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後半 1周年だね底辺作品が祝うもんじゃねぇなガハハ的な番外編


 あ? は? え? 勧誘? かんゆう? CAN・YOU?

 え、なんでこいつ私が下船した船に乗りかかってんの?

 なんで同時に出港しただけのまったく違う船の上からアドバイスしようとしてんの?


「発声は体の問題、あがり症は気持ちの問題だと俺は思ってます。気持ちの問題といえば根性論っぽく聞こえますけど、この気持ちっていうのはコミュニケーションにおいて結構重要なものだったりするんですよね」


 始めちゃった、始まっちゃった。

 よくわかんないから適当に相槌うっとこ。


「へー、ほーん」


「藤崎さん声自体は可愛らしいですし、滑舌も悪くないですよね。後は姿勢正して口大きく開ければ、綺麗な声だしができると思いますよ」

「はぁ、ほぉ」


 えーと、姿勢を正して口開けて……、あー……猫背は私のアイデンティティだと思ってたのに。

 てかこいつさらっと私のこと口説こうとしなかったか?


「お腹を膨らませて、へこませる。腹式呼吸の要領で喋りましょう。スーハー、スーハー……こんにちは、こんにちは」

「すーはー、スーハー、……キョ、こんちちはぁ!!」


 ……! で、でかぁ!!


「ほら! ね、ね! 藤崎さんやっぱり筋がいいんですよ」

「うおっひ……すご、すごぉ」


 すげぇ! すげぇ声でた!

 こんなの本屋で店員に返事する時、声量バランス間違えてバカでか「はい!!!!」がでてしまった時以来だぜぇ……。


「発声は大丈夫そうですね。じゃあ問題はあがり症のほうですか」

「お、うおん。あがり症……」


 あがり症、ていうかコミュ障か。

 うーん……発声に関しちゃできんこともなかったけど、こっちは直るビジョンすら浮かばないんだよなぁ。

 壇上にあがって演説とか、クラスをまとめるリーダーシップを発揮するとか…………、いやいやいやいやいやいやいやいや。


「さっき気持ちの問題とはいいましたけど、『勇気だせ』とかそんな精神的な話をしようってわけじゃないんです」

「おぅ?」


「ようはきっかけ。話すにしても、遊ぶにしても、単純明快きっかけさえあれば簡単なものだと俺は思ってます」


 彼は声色ひとつ変えず、淡々と話しこむ。


「内弁慶って言葉があるでしょ。それの内、そのスペースを広げていくって考えるんです。他人を身内だと思いこむという。つかぬことお聞きますが、藤崎さんご家族は……?」

「え、あっ、母親と妹との3人暮らしです」


「おぉ共通点、俺も同じ家族構成ですよ。家族仲とかも聞いていいですか?」

「あぁ、うん。まぁ……ぼちぼち? でも会話とかする時に遠慮はしないなぁ」


 なるほど、これも共にした月日の長さという「きっかけ」からくるものなのか。

 そう考えたら、SNSで誹謗中傷してるヤツが実際に対面したらなにも喋れなくなるとか、片岡が勧誘したら男がいっぱい寄ってきたとか、これらもある種「きっかけ」によるものといえる気がする。


「藤崎さんの中にある声をかけるためのきっかけ、これをみつければ勧誘も容易かと」


 うーむ、私が声をかけるきっかけか……。

 きっかけ、きっかけ……。


 いや、それなら片岡パターンでどうだ?

 私に声をかけたくなるきっかけ、でもいいんじゃないか!?

 そっちだそっち、そっちを用意しよう。

 セクシー逆バニー……、超ミニスカメイド……、あとなんだ、なにがある。


「絵とか、どうですか?」

「エ?」


「その首から下げてる画用紙、シンプルでわかりやすくていいと思いますけど、いかんせんお堅い雰囲気は感じますよね。両脇にでもなにか描けばもっと収まりよくなるんじゃないですか?」


 おお、なるほどなるほど、あったまいいなぁ〜こいつ。

 てかなんで声かけたくなるきっかけ探すほうで妥協してたのバレてんだよ。

 怖ぁ。


「藤崎さん絵とか描けます?」

「あ、うん、ある程度……。ペンは……」

「ありますよ、どうぞ」


 用意いいなこいつ。

 うーん、描くといってもしかしどうすっか。

 天文部だし、ゆるキャラっぽい感じの土星とかがいいかな? バボちゃんみたいな。

 こういうのでジャンプとかの版権キャラ描いたらマジで恥かくからな。

 オタクは慎重に生きる生物なんだぜ。


 しゃっ、しゃっ、しゃら〜んっと。


「藤崎さん絵うまいですね」

「え、そう? そう?」

「はい、素人目ですけど」


「ま、まぁ私、1年生のころ自己紹介で趣味は絵ですっていったらギャルに捕まってオリエンテーション中1時間くらいずっとそいつの似顔絵かいてたこととかあるし」

「ツッコミずらいっすわ」


 んへぇ〜〜〜〜〜! 初めて他人に絵、褒められたぁーーーっ! 脳みそ弾けリュ〜〜〜ーー!! キモティーーーーー笑笑笑笑笑笑笑笑


「勉強とかしてるんですか?」

「い、いやまぁ、ほぼ独学よ、独学。ジャンプのトレスとかやってたし」


 裸コラ目的でしてたのは黙っとこ。


「え! すごっ! 漫画家とか目指してるんです?」

「い、いいゃあ、漫画家なんて、そんな、そんな……ねぇっ!! まあ? 最近? 有償イラストの依頼とかぼちぼちくるようになってきて? ちょこちょこお小遣い稼ぎできてるなぁ……なんてことが!! あったりなかったり!!?」


「へぇ、もうれっきとしたイラストレーターじゃないですか」

「むほほっ、そうねそうね。ゆくゆくはみたいな、ゆくゆくね、そういうのはね、考えてないこともないですからね!」


 おほぉ〜っ、なんじゃこいつなんじゃこいつ、好きか? 好きかぁあ!!?

 え、これさぁ、マジで口説こうとしてんじゃね????

 そんなに私のパーソナルデータ引っこ抜いて…………お、お持ち帰りか……?

 え、もしかして私、今日という日に女になるの?? 初対面の後輩の高身長の筋肉の低音イケボ男子と???? おセッセッセセッセッセッセセッ!!???!


 はっ!? そういやちょっと待て、こいつ私の家族構成とかも聞きだしてたよな……?

 け、結婚か?

 結婚を前提としたお持ち帰り……! 結婚を前提としたお持ち帰り……ってことかぁっ!!!



「──藤崎さんのきっかけ……自分のパーソナルな話題、ですよね……?」



「え?」


 あ? あー……、ん?

 な、なに? なんの話……?


 理解の範疇が超越され、私の脳味噌では、目の前のものを、ただ目の前のものとしてしか認識できなくなっていた。

 炭木の黒々とした眼球に私の顔が反射する。


「藤崎さんが緊張しない話題ですよ。自分の話になったらかなり饒舌になりますよね」

「……あー、ね…………ね……」

「ほら、いまの俺が相手なら緊張せずに勧誘もできるんじゃないですか? やってみましょうよ!」


「あー……うん、えと、天文部でーす……。紅茶とかお茶請けもあるんで、天文学に興味ない人でも……お気軽にー……みたいな」

「うわっ、すごい! ちゃんと言葉が話せてますよ! 俺にはもう遠慮してないってことですよね。成果でてますよ!!」


「…………」


 ……いや、別にいいんすよ。

 元々きっかけをみつけるって話だったし、変にひとりで盛り上がったのがバカみたいとか、そんなんは別にいいんすよ。

 唯一無二の生涯つれそう大親友をみつけたとか思ってないですし、全然、思ってないですし、そんなんはいいんすよ、別に。


 ただね、なんすか、この饒舌になれる分野は。

 自分語りて。

 いや、自分語りて。

 ガキのTwitterかて。


 でもさ、ほら、陽キャ連中もさ、自分語りはよくするじゃん。

 インターバルなく返答できんだもん、コスパいいよなって、自分語り。

 え? 陽キャは自分語り以外のコミュニケーションもインターバルなくできるって? はは……、きみ、面白いこというね。


 てかこれ勧誘にどう使うんだよ。

 通りすがりの初対面に初潮語りするってこと? なんらかの怪異?


 へー、あ、へー……そうなんだ、私って自分語りだけは饒舌なんだ。

 あれ、なんか、なんだろうな、そこはかとないこの感じ。

 自分語り、自分語りかぁ……、自分、語り……。


 てかさっきのそうか、会話、全部自分語りになんのか。

 ひとりで盛り上がって……、盛り上がって……、ひとりで。

 そっか……そっかぁ……──────。





「──…………あ、あのさぁ、炭木……」

「……? どうしました?」



「ちょっとさぁ、首とかぁ、つってきていいかなぁ……?」



「ええ!? なんだ急にこのひと!??」



 ………………

 …………





「…………」

「あれ? どうしました藤崎さん。窓際なんかでたそがれちゃって」

「いやね、ちょっとね、……変わったなぁって、思ってたんよ」

「……? といいますと?」


「私たちがさ、出会ったときのこと、思いだしててね。変わったよなって、私も、お前も」

「はぁ……」


 ふたりきりの時間、体が赤色に染まりだすと思いだす。

 炭木は私のこと、どう思ってんのかな、なんて。

 私の扉を開けてくれたのは間違いなくこいつだ。

 母親でも、片岡でもないんだよな、なんとなく。


 私は諦めねぇぞ。

 末代までの関係、唯一無二の大親友、お友達大作戦だ。



 だってお前はな、初めて、私と対等な目線で向き合ってくれた人間、だもんな────。







「…………」

「ん? なんじゃ炭木ぃ、なんかいいたそうな顔してんじゃねぇか。お姉さんにちょっと話してみぃ」



「いや……何年も前みたいにいってますけど、普通に3ヶ月前ですよね。え、時間の進み遅すぎません? 小学生?」



「懐古ついでにいうけど、お前あんとき絶対猫かぶってたよなぁ」


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