第28話 ゲーセン(前編)(の後編)
………………
…………
「やっぱダメさね、あんなナヨナヨしたやつわ。もっと破壊衝動を満たせるようなやつじゃねーと」
「そう……っすね」
言い出しっぺのくせにひどい言い草を残す藤崎だったが、炭木はなにも言い返さなかった。
反論したが最後、彼女の勇姿を拒絶したようなものだと、気がついているのであろう。
「もっと血湧き肉躍るやつないかしらね。合法的な暴力こそ至高なのよ」
「かませキャラみたいなこといってる」
シュッシュっとファイティングポーズから拳を突き出していく藤崎。
落ち着きなく辺りを物色しては、目当てのものを探していく。
すると、なにかに気がついたよう目を見開いた藤崎は、ポテポテそれに近づいていった。
「これじゃ炭木。これやろ」
「ん?」
派手さをみせつけるためだけの音が鳴るその筐体周辺は、いままでの雰囲気とは一変した暗さが垣間みえる。
藤崎が指差した筐体の奥の方には、近寄り難いアングラ〜的な雰囲気をまとった人影もあった。
「格闘ゲームですか」
「そうそう、やったことある?」
「いや全然……。昔、友達の家いったときサンドバッグにされたっきりですね」
「なるほどねっ! よしよしよし……」
藤崎は再度ほくそ笑むと、その筐体に寄りかかりながら親指を自分にむけた。
「私、これの前作やりこみまくってましてね? まあ地元じゃ負け知らずレベルだったんすわ」
「へぇ」
「ゲーセン文化といえば格ゲーみたいなイメージもありますしぃ? まあ? やっといて損はないとも思うんですがね?? ま、お前次第だすけど、お前次第」
「はぁ」
「まあ? 私レベルになれば?? 初心者でも簡単にコンボとかそういうの??? 楽しめるように教えを説くこともできなくはないぃ……といいますかぁっっ!?!? となれば??? こう……ねっ!!?!?!?」
「今日ずっとエゴに付き合わされんのかな」
………………
…………
*
──数分後。
ブツブツとした早口で自己完結をしていく藤崎の指導はかなり絶望的なものではあったが、そこは炭木のコミュ力が光るところ。
支離滅裂も首尾三貫くらいには変換可能で、レバーを握る手が様になるのは思ったよりも早かった。
「──で、しゃがみ弱キックから弱パン中パンでさっき教えた弱のコマンドいれたら基本コンボになるから」
「おおできた。HIT4って」
「よし! よし! それだけ覚えとけば適当に振っときゃ火力でるからな。わかんなかったらもう雑にガチャっときゃいいし! 私、むかいっかわの筐体はいるから、対戦すっぞ、対戦!」
ワキワキと腕を振るって、対面する席へと目線をむける藤崎。
炭木も「本人が楽しめてるならいいか」くらいの感じでその横顔を見守る。
もうお父さんとかの感情である。
「ん?」
しかし、藤崎が移動を試みようとしたその時、炭木は画面を凝視しながら眉間にしわを寄せた。
なにか気になることでもあったのか、軽く藤崎の肩をチョチョイとつつき、呼び止める。
つつかれた当の本人はボディタッチなど管轄外もいいとこなので、ビクビクっとバイブレーションで受け応えることになったのだが。
「あ、すみません……。藤崎さん、なんですかこれ」
「ふ、ふぇ……うぇ?」
おずおずながらも炭木の指差す画面を覗きこんだ藤崎。
その画面には、先ほどまではなかった赤黒い墨のようなマークが毛筆されていた。
「……あっ! え!? 乱入だ、乱入! むかいかわ別のひと座っちゃってる」
「えーと……つまり?」
「知らないひとと対戦するってこと! ほら、始まるぞ!」
そんなこともいっている間に、画面にはReady Fightの文字がデカデカと点滅。
臨戦体勢のキャラクターたちが一直線上に向かい合ったその様子は、画面越しであるにも関わらず、先ほどのトレーニングモードでは感じることもできなかった殺気が満ち溢れていた。
炭木も球体に添えるようレバーを握る。
成り行きながら、バタバタの初戦が開戦された。
「教えた通りにやりゃあいいから、いけるいける」
「わ、わかりました……。えーと、とりあえず弾? 撃って……」
シュッ、ガッ! ドガシュっ!!
「しょっぱな前ジャンプ合わされたね」
「はぁ」
キュッ、スパーンっ!
「中パン読んで後退のリーチ外からしゃがみ強だね」
「…………」
シュパッ! ガシャーンっっ!!
「垂直跳び暴発に対空当てられたね」
「……」
ズガッ……、……バキドガガガドドドド、キュイーン……ズガッシャーン!!!
「雑ブッパに引きマジレスされて魅せコンからの超必できみの負けや」
「なんだこのクソゲ」
………………
…………
「違うのっ! ちゃんと腕前が同じくらいのひととやれば面白いからっ!!」
「それはわかりますけど……」
「つぎ私がやってやるから! 手ぇ抜いて接戦っぽくした後に倒してあげるから!!」
「勝たしてはくれないんだ」
すると藤崎、なんだかコソコソと炭木に耳打ちをしてきた。
目を細めて背後へと目線をむける。
「それにさ……さっきのひと、あんまマナー的にはよろしくないっていいますか……。多分さっきのトレモ全部みた上で割りこんできたと思うのよ」
「あー、初心者狩りってやつですか」
「そうそうそう、よく知ってんな。ちょっと待ってさ、あのひとがどっかいってからバトろ────」
「ふっ、くく……」
「ん?」
だが、そんなふたりの思惑も束の間、対面の席からはなんとも可愛らしい声での嘲り笑いが聞こえてきた。
萌え声、というやつである。
とはいってもこの萌え声、親に隠れてスケベASMRでもやってんのか、と思うくらいにはか細い声量。
耳を澄ませてギリギリ届くその声に、鼻息をふかすような嘲笑が混ぜられる。
「ふっ、しょーもねぇ〜……」
「は……?」
「馴れ合いがよ、格ゲしてんじゃねぇよ……気持ちわりぃ。どうせあれだろ……? あの、あれ……プロゲーマー(笑)共の……カス配信みてよ、簡単にできそうとか思ったんだろよ? イキリ動画勢ごときがよぉ……」
「うわぁ……」
炭木、ドン引き。
なんならドン引きと呼ぶのも生ぬるい拒絶。
ここまで絵に描いたような論外人間は初めてみるもので、むしろちょっと笑みすら漏れ出ているほどだった。
「あの……藤崎さん、今日は違うとこいきません? あのひと絶対ホンモノですよ」
「……」
今度は炭木がそう耳打ちをした。
藤崎メンタルにおいて、この手の人種は絶対に関わらせてはならない存在だと瞬時に理解したのだろう。
炭木、いい親になれそう。
「…………」
「ん、藤崎さん……?」
しかし藤崎、なぜかその場から離れようとしない。
普段であればこんなのと相対した瞬間、炭木の影に隠れて目すら合わせようとせず、そそくさ退場をキメていただろう。
だが、今日の彼女は違った。
顔に影をつくり、炭木の言葉に耳を傾けようともしない、堂々とした立ち姿。
もうマナーとか依然の初狩り女へと、強い嫌悪の視線をむける。
「ふぅ…………」
「……っ!? ちょっと! 藤崎さん……!?」
そしてなんと藤崎、そのままカスゲーマーの元へ歩みを進めていったのだ。
喧嘩である。
縄張り争いである。
どうしてしまったのか藤崎。
煽り厨撃退なんてDQNYouTuberしかやらなそうなこと、お前みたいな根暗がしてもろくな目にあわないだろう。
コミュ障陰キャがそこに憧れるのだけはマジでやめとけ。
「ねぇ、ちょっと……」
「あ?」
「いいですって藤崎さん、あんま関わんないほうが──」
「操ちゃんっ! ダメでしょ!! こんなことやっちゃって!!」
「…………え、みさ?」
あっけらかんと瞬きを繰り返す炭木へと、藤崎は堂々とした背中をみせつける。
その甲高い怒鳴り声から程なくして、筐体の影から身長の低いボサっとした髪の女の子が姿を現した。
「ふっ……、おねえも。ダサいんじゃないの? そんな大声だしちゃってよぉ……」
「え! おねえ!? ……い、妹!?」
背が低いといっても藤崎より10センチは高く、姉妹で並ぶとどちらかといえば姉っぽい。
大きな瞳を無理やり細めているせいで、目の下のくまが余計に広がってみえている。
彼女の名前は藤崎操。
14歳、中学三年生。
かくして、割と本当にどうでもいいというか、結構しょうもない気がする姉妹喧嘩が、幕を開けたのだった。
続く!
……続くの?




