第28話 ゲーセン(前編)(の前編)
住宅街を抜けた先には商業施設の多い大通りがあり、藤崎たちが徒歩で通えるエリアの中では珍しく活気づいている。
夏休み後の休日という、遠出をするにも家でグータラするにもやるせないこの時期は、特に用事もない学生たちが賑わしているのだ。
例に漏れず、炭木もちょっとした暇つぶし程度にふらっとやってきた次第。
店のショーウィンドウを覗いては、興味を示すでもなく、冷やかすでもなく、アテのない旅を続けていく。
そのままズンズン奥に進んでいくと、大通りから少し逸れた場所に位置するアーケード街がみえてくる。
薄暗い黄土色の空間が、なんともサブカル的な異国の香りを醸しだし、くらっとしてしまう。
炭木のお眼鏡にかなう施設でないことはたしかだった。
しかし炭木、相いれないであろうその空間へと、目を凝らして覗きこんでいる。
「あれ……?」
目線の先、何かに気がついたよう少し目を見開いた炭木。
思い立っては駆けるように近づいていった。
その先には、ゲームセンターの入り口でユーフォーキャッチャーをしている、ちっちゃい猫背のアホ毛ガール。
「おーい、藤崎さーん」
「……っ!? うえっ! すみ、炭木ぃ!?」
ビクッと跳ねて目ん玉をひん剥いた藤崎。
もう慣れっこといわんばかり、炭木はお構いなしに手を振っている。
「奇遇ですね。勉強の息抜きですか?」
「うぇ、おおん……ま、ままままぁ、そんなとこっすぅ。お、にゅ、お前……は?」
「俺もそんなとこですけど」
「むへらっ、しょ、ふ〜んぬっ……」
藤崎のありえないどもりかたに炭木は少しだけたじろいだ。
彼女、普段は臨戦態勢をもって天文部に望んでおり、炭木とのやりとりにもある種テンプレートを用意している。
まぁ、つまりそのためか、不意の出会い頭には意識がむけられていないということだ。
しかしそこは流石の洞察男炭木、このどもりは準備がとれていないものだと俊足理解。
受験勉強の息抜きの邪魔はよろしくないだろうと、そそくさ退場することを決めた。
「じゃあ俺はこれで。ごゆっくりどうぞ」
「うぇあ!? あっ……うぉんうぉん、ぶぉんぶん……」
「暴走族きた?」
韓国紙幣かもしれない。
「待って!!!!!」
ガタついたエンジンを鼻息で吹かし、目の前を大股で立ち塞がった藤崎。
汗もタラタラにVの字眉毛で炭木を凝視した。
「すみ、炭木くん!」
「はい?」
「えっ、あっ……わー……んんっ」
チューニングでもしているつもりなのか、痰を絡めながら背筋をピンと伸ばす。
そして、息切れなのか甘い吐息なのかも判別不能な息遣いで吐き散らかした。
「わ、私とぉん、一緒に遊ばな〜い……?」
藤崎、迫真のセクシーポーズ。
色気なんてない。
谷間もない。
一瞬だけゴミをみる目が彼女を射抜いたような気がしたが、炭木はいたって普通の顔をしているので、多分気のせいかなにかだと思う。
「俺は大丈夫ですけど、藤崎さんはいいんです? その……あんまり俺と遊ぶような感じじゃなかったんじゃ……」
「んぁ、んおぉ、だいじょぶだいじょぶ。お前と私はファミリーみたいなもんだからな。気ぃ張ることもねぇし。ニコイチってやつよ」
腕を組んでしたり顔の藤崎。
聞くぶんにはまあまあ小っ恥ずかしいセリフを放ったわけだが、彼女がそれに気がついている様子はない。
ただ、炭木の頬は少し赤みがかっていた。
「せっかくさ、ゲーセンいんだから中でプラプラしようぜ。お前どうせこういうとこ無縁だろ? いっちょ揉んでやるよ」
「はぁ……まぁいいですけど、ゲーセンってそんなに複数人で遊ぶものあるんですか? 大体ソロプレイってイメージですけど」
炭木の疑問に、藤崎はなんとも腹立つ顔で人差し指を横に振った。
ちっちっちっと舌を鳴らす。
「甘いぜ炭木ぃ。ゲームってのは常に娯楽の最先端、そしてゲーセンはその文化の極致だ。ほら、ギャルゲーでもデートの選択肢にありがちだろ」
「それは作者がオタクなだけでは」
「そして私は二年くらい前まではここに入り浸ってましてね。案内人にはうってつけってわけよ」
「ほお……」
反り返ったその胸へと炭木は感嘆を漏らした。
ただ、これは感嘆でもなんでもなく、「でも藤崎さんもぼっち通いですよね?」なんて言葉を飲みこんだだけなのであろうが。
「早速だが炭木よ、ゲーセンにきたらこれだけは真っ先にやらないといけないっていう筐体があるんだが、いまからお前にはそれをやってもらいます」
「そんな参拝ルールみたいな」
「私は別にいいんだけどな、お前みたいな新参顔はな、まぁ、やっといたほうがいいかなぁー……みたいなやつよ」
「ふーん。で、なにするんですか?」
「おう、おう。それはな……」
藤崎はモゴモゴとほくそ笑む。
そして、入り口の手前側にある長方形の筐体を小さく指差した。
「これ、プリクラ」
「エゴが垣間みえるな」
━━第28話 ゲーセン(前編)━━
とはいえ炭木、特に断る理由もない。
藤崎の手招きに誘われコイン投入口までついていく。
「五百円ですか。高いのか安いのかもわからん」
「あ、金は私が払ってやるからな。お姉さんだからな。気にすんなよ」
「助かりますけど……、百円玉五枚もあります?」
「…………、……二百円貸して」
「はいはい」
藤崎が慣れた手つきで硬貨をいれると、コイン投入口の上部に設置されたタッチパネルから清廉な紹介映像が流れ始めた。
ふたりは目を凝らしてまじまじと眺める。
この映像を随所まで熟視する必要は正直まったくないのだが、初心者ふたりゆえに見逃し聞き逃しを恐れているのだろう。
「プリクラってどんなポーズするもんなんですかね」
「わかんない……。スカートめくったり? 片乳だしたり?」
「偏った知識」
紹介映像が終わり一通り設定をし終えると、超絶つぶらな瞳をした女性ふたりの写真が数枚流れてきた。
ポーズ選択と記されたその画面には、フォーマル、キュート、ポップ、などの分類がされており、各種九つほどのポージングが用意されている。
「ポーズって指定してくれるんですね。なんか無難な感じの選びましょ」
「うん。えーと……大ハート、キス顔、ギャルピース」
「話聞いてた?」
藤崎、意にも介さずポチポチポチっと押していく。
「あ、これで設定終わりなんだ。中はいって撮影だって」
「うーん……ほんとにやるんですか? いまのポーズ」
「そりゃそうじゃん。五百円もいれたんだから元とらなきゃ損だぞ」
「俺の羞恥を換算にいれんなよ」
きししと笑った藤崎は、居酒屋ののれんかのようにカーテンをめくった。
外観とは打って変わり、内部はかなりの殺風景。
大きなカメラと大きなモニターがあるだけで、以外にも装飾の類いはまったくない。
「うわーうわー、すげ、中こんななってんだ! 意外と広いな!」
「たしかに、証明写真機くらいの広さだと思ってました」
大体、賃貸の風呂場ほどの面積をしており、十人くらいならカメラにも収まりそうではある。
画面には無機質なフォントで「足跡マークに立とう」と書かれていた。
「へー、画面わりとシンプルなんだな」
「カメラ結構高い位置にありますね。藤崎さん映ります?」
「舐めんなよ。私の全力背伸びをみせてやんぜ」
「舐めてよさげな対処法」
足をプルプルと、振り返りながらドヤ顔の藤崎。
そうこうしているうち、明るい女性のアナアンスが聴こえてくる。
『選んだポーズ三枚とフリータイムの三枚で六枚の写真を撮るよ』
「え、フリー? 自由にポーズとるってこと?」
「そうみたいですね。わかんないならピースとかでもいいんじゃないですか」
「やだよ! クラスの集合写真で誰ともつるまずちょっと離れた位置からピースしてたの思い出すもん」
「生々し」
だがどれだけ駄々をこねようと相手は機械。
急な停止などできるわけもなく、プログラムされた通りの進行を務めるのみ。
『画面に表示されるポーズをとってね。3……、2……、1……』
パシャっ!(ふたりで両手をつなぎ大ハート)
パシャっ!(小顔ポーズのおちょぼ口)
パシャっ!(胸を反らせてギャルピース)
「以外と楽しい」
「お、おおう……そうか。それはぁ、よかったです」
『ここからはフリータイム! 好きなポーズをとろう』
合図とともに画面がサイバー的な演出に切り替わると、音楽も盛り上がりをみせていった。
このモードが本番みたいなモノなのであろう。
炭木は写真慣れしていないながらも、体を大きくみせつけるようにサムズアップ。
最初が嫌々だろうとここまでのノリのよさをみせるのは、さすがのコミュ強スピリットといったところか。
『三秒前~、3……、2……、1……』
パシャっ!
「ん?」
「…………」
だが、そんな炭木の右隣り、藤崎はまったくの微動もなく直立不動。
プリクラのプの字も楽しめていない縮こまった直立だった。
「藤崎さん、せめてポーズはとりましょうよ」
「お、おおう。そうだな、うん……」
しかし、その応答に反して二枚目の撮影もまた直立。
ひきつった唇がプルプル震えるのみで、その表情は「明らかなこっちの不手際で上司に詰められた時」の様子、それそのもの。
下手にトラウマを刺激されてしまったがばかりに、わずかな所作さえにもバッドマナーを想起してしまう圧倒的ネガティブ思考。
一度でも苛まれてしまえばフラットな企画による表現など、できなくなって当たり前なのである。
だが、そんな彼女の隣にいるのは陽キャ視姦野郎の優男。
いまなにを考えなぜ震えているかなど、炭木にはまるっとお見通しなのだ。
「藤崎さん、相手は俺なんですからそんな気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「え、あ……」
「元とるんでしょ? 楽しまなきゃ損ですよ」
「……っ! お……、おう!」
炭木の気配りも作用したか、決心のつくいい返事が返ってきた。
シャッターが切られるまでおよそ数十秒。
その数秒間だけが思案の許される猶予である。
藤崎は頭を抱えた。
トラウマに抵触するおそれがあるので無難な集合写真ポーズは望ましくない。
となればウェーイ系どもの内ゲバ虚勢マウント写真を参考にすべきなのだろうが、それっぽいポージングなんて藤崎の引き出しにあるわけがないのだ。
『これで最後の一枚! 三秒前……』
まごまごしているうちに時間はどんどん差し迫ってくる。
眉間のしわも濃くなっていく中、しかし藤崎はなにかを思い出したかのようにアホ毛を反り返らせた。
そう、まずこの手のノリには必ず先人がいる。
今回でいうと最初にあったポーズ選択画面の女子ふたり。
あれらのポーズを拝借することが素人プリクラの定石といえよう。
刹那、藤崎は両手を下腹部付近へと伸ばしていた。
その動きに能動的なものは感じられない。
焦燥によって発熱した脳が勝手に送信をおこない、知見に則った行動をしたまでにすぎなかった。
過去にみた動き、その再現。
藤崎の脳がスーパーコンピュータ並みの馬力をみせ、知識を補うまた別の知識の選択を処理していったのだ。
『3……、2……、1……』
──バッ!!
パシャっ!
「…………」
「……っ」
……と、シャッター音が鳴る直前、なにか布が風を切るような音が聞こえた気もしたが、炭木がその方向に目線をむけることはなかった。
藤崎は知見、データに則った行動をおこしたまでであり、まぁ、現状の犯人探しをするのであれば、人目のつかない閉所に放りこまれた途端に盛りだす、性欲モンスター共のせいだといってもいいのかもしれない。
あえて現状の説明をするのであれば、なんというか、「サービスマン」、とでもいえば、説明として事足りるのだろうか。
*
「あの……データ削除はできましたんで、そんな気落ちしないで……」
「もうプリぃ、二度ど撮らんがらっ……!!」
はい。えー……一ヶ月ぶりの投稿となったのですが、はい。その間ですね、お前は一体なにをやっていたんだと、はい、そのことなのですが……。
まぁ、主にですね、はい。他サイトのですね、企画などに投稿したりなどをしていたのですが、はい。まぁこれはですね、本作のリテイク……みたいなのをですね、はい、投稿……するだけなのでして、三日もあればどうにかなるだろうと……思っていたのですが、はい。実際は三週間近くかかってしまうというですね……計画性のなさを、はい。露呈してしまったといった次第でして。
そしてもうひとつ、今回の話のですね、参考にとプリクラを……まぁ、撮影しにいったのですが、はい。なにやら時代的にぃ……ですね、男ひとりで撮影できるものでもなくて……はい。男のみでの撮影ができるプリ機を探す期間があったと。で、ですね……本文を書き上げていったところ、七千字近くを超えそうでありまして……はい。前後編の回なのにさらに前後編に分けないと……みたいなことにもなってしまいまして、ええ……その、はい。なんといいますか……あの、ええと、はい。
本当にすみませんでした!!!!!!!!!!!




