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ナップの蹴りをまとに受けたマネキンは、そのまま後ろに吹っ飛び仰向けに倒れこんだ。その衝撃で人形の剣は手からはね飛ばされ壁際の方まで滑って行った。
「胸の真ん中を狙うんだよ!!」
アリッサの声を受けたナップは、ようやくよろよろと立ち上がった人形に向けて速さと正確さを合わせ持った突きを繰り出した。
ガシャァァン
彼の剣はアリッサの指摘した箇所を見事に刺し貫き、それと同時に陶器が割れるような音があたりに響く。
するとマネキンは、その音に呼応するかのように全ての機能を停止し、文字通りのただの人形へと戻った。
「そっちのはここだ」
アリッサが人差し指で自分の頭部をちょんちょんとつつく。
彼女の指示の意味を悟ったナップは、太腿を切られ、膝をついたままじたばたと剣を振り回しているもう一体の人形のところへ行くと、その頭部を剣で貫いた。
すると、先ほどと同じような音が響き、こちらの人形もその活動を終息させた。
「ばあちゃん、こいつらは…?」
剣を鞘に収めながら、ナップは目の前に静かに横たわる「動く人形だったもの」に視線を送る。
「まあ……大きく分ければゴーレムの一種だろうね。精巧な人形に魔力を凝縮した『核』を埋め込んで、見張りの剣士がわりに使うのさ」
先ほどナップが人形を停止させる一撃を決めた時、何かを砕く手応えを感じたのは、その核が破壊されたからのようだ。
核の埋め込まれた場所が違っていたのは、弱点がたやすくわからないようにするための製作者による工夫らしい。
「じゃあ、これはメイシンが作った人形ってことか」
「まさか!!あいつにそんな技術はないよ。おおかた、カタログ販売してたやつを、ドルクロスあたりから取りよせたんだろう」
大陸中央にある魔道王国ドルクロスは、魔道王グリムスによって治められている魔道士たちの国家で、呪具産業のメッカでもあった。
「さて、じゃあ行くとするかね」
アリッサは、木の扉の前まで来ると、猫をかたどったレバー式のドアノブに手をかけた。
ガチャガチャガチャ
音が鳴るところを見ると、結界こそはられていないが、普通に鍵がかかっているようだ。
「ったく、めんどくさい」
アリッサはそう言うと、ブツブツと口を動かし始める。
「さあ、アリッサ選手、本日二発目のキックです!!」
ナップがおどけてスポーツ実況のようなチャチャをいれる。
ドガァァァン!!
しかし、ナップの予想は外れ、アリッサ選手は両手を突き出し、衝撃波のようなものを撃ち出した。もっとも、扉が後ろに倒れるという結果は変わらなかったが。
「さあ、行くよ」
ズカズカと中に入って行くアリッサを尻目に、ナップは初めて、護民騎士である自分が相当な不法侵入をしてるのではないかという事に気づいたが、その考えはひとまず頭の隅に押しやることにした。




