76話 町の掲示板(ユイの捜査)
「うーん。やっぱりそんな簡単には見つからないかぁ」
町の掲示板にやってきた私は、はあとため息をつく。
「貴方がお探しの赤毛の女の子を探すような申し出は過去5年洗いましたが、ありませんね。何か事件に巻き込まれている可能性があるならば、そっちの情報を集めている、情報屋に聞いた方がいいですよ」
「分かりましたありがとうございます。ああ、そうだ。私が赤毛の女の子の情報を探している事を掲示してもらってもいいですか」
ここは町の掲示板で、失せモノや探し人の情報などが焼き粘土板に書かれて、掲示されている。そして目の前にいるのはその掲示板の管理人で、文字などが読めなかったり中々情報が見つけられなかったりする時に、有料で代読してくれる人だ。今回、仕事の空き時間に、その人にも手伝ってもらって、誰か赤毛の女の子を探していたりする人がいないか探してもらっていたが、合致する特徴の探し人はいなかった。
私はがっくしと肩を落としつつも、チップを払いながら、探し人掲示を依頼する。掲示代はチップ程度であまりかからないが、もしも見つかった場合は賞金を出さなければいけないので、結構割高だったりする。それでも、城での給料を溜めこんておいたので何とかなるだろう。
「分かりました。赤毛の子の年はいくつですか?」
「えっと。たぶん10から13ぐらいの間だと思います」
「名前は?」
「えっと、確か……フレイヤ……だったはず。赤毛に緑の瞳で、ちょっと背格好は分かりませんが。あ、性別は女です」
必死にゲーム情報を思い出そうとするが、脇キャラな為、情報が少ない。それに、ここはゲームの時間軸より前なので、今の赤毛の女の子がどんな姿なのかも分からない。背か高いのか低いのか、太っているのか痩せているのか、髪が長いのか、短いのか。
例えば一番の特徴である髪の毛を染めていたら、もう私の能力では見つけ出す事はできないだろう。
「この町の赤毛は少ないから、まあ居るなら情報は早めに集まるでしょう。これだと思う情報が来たらこちらから連絡します。どちらにしましょう」
「じゃあ、ハン伯爵の城まで。……えっと、ユイ宛でお願いします。しばらくはそこに滞在していますから」
もしもここを出発するまでに見つからなければ、デュラ様に引き続き情報集めをお願いするか、それとも定期的に魔王城に連絡を入れてもらうか悩みどころだけど。
「ユイ? ああ、貴方が伯爵様の賢者様でしたか。でしたら、僕もしっかり探させてもらいますね」
「……はあ。ありがとうございます」
事務的な受け答えをしていたが、名前を出した瞬間、少しだけフレンドリーな空気となった。流石、デュラ様効果だろうか。領民にも愛されているなんて、デュラ様は本当に素晴らしい。
「ところで、この掲示板。何か改善した方が良いところとかありませんか?」
「へ?改善ですか?」
「いや。折角、賢者様が見えたので、僕も相談してみたいというか」
「はぁ。えっと改善というか、粘土板って重いし、場所も取りませんか?なので折角ですし、今王都で使われている、紙を使った方が良いとは思いますが」
折角の意味が分からないが、とりあえず思いついた事を伝える。
粘土版は、焼いてあるので簡単には崩れないだろうが、中々に扱いが大変そうだ。
「ああ、羊皮紙は一部使ってますよ。でも高いので、そんなには使えないというか……」
「えっと。羊皮紙ではなくて、木片から作る紙の方です。この間、ルーンさんがかなりコストを抑えられるようになったって言ってましたし」
トイレットペーパーの為にお願いしていたものだ。
まだトイレットペーパーというにはおこがましい厚みだが、ちり紙レベルにはなってきている。それを分厚くすれば文字も書けるだろう。それに、羊皮紙よりペン先も引っかからないだろうし書きやすいのではないだろうか。
「そんなものがあるんですか?」
「はい。低コストにできたのは本当に最近なんですけど。でも、職人さんって凄いですよね」
本当にありがたい限りだ。職人さんは、本当に大事にするべきだと思う。
「いい情報をありがとうございます。さっそく王都の知り合いに問い合わせてみます」
「はい。こちらこそ、掲示お願いします。あ、これ、賞金の前金です」
「分かりました。確かに受け取りましたので、これを控えとしてお持ち下さい」
そう言って、宝玉を半分に割ったものを革袋に入れて渡される。私はそれを受け取ると首から下げた。いわゆる引換券代わりのものだ。
「後、掲示代は――」
「今回はおまけしておきます。こちらもいい情報を頂いたので」
「えっ?いいんですか?」
「はい」
ラッキー。おまけしてもらえるなんて。今日はついている。
ルンルン気分で私は店を後にして、大通りへ出た。
「ユイ様は、本当に凄いですね」
「へ?何が?」
しばらく歩いていると、ハティーがそう声をかけてきた。
「新しい情報をちゃんと使いこなせている所がです。紙は私も知っていましたが、掲示に使おうだなんてパッと思いついたりできませんし」
そうだろうか。それより私は、あの掲示板制度を最初に作った人が凄いと思う。テレビもネットも、それどころか新聞すらない状態でも、ちゃんと情報のやり取りをしようとするとか、凄い気がする。
私も大分とこの国の言葉を覚えてきたし、将来ああいう、代読の仕事とかいいかもしれない。遣り甲斐がありそうだし、見つかった時、依頼人に本当に喜んでもらえそうなところもいいなぁと思う。
「私、次は代読の仕事につこうかなぁ」
「は?代読?次?」
「いいよねぇ。ああいうの。この国独特の仕事って感じだし」
やっぱり、ザ・ファンタジーな職業は憧れる。魔道士とかは無理だけど、掲示板の管理ならなんとかできそうな気がするんだよねぇ。
「いや、いいって。ちょっと、ユイ。待って。家庭教師の仕事はどうするのよ? それに賢者の仕事も」
ハティーが慌てたように私に聞いてきた。敬語も抜け落ちてしまうぐらい慌てるなんてどうしたのだろう。
「別に今すぐって話じゃないよ。ハティーが次の仕事をちゃんと見つけられる程度には余裕を持つし。たださ、家庭教師の仕事はいつまでもできるわけじゃないから、私もちゃんと将来は考えておかないとなんだよね」
魔王様との距離がうまくつかめないようならば、魔王様に家庭教師が不要となる前に、お暇をもらわなくてはいけないだろうし。もちろんいきなり抜けると混乱が起こりそうなので、それなりに、事前対応も必要なのは十分分かっているけど。
「私の勘が正しければ、ユイは辞めるべきじゃないと思うわ。というか、辞められないというか……」
「そうかなぁ。私が居なくても、特に何も変わらないとは思うよ?」
突然いなくなれば、そりゃ最初は混乱もあるだろうけど。でもすぐに何もなかったかのようになるのではないだろうか。
「少なくても、私はユイが居なくなったら困るわよ」
「だから。ちゃんとハティーの仕事斡旋はやるってば」
「そうじゃなくて。私が寂しいって言ってるの」
思っていた言葉と違う言葉が、ハティーの口から飛びでてきて、一瞬何を言われたかを理解できなくて、ポカンとする。でもすぐにカッと顔が赤くなる。
「いや。えっと。ま、またまたぁ。そんな、褒めても何も出ないよ」
そう言いながらも、ニヤニヤが止まらない。ヤバい。嬉しすぎて、どうしたらいいのか分からない。
私のテレが伝わったかのようにハティーも頬を紅潮させる。微妙に気まずいというか、気恥ずかしい空気が流れてでお互い顔を見合わせてへらっと笑い合った。
「うぅ。その……えっと。ありがとう」
私は気恥ずかしいまま、改めてお礼を言う。
やっぱり人に必要とされるというのは、嬉しいものだ。しかもそれがお世辞とかそう言うのが抜きだというのが分かっていると、その嬉しさは一入だ。
「でもそう思っているのは、私だけじゃないわよ」
「そ、そうかな」
「ええ。少なくとも、魔王様は明らかにそうでしょうね」
ハティーの言葉で一瞬で、現実の問題を思い出してずんと気分が重くなった。必要とされるのは嬉しい事なのになぁ。
「うぅぅ。やっぱり、私が誑かしているように見えるのね」
「えっ?誑かす?」
ハティーが何を言われたか分からないと言ったような顔をしてた。でも、そう言う意味でしょ?
「でもね。確かに可愛い子は好きだし、魔王様はこの世で一番可愛いけれど、私何も手を出してないよ?!」
「そりゃ、手を出すならユイからじゃないでしょ、普通」
「えっ?」
今度は私の方がキョトンとしてしまう。私が手を出してないなら、一体誰が手をだすというのか。
だって、生徒がどれだけ好きですと言っても、先生が何もしなければ問題はないのだ……普通は。まあ、今回は魔王様が相手だから、もっと慎重に行かなければいけないのだけど。
「ああ。何となく、ユイがどうして突飛な事を言いだしたか分かってきたような気がするわ。ユイ、別に誰もとは言えないけれど、でも大半の人はユイを責めたりしないわよ。……同情はするかもだけど」
「何で同情? でも大半の人が良くても、一部の常識人が私を豚箱に……。確かに私は魔王様の所為で萌え豚かもだけど、豚箱行きは嫌なわけで」
うぅぅ。この国の刑法ってどうなってるんだろう。ちゃんと、弁護士が付くのかなぁ。中世ヨーロッパの刑務所って衛生的じゃないって聞いた事があるし。
もしもの時は、必死に逃げて亡命とかしないとなのだろうか。できるかなぁ。
真面目に考えると憂鬱になってくる。
「たぶん。そう言う心配は大丈夫だと思うわよ。というか、魔王様が許さないでしょうし」
「そうかなぁ」
「むしろ、ユイはちゃんと自分がどうしたいのか考えておいた方が良いと思うわ。……もう、手遅れかもだけど」
「えっ。やっぱりダメって事?」
何?どういうこと?
この国の常識がまだ良く分かってない所為か、ハティーの言っている事が上手く理解できない。大丈夫だけど、手遅れで――ええっと、つまり、いいの? 悪いの? どっち?!
「まあ、頑張りなさい。なるようになる気がしてきたわ」
「だから、もっと分かりやすく説明してよ!!」
私にとっては死活問題なのだ。なるようになるが、悪い方向では困る。
私は大通りの中心で、人目を気にする余裕なく叫んだ。




