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「え?いや、だって俺、護民騎士だよ」
「ほう。では、護民騎士として騎士団長を目指すか」
「いや、それは…」
ナップは珍しく口ごもってしまう。
「ならば、一生平騎士として市民達を守り、皆に慕われる存在となるか」
「…………」
ナップがついに口をつぐんでしまったのは、ガンダルガが示した二つの未来が、あまり自分にとってしっくりとこなかったからである。
「これは、あくまでもわし個人の考えじゃが……」
ガンダルガは、今度はカウンターの中に目をやり、ナップには横顔を向けたまま、何気なさを装った口調で話しはじめた。
「お主の戦士としての太刀筋や戦い方、機転のきく頭の働き……そして、何よりもその気質が、騎士などというお役所仕事よりも、わしらの稼業に向いてると思うんじゃ」
「…………」
ナップは何も答えない。ガンダルガは肩をすくめると、いくぶん柔らかな表情に戻った。
「すまんな、酔った勢いで余計な事まで口を挟んでしもうた。ま、フィンの騎士団はかなり自由な気風と聞くし、わしが気にするまでもないかもしれんな」
そういうと、ガンダルガは勘定をカウンターに置いて、立ち上がる。
「まあ、もし……もし冒険者になりたくなった時は、わしに一声かけてくれ。こう見えてもいくつかは、つてぐらい持ってるでな。ただし、わしが棺桶に入ってから頼みに来ても遅いけどな」
最後に自分が放ったブラックジョークらしきものに一笑いすると、ガンダルガはのれんをめくり、屋台の外へと出て行った。
「じゃあな、小僧」
「じゃあな、じいちゃん」
一人残されたナップは、少しの間、頬づえをついて何やら考えているようだったが、やがて立ち上がり、店主に話しかけた。
「ごちそうさま、すごいウマかったよ!!いくらになんの?」
「500フィンです」
「安っ!!」
ナップはお代を店主に渡すと、再びもと来た道へと足を運んだ。
もはや、通りに全く人影はなく、月明かりに照らされた護民騎士は、特に足を早めるわけでもなく、散歩をするような足取りで、石畳の道を進んでいた。
先ほどのガンダルガの言葉は、言われた直後よりも、こうして一人になってみてはじめて、じわじわと心の中に染み込んできていた。あの老戦士は、今まで自分の中でどこか煮え切らないまま持て余していた感情を、明確に言語化してくれたように思えたのだ。
「さて、どうしたもんだか」
ナップは、軽く笑って肩をすくめた。
すぐにどうこうするつもりはなかったが、彼の心の中には確実に新たな思いが形成されつつあった。
「こりゃ、今度じいちゃんにリャンメンおごらないとな」
無論、先のことはわからないにしても、いささか無骨な語り口ながら、ガンダルガが彼の進むべき道、彼が彼らしくいられる道を気づかってくれたことは確かであり、そのような先達に出会えたのは、少なくともこの街に来てから初めてであった。
「ったくさ」
ナップは、周りに誰がいるというわけでもないのに、照れ隠しのような笑みを浮かべた。視界の先には、もう護民騎士の宿舎が見えてきている。




