ぶたさん (第30.5話)
ランドセルをぶん回す小学生たちが往来し始めると、先ほどまで冷酷を気取っていたアスファルトはおばあちゃんの顔へと変貌を遂げる。
なんだかカレーライスの匂いが似合うその空は、どこかクリーム色にもみえてきた。
だがそこに、SEをつけるならおそらく「のしのし」となるであろう、不揃いな闊歩をした大男の姿。
途端アスファルトは、ピザに味噌でもぶっかけたかのように、その男にすべてを捧げる形となってしまった。
まぁその大男は炭木なわけだが、家から徒歩数分とはいえ、この辺りの住宅街に足を踏み入れることはあまりない。
そのためか、周りからの視線もどこか痛ましいものがある気がしてしまう。
横目で携帯のメール画面を確認した炭木は顔を上げ、そのままふぅと息をつく。
目の前にある「藤崎」と記された表札が、藤崎史上もっとも荘厳にみえるのだ。
「でかいな……家」
すのこ(?)のようなおしゃれ外壁に、門扉はハート模様がうねうねっとしている鉄格子。
コメディ作品にでてくる金持ちキャラではないにしろ、SNSで一部界隈から目の敵にされているタイプの富裕層、といった感じか。
プルプルと、慎重に、自身の体をインターフォンにすりつけるよう、炭木は小指でなんとかボタンを押した。
スクワットの要領で腰をかがめながらカメラを覗きこむと、いつものしゃがれた声が聞こえてくる。
普段の奇声からは考えられないほどの低音オフモードボイスではあったのだが。
「はい……」
「あ、藤崎さん? 炭木です」
「……!!? す、炭木! お、おお、おおう、おう……! いま、あ開けるぞっ────!」
低から高のグラデーションで外行きの声が形成されると、最後にはおそらく通話終了ボタンへの攻撃であろう、殴打の音でぶつ切りされた。
するとすぐさま玄関まで駆け降りるバカでかい足音が、外にまで鳴り響いてくる。
「どぅわあっ! 炭木ごめんっ!! 住所だけで家よくわかったな!」
「いえいえ、地図は得意なんで。でもこっちもすみません……、勉強中でしたよね?」
「いやいやあいや、それは全然いいんだけどもね……はい。…………ちなみになんだけど炭木ぃ。それ、ずっと抱きかかえてきたんか……? お前……」
世間話も束の間、さしもの藤崎でも触れざるを得なかったのだろう。
指し示す指先は炭木の懐にいる実妹、藤崎操。
いわゆるお姫様抱っこというやつである。
「ZZZ……うぉっ……、うおおっ……」
「…………」
「……」
「えーと……、事の経緯はさっきメールで伝えた通りなんですけど……。疲れたんですかね、帰り際にベンチで横になっちゃって……それで」
「……っ」
炭木がそういい終えると、藤崎はまっすぐ彼の瞳をみつめた。
その顔は、妖艶さとでもいうべきか、すこし潤っているような気もする。
「………………なぁ、炭木よぉ。いま、うち親いないしさ、よかったら茶でもしばいてくか……?」
「え? いいんですか?」
「うんうんうん、全然全然全然全然」
「じゃあ、そうですね。操さん下ろさないとですし。せっかくならお邪魔しましょうか」
「……!!!!」
藤崎のアホ毛がピコンと跳ねた。
操の後だとなんだか懐かしくも思えてくる。
「じゃ、じゃ、じゃあ! どうぞどうぞお邪魔してくださいよ。操ちゃんはね、リビングのね、ソファにでも寝かしておけばいいからね!」
「はいはい」
「ついでにねぇ、運動後のストレッチみたいなのもやってっていいしっ? スクワットとかねぇ??」
「はぁ……?」
「まあぁ!? 付加とかそういうのでっ!? 錘とか必要ならぁっ!!? 私のこと抱きかかえながらでも!? こっちは、別に、そんな、全然……みたいな感じっすわぁっっ!!?!?」
「なんか透けてみえるな」
その後、藤崎はどやどやなんかやって魂胆通りにお姫様抱っこをしてもらうなどした。
よかったね。
前回のオチにしようとしてたんだけど、構成ぐちゃぐちゃになったから端折ったヤツです。
いままでこういうのは削除してたんですが、なんとなく公開してみました。




