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翌日、ナップは通常どおりヨルム市内の巡回勤務を終え、宿舎に戻ってきていた。
いつもならば、必ずといっていいほど、誰かと飲みに行く彼であったが、今日はボッシュからの報告を聞くため、部屋でおとなしく待機していた。
あの奇妙な夜の一件の後、最終的にメイシンをボッシュに紹介する事を決め、連絡用の使い魔を彼に渡したのは、ナップ自身である。
魔女メイシンから感じるうさん臭さが消えたわけではなかったが、あの夜に彼女から「人間らしい」部分を感じとる事ができたのも確かであった。
とはいえ、彼の友人が蛙やカマドウマの姿になって帰ってくる可能性とて捨てきれず、ナップとしては、あの気のいい友人が無事に帰ってくるのを待つばかりであった。
ボッシュと同室の騎士の話では、彼はまだ戻ってきていないようである。
夕食をすまし、寝台で剣の手入れをしていると、同室のラルスが勤務を終えた様子で帰ってきた。
「お疲れ」
「ああ。ナップは、もう飯食ったの?」
「おう」
「なんだ、今日はやけに早いな。んじゃ俺、食堂行ってくるわ」
「ああ、悪いな」
ナップと夕食をとるつもりだったラルスは、いくぶん残念そうだったが、気をとり直した様子で、そのまま部屋を出ていった。
「あ、そうそう」
「うわっ!!」
退出した直後、ラルスが再びドアを開き顔をのぞかせたので、不意をつかれたナップは思わず声を上げてしまう。
「ボッシュの伝言忘れてた。何か用があるから練兵場まで来いだとさ」
「おっ!!わかった、ありがとな」
どうやら、本日の主役が人の姿のまま戻ってきたようである。果たして、魔女メイシンと過ごした一日はどのようなものだったのか、報告を聞くためにナップは部屋を後にした。
練兵場は、宿舎と同じ敷地にあり、護民騎士たちが体を鍛えたり、剣や槍の腕を磨くために自由に利用できる施設である。
木造で天井の高いつくりの建物の中はガランと静まり返っていた。
夕食時でもあり、奥の方で剣の素振りをしている騎士が二人程いたが、それ以外には誰も見当たらない。
「ナップ!!」
声をかけられた方を振り向くと、そこには護民騎士ボッシュが座っていた。
騎士達が休憩に使う木製のベンチに腰かけた彼は、なかなかに高そうな黒い礼服に身を包んでいた。
それ自体はそれなりに似合っていたのだが、場所が場所だけに違和感をかもし出していたのも確かである。
「なんだよ、ずいぶんいい格好してんな」
礼服の若者の隣に腰を下ろしながら、ナップがいくぶん茶化した口調で話しかける。
「ああ、ちゃんとした店に行ったからね」
ボッシュはいつもと変わらずにこにこと答える。全く落ち込んだ様子はなく、といって喜びはしゃぐわけでもなかったので、彼の今日の成果がどのようなものだったのか、さすがのナップも計りかねていた。
「んで、どうだったんだよ?」
ナップは、ストレートにボッシュに問いかけることにした。
「ああ。南区のレストランで昼ご飯を食べて、その後は国立劇場でミュージカルを観てきたんだ」
「おお……ミュージカルか」
なんともセレブな一日である。ボッシュ自身に偉ぶったところが全くないため、ナップは、彼が大富豪の息子であるということをついつい忘れてしまうことが多かった。
「うん。人気女優のルウラ・ドリアスが主演のやつで、これが前評判に反して結構ー」
「いやいやいや、ミュージカルの話はいいって」
全く畑違いの話題になだれ込みそうになったため、ナップはあわてて軌道を修正した。




