……」
「……離れない」
「はいはい」
秋山が小さく笑う。
「それ、もう前提でしょ」
「……うん」
そのまま、三人でくっついたまま。
幸せの形はまだ曖昧だけど、少なくとも今は——ここにあると言えるくらいには、確かなものになっていた。
静かな夜の中で、三人はゆっくり眠りに落ちていった。




