第七話「酒呑童子の過去」
「怪物」
彼は人間からそう蔑まれ、憎まれてきた。
額からは二本の黄金に煌めくツノが生えており、肉体はダイヤの如く硬質なもので、ほとんどの攻撃は無に帰す。
通常、戦闘種族にとって強いことは誇りだ。
だが、彼は心を痛めていた。
人と同じように生活したい。
人と同じように話したい。
人と同じように戦いたい。
と、切実に思いを馳せていたのだ。
彼には生まれた時から親も兄弟もいない。
しかし、背中を預けられる仲間はいた。
人族の中でも屈強な「侍」
盃を交わし合い、他愛もない会話をし、喧嘩する。
彼にとってこんなにも楽しいことはなかった。
年月が過ぎて、彼も青年になると二本のツノが生えたことにより、蜘蛛の巣が散るように彼の周りから仲間が離れていく。
彼もその仲間達も知っていた。
実は人ではない、ということを。
同時に鬼でもないことも知っていた。
彼は人と鬼のハーフ「鬼人族」だ。
鬼人族は戦闘を好む戦闘種族で、極めて強いが絶滅危惧種だと言われている。
彼は毎日葛藤に苛まれており、人を襲い、鬼を襲い、又は別の種族を襲い、そうやってフラストレーションをぶつける。
しかし、そんな彼にも転機が訪れる。
「なんだ? 貴様は」
「鬼人族のはぐれ者」酒呑童子は屋敷に訪ねきたある男に向かってそう言い放った。
この屋敷に来る者は大抵こんな理由だ。
1、酒呑童子討伐
2も3も4もないのである。
彼は仲間に身を売られ、同種の「侍」に追われていた。
「私は藤原頼政。陰陽師の者だ」
「陰陽師……」
一度は耳にしたことがある役職だ。
式神と呼ばれている下級の神を操り戦う職種。
そんな奴が我に勝てると言うのか?
ハッ、笑わせるわ
「早々に立ち去るが良い。貴様も侍と同じように死ぬぞ?」
その男は何も答えなかった。
否、表情は物語っていた。
「貴様も我をそんな目で……そんな目で見よるか!!」
酒呑童子は激昂し、素手で殴りかかる。
しかしその男は抵抗しなかった。
腰に携えている武器を取り出すこともせず、堂々と酒呑童子の目を見て、ただ立っている。
「これも、罠だろぉぉぉ」
ありったけの力で殴り飛ばす。
その男は地面に三回リバウドし、横になった。
「……は?」
我は知っていた。
その男が反応できた事を。
酒呑童子は幼い頃から相手の力量を押し測れた。
その男は今までの侍とは比にならないほど強い。
「なぜ……」
酒呑童子の頭の中は疑問符で埋め尽くされており、掃き出さなければ精神が錯乱する。
――ドンッッ!!
一蹴りで地面が揺らぐほどの脚力。
倒れ伏せている頼政の頭部に高速移動し、そのまま掌で押しつける。
「……ぐ、がはっ」
「……ッッ!?」
通常なら蟻のように潰れていただろう。
たかが人間なのだから。
しかし、その男の頭は倒壊するどころか一滴の血も流していなかった。




