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扉の中には、花柄の壁紙と板張りの天井に囲まれた、先ほどのアパートなどよりはるかに立派な部屋が広がっていた。そして内部の様子は、まさしく「魔女の住処」と呼ぶにふさわしいものだった。
壁際には本棚や薬棚がいくつも並び、中央の大きな丸いテーブルの上には、開きっぱなしの書物や巻物、いくつかに山分けされた薬草類、何かを煮こむための器具などが乱雑に置かれている。また、天井部分からは幾筋もひもが垂れ、その先にはトカゲの様な生き物が干されていた。
「うわっ、何か絵本の中に来たみたいだな」
ナップが感嘆の声を上げながら前に進み出たその時…
ボォォ!!
部屋の隅から、握りこぶし大の火の球が、彼めがけて飛んできた!!
「おいっ!!」
彼はとっさに身を屈めて火球をやりすごした。オレンジ色に燃え盛る火球は、そのままナップの後方にいたアリッサめがけて短い尾を引きながら飛んでいき、彼女の眼前へと迫った。しかし、老魔法使いが面倒くさそうに指を鳴らすと、火球は一瞬のうちにかき消されてしまい、あたりにはほのかな熱気のすじが残るのみとなった。
「こんなところで火炎魔法を使うなんざ大アホだね。紙にでも燃え移ったらあっという間に火の海だよ」
アリッサが向かって左奥にある棚の隅に声をかける。
その一角はこちらから死角になっていたのだが、先ほどの火球は確かにそこから飛んできたのだ。
「うっ、うるさい!!」
ついに、棚の陰から姿を現した相手を見てナップは困惑した表情になる。
「子どもかよ…」
彼らの正面に立ち、必死の形相でこちらをにらんでいるのは、十才前後の少年であった。
濃い茶色のサラサラとした髪は耳を隠す位にのびており、緑色のクリッとした瞳が印象的なその少年は、枯れ葉の様な色のローブに身を包んでいた。
「お前たちっ!!伯母様の宝石目当ての泥棒だなっ!!」
少年の突き出した両手の前には、すでに先ほどと同じ火球が浮かんでいる。いつでもこちらにそれを撃ち込んできそうな勢いである。
ナップは彼が口にした「伯母様」という単語に引っかかりを覚えたが、とりあえず今はそれどころではない。
「宝石にはあんまり興味がないねぇ」
「じゃ、じゃあ何か価値のある呪具を…」
「こんなちんけな呪具は入り用じゃないよ。どれも二流品じゃないか」
「じゃあ……依頼人なのか!?」
「はっ!!あんな三流魔女に何か頼むくらいなら、自分で解決するっての」
「うう……」
アリッサの子ども相手でも容赦のない言葉に、あっけなく論破された少年は、顔を真っ赤にして再び実力行使に走った。
「お、伯母様をバカにするなあぁ!!」
再びアリッサめがけて火球が放たれる。
アリッサが再び指を鳴らすと、今度は彼女の目の前でつむじ風が発生し、それに巻き込まれた火球は、あっという間に消え失せてしまった。
「ははあ」
アリッサの顔にいやな笑みが浮かぶ。
「さてはあんた、この術以外に何も使えないんだろ」
「…………」
「言い返せないとこをみると図星のようだね。そんな腕でよくもまあ、このあたしに挑戦できたもんだね」
少年は何も言えず押し黙っていたが、一瞬の後に―
「うわぁぁぁぁぁん!!!」
「ばあちゃん……追い込みすぎ」
猛烈な泣き声をBGMに、ナップが肩をすくめた時であった。
「アリッサちゃん!?」
部屋の入口に新たな人影が現れた。




