前編 1周年だね底辺作品が祝うもんじゃねぇなガハハ的な番外編
タイトルの通り一風変わったお話にしようと思ったら文字数が6000字超えたので前後編にわけました。
1周年は先週の19日だったので、わける判断がもっと早ければ普通に間に合ってたことになります。
バカだね〜〜〜。
*
右をみても、左をみても、なんなら上をみてみても、見渡す限りひとの影しか映らない。
バカみたいな格好で突っ立っている自覚はある。
だが、そんな私を見向きする影は、この場にひとつたりともいなかった。
「野球部! 野球部どうですかぁ!! 現状部員8人、いま入部すればレギュラー確定もついてくるっ!!」
「吹奏楽はぁ、心のオアシスですぅ。入部のほうをぉ、ぜひぜひぃ、ご検討くださいー」
「うふへっ……、貴殿らは存じぬかもしれぬが新聞はいま需要が急増しており昨年の新聞契約率は近年稀にみる数値を記録したのです。まだ高校1年だしなんて思ってたら遅いも遅い。若者は焦らないといけないのです。新聞部に入部すれば社会人としてのスタートアップを──」
もし私に声を張り上げる勇気があったとする。
して、この下手な創作論を読んだ作家志望が無理矢理キャラ付けを施したモブ、みたいなヤツらの頭を超え、この場の注目を私に集めるなどできるはずもなく。
愛想笑いとともに天文部と綴られた画用紙を首から吊るしているが、道端に生えている変哲のない雑草を摘む人間など、現代社会にいやしないのだ。
まあ、のうのうと陽の光を浴びるヤツらを肴に陰を甘んじることができる私ならば、この貼り付けた笑顔も適役と判断されるかもしれんが。
とはいっても、部活勧誘なんてどう考えても片岡にやらせるべきなのだろうが、あいつは生徒会の仕事で顔をだすことができないらしい。
ま、去年の惨状を鑑みるにあまり頼らないほうがいいことは事実。
私が気張るしかないってことだ。
諸先輩方が残してくれたこの天文部を見捨てるつもりはない。
現状の部員数は私と片岡の2人。
部活動における最低部員人数は3人。
暫定的に部活として認めてもらえてはいるが、それは春を過ぎれば廃部にするという裏返しでもある。
片岡はここ最近「別れを惜しむ友人に贈る言葉」みたいなのをずっと口走っていたが、ここで私が踏ん張れば廃部にはならないんだ。
よし、だすぞ。
声をあげろ。
私の声に反応したヤツに詰め寄って母印を確保する。
幽霊部員になろうがなんでもいい。
在学生の母印さえ確保できれば私の勝ちだ。
だすぞ、声をだすぞ。
声だ、声。
声をだせ、だすんだ……声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声声。
あ〜……あァ〜〜〜──(ソプラノ)。
「──ぁぅあ…………てん、天も……ぶぅ…………テース」
……っっ!!! よしっ! よしみろ、ほらみろ! いったぞ、いった。いったいったいった!
ちょっとばかし美声すぎたかぁ? 放送部とかが黙っちゃいねぇかもな、ヘッドハンティングされちまうよ、へへ……。
で、わ……私のプリティーボイスに気づいたヤツはいるか? いる、いるか……?
「…………」
よし、みんな素通りだな? パッとみた感じ私を注目してるヤツはいねぇな? よし、よし。
よしじゃねぇよ。
ま、まぁ、今日のところは見逃してやらんこともないがな? 私の声があまりにチャーミングすぎて目を合わせることさえもはばかられる、つってもな? 仕方ないかもしれねぇしな???
はぁーあやだね、最近のお子ちゃまは。
勇気がないつーか、コミュ力がないつーか、ゆとり世代の殻こもりドパカスどもがよぉ〜。
よし撤収だ撤収、まだ日に余裕はある。
毎日この美声を轟かせときゃあ蝶でも小蝿でもウヨウヨだろうよ。
まいっちゃうよなぁ、ちょっと本気だしただけでこれだもんなぁ。
あの、さっきの超絶プリチー美少女ウーマンボイス……もしかしてあなたですか?
えぇ? 超絶プリチー美少女ウーマンボイス? まったく自覚はございませんが、さきほどから天文部の勧誘をしているのは私ですが?
まったく自覚がない!? なんて思慮深いおかた……! ぜひ私も天文部に入部させてくださいまし!
つってなぁ! つって────。
──ドンッ!
「──えっ?」
軽快な音が耳底をなぞったと思えば、私の体は宙を舞っていた。
よくみずに歩いていたものなので、なにが起きたかさっぱりだったが、体が地面に衝突するまでの刹那、衝撃のほうを確認する余裕はあった。
男だ。
大柄な男が私を見下ろしていたのだ。
その男はスポーツ中継とかでしかみたことのないレベルの大男で、私との質量差はおよそ3倍。
私はこの電柱のような肉塊と正面衝突していたらしい。
体格差も体格差、私だけが吹っ飛ばされたということだ。
ネクタイの柄をみるに1年生か、若さゆえに周囲の確認を怠ったのだろう。
世界がスローモーションになっていく。
落ちる地面はコンクリート、頭をぶつけりゃひとたまりもない。
これはつまり走馬灯というやつなのだろう。
思い返せばくだらない一生だった。
生を受けてからずっと引っ込み思案だった私は、ひとと関わりを持たずに小学校を卒業して、中学校も卒業して、高校だと微妙に会話ができる相手がいるけどなんら変化なく3年生になって。
なんか……色々あって、うん……、色々あったなぁ……って、なんか……────。
「ろくに思い返すことないヤツに走馬灯みさすなやぁっっ!!!!」
──ガシッ!
……!??
…………っっ!!?
………………!!!??!
「あの! 大丈夫ですか!?」
「ふぇ……??」
………………
…………
なにがおきた?
私は思いっきり後ろに吹っ飛ばされた。
そこまでは理解できる。
だが、それでいま、どうして私はこの肉塊に抱きかかえられているんだ? なぜ私の頭はこいつの二の腕にすっぽりハマっているんだ?
こてんっとそのまま転がったせいで犬でいう服従のポーズになったわけだが、突然のことで羞恥心は湧いてこなかった。
いや、足を上げたばかりにちょっと覗くだけで純白がこんにちはしているこの状態は、服従のポーズと呼ぶよりもマ○○○○しと呼んだほうが伝わりやす────。
「あの……どうしました?」
「はうっっ!!!」
あっ、これやばい。
柔らかくも反発があり、問答無用でいい夢をみせてくる枕のような弾力感。
それをブレンドするは、ちょっとお高いティーンズ向けASMRみたいな低音ブォイス。
目を閉じたらそこはたちまちワンダーランドになってしまう。
アマチュア投稿サイトを漁っている時、全然興味がなかったジャンルが実は大好物だった事実を知る瞬間がある。
それとまったく同じ快楽!
まったく同じ快楽が、脳の端々から分泌されていっているんだ!!!
「──あの」
「はふゃい!! は、ふぁい! ふはい……!!」
「大丈夫そうなら降りてもらって、その……下着、みえてますから……」
「え、あっ、う、はぃ、すい……おい、はい、すいません…………」
うわー、うわー、パンツみられたぁ。
そんでちょっと意識されたぁ。
こいつ私に気があんじゃねぇの。
「怪我とかないですか? 保健室……の場所わかんないですけど、肩なら貸しますよ、先輩」
「せんぱッッ!! およよ、およ、およよよよ」
「ぐっすん? あの、大丈夫そうならもういきますけど」
「おっ、あっ、すいません……はい、うん、大丈夫っす。すみません…………」
苦笑気味にたちあがった彼は、私に背中をみせながら軽く手を振ってきた。
その丸まった背中は大きく、とても大きく、とても……大きく、釘付けにされる。
私はなぜだか、手を振り返したくなかった。
「……あ」
「え」
咄嗟だった。
私は彼の、名前も知らない会ったばかりの彼のブレザーを、ちょんと指でつまんでいたのだ。
なぜこんなことをしたかわからない。
でもなぜだか、間違ったことをしている感覚はなく、なんとなく気持ちは穏やかだった。
「えっと……どうしました?」
ここ1ヶ月ほど、母親と片岡としか会話をしていないことを思い出した。
だからだろうか、舌の燃えた私はいま、私のとる次の行動すら予測できずにいる。
えーと……なんだっけな。
そう、勧誘だ、勧誘。
私の美声に反応したヤツに詰め寄って、母印をせしめりゃいいんだ、いいんだったな。
私のおパンツに反応したということは、つまりそういうことだ。
どういうことだ?
とりあえず笑顔だ。
勧誘の基本、片岡がいってた。
ひきつってても、貼りつけてても、これだけは怠るなって。
笑顔をを絶やさず、後は典型文を並べるだけ。
勧誘の言葉、勧誘の言葉……。
にへらぁ──。
「────テッ!! 天モンぶぅはっ……! いか、いかがでしょう……カァ!!」
「は?」
「天文部は部員がふたりゅいぃ……なので! イマハイればレギュラー確約、テェスッ!!! こころ、ノッッ! オアシスなんです! 天文部はあぁぁぁ…………。テン文学は世界的になんかこうすごい感じになっててなんかすごい感じになってるんで!! いまから学びまなべぼぼ、……しても遅かったり早かったりっっ!!!」
「あ、あー……?」
うおおおお! 初めて、初めてまともな勧誘ができたぞっ!!
どうだっ、どうだッ! まいったかこのヤロォーッ!!
「…………」
「……」
……で、この後どうすんだ?
勧誘する→されたヤツがはいるかどうか返答する→入部届を渡す……だから、ここは相手の出方を待てばいいんだな!?
おほうっ、人生初、待ちのフェーズだぜぇ。
こと17年、山の如しの動かない部分だけは得手の分野だ。
おら、こいっ! こいっ! 受け止めてやんよぉ!!
「……部活勧誘、ですか」
「おびょっ! しょ、そうでしゅう!」
「先輩、お名前を聞いても?」
「せっ! あっ、藤崎千鞠……17歳、身長140センチ、好きな食べ物はごぼうを甘辛くあげたヤツ」
「藤崎さんですね。俺、炭木青樹です。好きな食べ物は大根の天ぷら。……で、さっき部員数はふたりっていってましたけど、もうひとりは……?」
「え、あ、片岡は生徒会っす」
「なるほど……」
そういった炭……か、す、彼は、数刻の思案をしたのち、納得のいった表情で手を打った。
「わかりました。たしかにひとには向き不向きがありますしね。俺も乗りかかった船です、協力しますよ!」
「おお!」
なんやこいつぅ! やるやんけこいつぅ! 話のわかるヤツじゃねぇか。
やっぱこいつ私のこと好きだろ絶対。
じゃあ早速、気がかわらんうちに入部届にサインもらわんと。
「おお、お、サイン……にゅ、入部────」
「とりあえず、まずは発声練習からしますか」
「おお!! …………お?」
発声……?
「それともあがり症の克服から始めますか? 勧誘といっても一筋縄じゃないですから、まずは部員ひとりでも確保できればいいですね。そこを目標に頑張りましょう!!」
「おお、……お、お?」




