第31話 ドキドキっ! お姫様抱っこで胸キュンハプニング!?
やっほーみんな! 私の名前は藤崎千鞠! 恋に恋する花の女子高生でーす♪
今年で三年生だから勉強に受験に大忙しっ! なんだけど……最近はちょ〜と気になる男子がいて若干サボり気味かも?(テヘ♡)
でもでも! そんな私にも天文部の部長という大任があるの。
これでも結構頑張ってるんだからっ!(ホントニホントヨ?)
ちなみに気になる彼の名前は炭木青樹くん!
天文部の後輩で、無愛想だし体もデカいから威圧感がとんでもない鬼軍曹みたいな子。(←コラコラ)
そんな見た目なのにどこか抜けてるところもあったりして、私が一緒にいてあげないとちょっと心配なのよね〜♪
なんて思ってたら……昨日、帰りが遅かった妹をなんと炭木くんが家まで送り届けてくれたの。
遊び疲れて寝ちゃったみたい。
ほんとびっくり! なんで炭木くんが私の家にっ!? ……って。
操ちゃんもお姫様抱っこなんてしてもらっちゃってぇ……ぐぬぬ、羨ましくなんてないんだからっ!!
……でも、私の考えなんて炭木くんにバレバレだったの。
操ちゃんをソファに寝かしつけた後、なんにもいわずに私のほうに近づいてきて、軽々ひょいっと持ち上げられちゃった!?
い、いきなりお姫様抱っこ!?!?
『……!!? ぉ……っ!?!!?』
『すいませんね。こっちも疲れてるんでちゃちゃっと済ませちゃいますね』
『うぉどぼっ!? でぇべぼ…………!?? ぃであっ!!!?!?』
『しかし藤崎さん軽いですね。ちゃんとご飯食べてます?』
『げぼぼ???? ベボ!?? アバボボぼ??????』
『はいじゃあ終わり。お茶、ご馳走様です。また明日学校で。お邪魔しました』
『あうしっ……あう、あぶぶぅ…………あしゅぅう………………──』
………………………………。
──ハッ!?
……って違う違う、ニヤニヤなんてしてないもん! 私は炭木くんの先輩なんだから!!
でも……もしもう一度お姫様抱っこをしてくれる──なんてことがあれば、その時は素直に……なんてね♡
あーあ、炭木くん、早くこないかなぁー……──。
「ふ────ちゃん」
「どぅふ…………どぶぶぅ……」
「藤崎ちゃん!!」
「うぉう!? か、片岡ぁっ?! ど、どぅおうも、どうも……」
ひとりで乙女チックワンダーランドを展開していた藤崎だったが、ここはいつもの天文部にいつもの放課後。
ほけーっとしている束の間、集合時間はとっくにすぎていたらしい。
「……っ、……っ」
「……?」
藤崎はクルクルと首を回して周囲を見回した。
「……あれ? 炭木は? なんで片岡しかいないん?」
「あら、藤崎ちゃん。メール確認してないの?」
「メール?」
「炭木くん、なんかぎっくり腰になっちゃったらしくて、今日部活お休みするって」
「……っっ!!?!?!!?」
━━第31話 ドキドキっ! お姫様抱っこで胸キュンハプニング!?━━
「なるほど。それで炭木くんにお姫様抱っこしてもらいたかったのね」
「うん……そう」
縮こまった藤崎は唇を窄めて素直に答えた。
昨日あったことも全部話した。
恥とかないんか。
だが片岡、そんな藤崎にむける視線は軽蔑などではない。
どこか朗らかさも醸しだす、慈愛に満ちた表情で胸をポンと叩いた。
「ふふん、安心して藤崎ちゃん! 男の子ならここにもうひとりいるでしょ!」
「は?」
「お姫様抱っこくらい私がやってあげるわよ! ほら、どうするの? こう……持ち上げたらいい?」
片岡は両手をくいくいっと曲げる。
なんとなく片岡がするといやらしさがある手つき。
「うん……いやな片岡、確かにお前の心意気やよしなんだがな……」
「……?」
「お前、人様持ち上げられるほどの筋力、あんのかよ……」
「……!!」
パッとみただけで判別できるその体躯は、間違いなく華奢に部類されるもの。
ふたりは一年二年と同じクラスであり、「二人組でペアを作ってね」には必ずいつメンとして合流してきた。
となれば当然、互いの運動能力など計り知れており、ここでの藤崎がする懸念は事実上のリアルということになる。
「…………っ」
「……」
「握力、26しかない」
「私より低いんだ」
「スクールバッグ重くて腕ちぎれそうだから最近は全部置き勉してる」
「おいコラ生徒会」
「百均で売ってる二キロのダンベル振り回して脱臼したことある」
「生命の危機すら感じる」
………………
…………
「ちなみに飛び降りで即死することってほぼないから自死なら普通に悪手よ」
「なんでそっちが脅してくるん?」
微笑みにしてはカラッとしすぎている笑顔をみせる片岡。
しかし、フィジカル雑魚が露呈したわけだが、何故だか瞳の熱気は失せていない。
ずいっと藤崎に詰め寄っては熱いパトスをぶつけてきた。
「でも藤崎ちゃん、そんな私だけど信じてほしいの」
「信じる……っつってもなぁ……」
「確かに私の筋力は蚊蜻蛉ほどもないわ。それは藤崎ちゃんが一番よく知ってることだと思うし、体を委ねるなら不安になって仕方がない。でも、信じてほしいの」
片岡の演説は続く。
その熱演は茶化していいものではなかった。
「私ね、こんなだから周りからも女の子として扱われがちなんだけど、これでもしっかり男の子なの。男としてのプライドはある」
「お、おう」
「炭木くんがきてからずっと男の子としての役割は彼が担ってきたでしょ? 私は炭木くんにはなれない。ならせめて、炭木くんがいない時くらいは頼ってほしいの」
「…………」
「お願い藤崎ちゃん。私を信じてくれない?」
突然まじめちゃんのオーラを纏いだしたものなので、藤崎はそこに合わせるだけで精一杯だった。
だが片岡の狙いはそこだ。
藤崎は性格上、相手の良心を踏み躙ることができない。
覚悟だとか頼りだとかそれっぽい言葉を並べておけば、生唾ジュルッとフヘフヘ擦り寄ってくるような女である。
片岡はもちろんそのことを理解しており、その上でまじめちゃんオーラを捻出したのだ。
こんな時でも悪い女である。
「わかったよ片岡。そこまでいうなら付き合ってやるよ」
「うふふ、ありがとう藤崎ちゃん」
「そりゃ私と片岡の仲だからなぁ! あとは野となれ山となれじゃ!!」
「よーし、そうと決まれば早速持ち上げちゃうわよ〜! ほら藤崎ちゃん、こっちおいで」
「おう! おう…………!」
*
──────…………。
「ギックリ腰ね」
「…………はい」
「とりあえず湿布渡すから便所でもいって貼ってきなさい。あとあんた筋力なさすぎ。せめて平均値くらいは目指すこと」
「はい……ごめんなさい」
「で、そっちのちっこいの」
「…………」
「尾てい骨あたりに打撲で青タンできてるわ。骨折の可能性もあるからひどくなるようなら病院いくこと。さっさと家帰って安静にする。いいわね?」
「………………は、ぃ……」
「あんたらね、なにやったかなんとなくわかるけど悪ふざけも大概にしなさいよ。養教だからってあんたらみたいなアホの相手するほど暇じゃないからね」
「…………っ」
「ごめんなさい……。ご、ごめんなさい…………」
翌日、骨折とはならなかったが激痛が治らず藤崎は学校を休んだ。
片岡も炭木も腰痛がよくならず、学校を休んだ。
ジジババ、お姫様抱っこで腰ギュンハプニング。




