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74話 情報の交換(ユイの天啓)

「つまり、魔王様ルートに入る為には、その他の人のフラグ折をしなければいけないと?」

「その魔王様ルートが、俺と魔王が付き合うという意味なら、そうなるけど。でも俺はそのルートも壊したいの」

 こそこそと、お食事処で私は勇者と話しながら、私は腕組をして考えた。

 どうやら勇者の特殊能力は、何処かが欠けている、闇を抱えたような男性をホイホイするという厄介なものらしい。ただし恋愛感情に関しては、思春期以降に限ると注釈つきだ。

 ここまでの中間報告はフレイが考えたものらしく、聞いた時、私もなるほどと思った。つい最近私も、このゲームで勇者を好きになる人は皆、何かかしら孤独を抱えてるよなぁと思ったばかりだ。まあ、私の場合はゲームを面白くするためのスパイス的意味合いかなくらいにしか思わなかったけれど。

 流石はフレイだ。ゲーム脳ではないので、目の付け所が違う。


「むぅ。魔王様の何がいけないというんですか?」

「性別」

「それはどうしようもない事ですねぇ」

 BL主人公なら、性別という壁ぐらい、軽く乗り越えてくれると思ったのだけど、意外にその壁は大きいらしい。

「とりあえず、分かりました。魔王様以外の方とくっ付かない為にも、1人1人危険を取り除いていきましょう。特に今は勇者君のパーティーメンバーが最優先ですね」

 少なくとも、魔王様以外のフラグを折らなければいけないという事は、私と勇者の間で共通した事柄だ。

 それにパーティーメンバーは、ゲームでガチの攻略キャラ。魔王様ルートの途中で復活してきてもらっては困る。敗者復活なんて、そんな奇跡あってたまるかというものだ。

「でも、皆の闇って言われてもなぁ」

「そうですね。とりあえず、今のところオーディン君とバルドル君は大丈夫だと思いますよ」

「えっ?そうなのか?」

 勇者の食いつきがかなりいいのは、それほどまでに、BLルートが嫌だからだろう。うーん。ゲームの勇者は、大抵求められたら同情してホイホイ流される子だったんだけどなぁ。そのホイホイ過程に男だからとか女だからとかという葛藤はあまりなくて、どちらかというと人をまっすぐ見る子だった。

 今もまっすぐ見てはいるのだけど……、男とか女とか考えるように成長してしまったようだ。うーん。何でだろう。

 まあすでにこの世界がゲームから外れてきているからかもしれないけれど。


「オーディン君の心の闇は、オーディン君という存在をまっすぐに見てくれる人がいない事です。オーディン君の身分ばかりに目が行ってしまう人が多いので。ですが、勇者君はそんなオーディン君とライバルで、オーディン君を貴族としてではなく対等な一人の人物として見てくれるので、そこにオーディン君は惹かれているんです」

「えっ。アイツ、そんなに繊細なの?」

「そうですよ。彼は結構気を使っていないようで気を使っていたりもします。勇者君の前で少しうるさくなってしまうのは、勇者君に自分を見てくれというアピールですね。ですが、今はノルンちゃんがオーディン君に張り付いていますし、ノルンちゃんはオーディン君の貴族の部分なんて全然見ていないので、上手くいくと思うんですよね」

 ゲームでノルンが勇者に負けてしまうのは、オーディンがすでに勇者の事を恋愛対象として好きだったからだ。現在そうでないなら、ノルンでオーディンの孤独は埋まるだろう。

「それからバルドル君ですが、彼はまだ大丈夫。闇なんて持っていません。ただ、バルドル君は絵のお仕事がしたいようですので、今後現在の聖職者としての職業を周りから押し付けられてしまうと歪むと思います。そしてきっと、同じように勇者という仕事から逃れられない勇者君に親近感を覚え、そして恋に溺れていくんです」

 ある意味傷のなめ合いに近い関係が、バルドルルートだ。このルートに入ると、勇者君もどこか歪んでしまった感があるので、お互いの為を想えばあまりお勧めできるルートではない。


「……ユイねーちゃんって、スゲーな。どうしてそんな事分かるんだ?」

 勇者君の質問にドキリとする。勇者君が私を疑っているのかと思ったが、そうではなく、信用した上で、不思議がっているようだ。

 良く考えると、今私が語った内容は、何を妄言吐いているんだと言われても仕方がないようなものだった。それなのに素直に聞いてくれている勇者、マジいい子だ。

 うんうん。ゲームで魔王様が惚れるのも分かる。でも、何で今は上手くいかないのだろう。

「実は、昔住んでいた国には予言の書というものがあるんです。私はそれを読んだ事があって……そこに色々記載されてたんです」

「えっ。じゃあ、ユイねーちゃんは未来が分かるのか?!」

「いいえ。私が読んだのは、たぶんこの世界の可能性の一つだと思います。すでに予言の書とは変わってきていまして、本来勇者君と魔王様はこんなに早く出会う事はなかったので」

 本編開始は、たぶん思春期以降。しかも戦争真っ只中。

 こんな穏やかな時間はなかった。

「そうなんだ。なら、俺のお嫁さんも誰か分からないんだな」

「そうですね。予言の書だと、魔王様かパーティーメンバーがお相手でしたが」

「げっ。全員男だし……。それで、他はどうやってフラグを回避しよう。ウル先輩とテュール先輩はフレイがマズイ年齢って言ってたんだよ」

 ウルとテュールかぁ。

 あまりやり込みはしていないルートだが、一通りのスチルは集めたので、大体は覚えている。

「ウル君は、種族の違いが問題かと。エルフの血が結構強く出てしまっていますので。だから変わった生き物が好きなんです。自分と同じで周りに馴染めないので親近感を覚えるようです。勇者という存在も人の枠組みから飛び出てしまっているので、ウル君は勇者君を好きになってしまうんです。そうですねぇ。誰かエルフの知り合いをこの国で作れればいいのですが……」

 エルフって、誰かいたっけ?

 そう言えば、私はあまり知り合いに、何の種族か聞いた事がなかった。自分自身も答えにくい話だったからでもあるけれど。

「なら、それは魔王にお願いしてみようかな。アイツ、人脈だけは多そうだし」

「そうですね。魔王様でしたら、知り合いもいると思います。後はテュール君ですが、彼は家族を魔物に殺されてしまっているので、家族への強い憧れと、魔物への強い恨みが問題ですね。家族は別に勇者君でなくても大丈夫だと思いますが、ただ魔物を退治しても穴は埋まらないんですよね。それで魔物を殺しても埋められない空虚な気持ちの所に、弟のような勇者君を守らなくてはいけないという気持ちを当てはめて、どんどん転がり落ちていくんです」

 少し強面だけど、誰かを守りたいという気持ちがあるので、たぶん優しいお兄さんなのだと思う。

 ただ魔物への恨みを昇華しきれないのが問題だ。たぶん彼自身、自分が何をしたいのか良く分からないのだと思う。


「ええっ。それって、どうしたらいいんだよ」

「そうなんですよね。例えば、魔物退治以外の生きがいを見つける事が出来ればたぶんクリアできる気はするんです」

 人一倍、守りたいという強い思いのある人だから。

 でも、何をどうしたらいいのか分からない。普通に考えて、そういう生きがいを見つけるのは自分だ。他人が強制できるものでもない。

「とりあえず、もう一度フレイに聞いてみる。何かいい方法があるかもだし」

「えっと。後はフレイ君ですよね」

「あ、フレイは今のところ大丈夫だって」

「えっ?そうなんですか?」

 フレイは頭が周りよりも良すぎたため、孤独を感じていたのではないだろうか。はっ?!まさか、同じく頭の良い魔王様を見つけてしまって――。どうしよう。まさかの三角関係?!

「ユイねーちゃん……嬉しそうな顔しているのが、どういう理由か聞かないでおくけどさ。なんか、フレイは前世の記憶があったけど誰にも信じてもらえないのが辛かったらしくて。でもユイねーちゃんが現れたからもう大丈夫って言ってたんだ」

「えっ? そうなんですか?」

 フレイの孤独の理由が変わってしまっている。

 やはり陽の記憶を引き継いでしまったからだろうか。陽として生きていたころも、周りより頭が良かったから、その辺りの割り切りは慣れたモノなのかもしれない。

「だからさ、フレイを捨てないでくれよ。フレイが俺の事を好きになったら、一番怖いから」

「ああ。フレイ君は綺麗に外堀と内堀埋めて、逃げられないようにするタイプですもんね。勇者君も大変ですね。頭のいい執着心が強い人に惚れられるなんて」

 頭の良い人に惚れられる人は大変だなと、ニヤニヤしながらフレイ×勇者の小説を読んだものだ。うん

あれをリアルでやられたら、確かに怖いかもしれない。


「……ユイねーちゃん。それ、ブーメラン」

「へ? 何がですか?」

「いや、何でもない。それで、俺から言えるのはこれだけなんだけど。今度はさ、ユイねーちゃんがどうして俺と魔王をくっつけようとしているのか教えてよ」

 勇者君の悩み事は、どうやらパーティーメンバーの事だけらしい。

 とりあえず、どう話していいものかという感じだが、このパーティーメンバーがBLに足を突っ込まない為にも大切な事だ。

「実は予言の書というのは、この世界の滅亡についても書かれたものでして」

「えっ。でもそれは可能性の一つなんだろ?」

「はい。なのでその可能性をつぶす為に勇者君には是非魔王様を好きになって欲しいんです」

「全然意味が分からないんだけど。何?俺と魔王が喧嘩して世界が滅亡するわけ?」

 ……あ、そういう滅亡エンドもあり得なくはないのか。

 魔王様と勇者が本気で戦えば、かなり甚大な影響が出るだろう。


「書かれていた内容はちょっと違いまして。未来の話になってくるのですが、魔族領と人族領が戦争をし、最終的に魔王と勇者が相討ちになった時に、世界が滅亡に向けて転がっていくんです。回避方法は魔王様と勇者君が愛しあい、戦争を止めるという方法と書かれていました」

「何でそんな事に」

「そこがちょっと曖昧なんですが、人族領のある1国が、魔族に民を殺されたと嘘をつき、魔族領に攻め入ってくるんです。その国は、他の人族の国と同盟を結んでいまして、魔族領と人族領の戦いになってしまうんですが……あっ。ちょっと待って下さい」

 人族領が、魔族に民を殺されたと嘘をついたのだと私はずっと思っていた。領地欲しさに目がくらんだのだと。でも……その情報は魔族が持っていた情報で、本当にそれが正しいのだろうか。

 例えばだ。人族が魔族に襲われたと本気で勘違いをしていたらどうだろう。さらに何らかの理由で、領地を拡大……もしくは移住しなければいけない理由ができていたとしたら、戦争を仕掛ける口実になるのではないだろうか。

 ゲームを良く思い出せ、私。人族が魔族が殺したのではないかと間違えてしまうような、何かはなかっただろうか――。

「そういえば、人族の方って、もしかして魔物と魔族を同一視してる方とかみえます?」

 ふとテュールがどうにも魔族を毛嫌いしている事を思い出した。ゲームの時は戦争をしているからという理由があったが、今は戦争なんてしていない。

 ならば昔の戦争を引きずってという可能性もなくはないが……。

「ああ。居るよ。俺はもちろん学校の授業で習って違う生き物だって分かってるけどさ。でもイコールだって、間違えている人も多いと思う。特に魔族ってあんまり魔物に襲われたりもしないだろ?仲間だったら襲ったりもしないんじゃないかって思うみたいだよ。魔物同士だって殺し合いしてるのにな」

 勇者の言葉で、私は天啓が降りてきたかのように、ある仮説が閃いた。

「それです。例えば、魔物が人族を襲ったとして、しかも魔物が多すぎてそこで住めなくなった場所ができたとします。住民は魔物と魔族を混同しているので、魔族に襲われたと言います。勿論、中には魔物に襲われたと言った人もいたでしょう。でも住めない場所ができてしまい、国王は魔族に襲われたと都合のいい方だけを理由として受け取り、魔族領を奪うために戦争を仕掛けるって、あり得そうじゃないですか?」

 領地を増やさなければいけない理由も、これなら分かる。何か資源が欲しいからとかではなく、純粋に住む場所が欲しかったのだ。


「それに、魔物は魔族だから襲わないとかじゃないと思うんです。襲わないなら、襲わないなりに理由があります。私はこの国に住んでしばらくたちますが、まだ一度も魔物に遭遇したことはありません。魔族領に済む魔物の数が少ないのか、あるいは何か住み分けする方法を魔族の方が知っている可能性があると思うんです」

 もしかしたら、魔物に襲われる確率が減れば、戦争が回避できるかもしれない。戦争理由がこれではなかったとしても、魔物に襲われない方法は、被害が多い場所なら喉から手が出るほど欲しい情報のはずだ。

 この情報をちらつかせれば、後は魔王様が上手く人族と交渉してくれるに違いない。それに人族も魔物イコール魔族だなんて思わなくなるだろう。

「早く魔王様に報告しないと」

「って、待って、ユイねーちゃん。もしも戦争が起こらなったら、俺は魔王と付き合わなくてもいいのか?」

「えっと。まあ、そうなりますかね。あっ。でもそれだけじゃなくて、戦争が起こったら、安定していたパーティーメンバーがまた不安定になりますから、大変ですよ」

 立ち上がると、勇者に手を掴まれた。逃がしてなるものかという雰囲気に、結構切羽詰ってるなと感じる。

「えっ? 不安定?」

「だって、戦争になれば、オーディン君とノエルちゃんは引き裂かれますし、聖職者としての能力が高いバルドル君は聖職者の仕事を強制されますよね。魔族領にはエルフ族が居ますし、エルフの血が流れているウル君も不安定になりますね」

「ちょ、戦争なんて起きたらダメじゃん」

「そうです。戦争はいけない事です」

 そうか。戦争が起きないとBLゲームも始まらないのか。

 若干残念という気持ちがないわけではないが、それよりも戦争回避の方が断然大切だ。

「ユイねーちゃん。一緒に戦争を止めよう」

「ええ。そうです、明るい未来の為に」


 私と勇者はガシッと手を取り合い頷いた。

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