68話 祭りの騒動(ユイの勧誘)
「ユイ。祭は楽しんでいるかね」
途中休憩と、露天で買った飴細工を食べていると声をかけられた。
「あ、デュラ様。デュラ様も祭りにみえていたのですね」
魔王城の城下町のお祭りは、魔王城で行われる舞踏会と違って貴族が必ず出席する必要はない。だから普通に遊びに来たのだろう。たまにこうやって遊びにやってくる貴族もいると事前に聞いてはいた。
「ああ。今年はユイが開会式であいさつをすると聞いていたからね」
「えっ?! そうなんですか? 誰から?」
「魔王様だよ」
マジですか。当の本人が聞いていなかったんですけど。ぎょっとして、私は魔王様をみる。すると普段の魔王業務をする時のような真面目な顔をした魔王様がいた。
「どうだ。ユイの挨拶は素晴らしかっただろう?」
「そうですね……本当に。呼んで下さったこと、感謝します」
デュラ様はそう言い、魔王様に頭を下げた。
「って、魔王様は私が挨拶をする事を知っていたんですか? 私聞いていなくて、すごく焦ったんですけど。ねえ、ハティー」
そう言って、一緒について来てくれているハティーを見ると、ハティーはついっと私から目を逸らした。……もしかして、ハティーってば、挨拶がある事を知っていた?
ひどすぎる。
こんなドッキリいらないのに。ガラスのように繊細なハートとまでは言わないけれど、心臓に毛が生えているほどでもない。
「俺は是非ユイの事をこの町の者達に知ってもらいたかったんだ。しかしユイは人前に出るのが好きではないだろう?事前に聞いていたら引き受けてくれないと思ったんだ。すまない」
「うぅ。別に何とかなったからいいですけど。仕事ならちゃんと逃げませんから、今度は事前に言って下さい」
「分かった。そうしよう」
きゅるんとした目で見つめられると、この程度の事で魔王様を責めるのは間違っているような気がして、早々に白旗を上げた。実際、上手くいったのだからそれほど文句を言うような話でもない。それに何度もあるようなことではないだろうし。
私がこの国にいる期間は、多分それほど長くはない。
「姉さん、この方が姉さんを助けてくれた人?」
デュラ様と談笑していると、隣からフレイが声をかけてきた。
「姉さん?」
「あっ。この子はフレイと言って……えっと。私の親戚で、弟みたいなものなんです」
フレイの存在に訝しむデュラ様に私は説明する。
「親戚? 家族が見つかったのか?」
「あっ。いえ。親戚といっても遠い親戚で昔一緒に居たことがあるだけなんですけど」
「なら、まだどこから来たのかは……」
「はい。やはり帰り方は分かりません」
というか、帰れない気がしてるんですけどね。
フレイも調べてくれているが、やはりこの世界に人が異界へ渡ったという文献はないらしい。ただし、フレイのような前世の記憶を持っていたのではないかと思われる人は数名いるそうだ。
それを踏まえると、私の場合は完璧なイレギュラー。同じような体験者がいないとなると、余計に帰る方法を探すのは難しいだろう。
だから私は、ここを出たら、とりあえず永住する場所を探す旅に出る事になるとは思う。何処に行っても異分子で、誰かの居場所を奪ってしまうのではないかという恐れは消えないけれど。でも帰れないのならば、仕方がない。どうにかしてここで生きていくしかないのだ。
「そうかね。なら、以前私が言った話を具体的に考えてみておくれ」
「話……ですか?」
何の話をデュラ様と話しただろうか。
うーん。つい最近は、肥料について相談をしていたような気はするが……輸送の関係の具体案の提示だろうか。もっと効率よくできるといいとは私も思う。
しかしこの話の中で、馬糞肥料についての話はあまり繋がらないような気が……。
「養子の話だよ。爵位を継いでくれなくてもいい。だが是非ユイに私の娘になってもらいたいんだ」
「えっ、いや……」
養子の話でしたか。
結構前の話だから、自然消滅していると思っていた。だって最近その話題を出すこともないし。
「ユイ、いい話じゃないか。ハン伯爵はよほどユイが気にいったようだな。爵位を継がなくてもいいとは、かなり好条件だぞ」
「もちろん継いでもらえるのが一番なんですがね……。今回は仕方ありません。爵位をついでもらえなくても、是非ユイには私の娘になってもらいたいので」
いやいや、仕方ないって。
だって、私がデュラ様の養女になったら、本格的に赤毛の女の子が戻ってこれなくなってしまう。本当に、あの子は何処へ行ってしまったのか。早くしないと本当に帰る場所がなくなってしまうというのに――。
「……あ、あの。私、実は人さらいを探しているんです」
「人さらいを探す?」
私の言葉に魔王様がキョトンとした顔をした。
しかし言い始めて、私は自分の考えがすごく名案に思えてきた。そうだ。これだっ!
「はい。私はデュラ様に助けてもらいましたが、今でも攫われて売られてしまっている子もいると思うんです。そんな子の力になりたくて。でも、危険な活動ですし……その。デュラ様の養女になったら、ご迷惑をおかけすることになると思うんです」
思いつきでしかないのだけど、表情は真面目ぶったような顔をして、真剣なんですというのをアピールする。
「そんな危険な事ユイがやる必要はないよ」
「いいえ。私が帰れない不安を一番知っています。だからたぶん、どんなことがあっても諦めずに探し続けられると思うんです。そこに私の故郷に関するヒントもあるかもしれませんし」
いや、故郷の情報なんてないけどね。あるとしたら、赤毛の女の子に関する情報だ。
でも私だけが、彼女を探してあげられる。それに諦めたら伯爵になった上に、エレオーと結婚という、私の意思を思いっきり無視した人生が待ち受けている可能性が高い。うん。諦めたらそこで試合は終了だ。
「なので、それが解決するまでは私はその話をお受けすることはできないのです」
我ながらなんて素晴らしい思いつきだろう。これで解決しなければ養子にならなくてすむ。また先に赤毛の子が見つかれば、この世界はちゃんとストーリーを元に戻そうと動いてくれて赤毛の子が養子になる気がする。私の予想では、赤毛の子は絶対デュラ様に愛されると思うのだ。ゲームの中で赤毛の子がデュラ様をすごく敬愛していたのだから。
「なるほど。ならば、ユイは人さらいさえ捕まれば、何も心配事がなくなり、ハン伯爵の申し出も受け入れられると」
「はぁ。まあ……」
例えば赤毛の女の子と一緒に養子になって、姉妹になると……。あ、それはそれでいいかもしれない。うろ覚えだから申し訳ないが、たぶん気が強そうだけど可愛い顔だった気がする。そんな子に、お姉さまと呼ばれるとか。
うわっ。違う世界に目覚めてしまいそうだ。
「ならば、俺も協力しよう」
「へ? 魔王様?」
「実は俺も以前から人身売買について調べていてな。勿論、ハン伯爵も協力してくれるのだろう?」
「えっ。あの、そんな。私の我儘に付き合っていただく必要はないといいますか」
それはあまりにも申し訳ない。
ありがたい話だけど、忙しいお二方の手を私の思い付き発言で煩わせるなど、色々問題だろう。
「姉さん、ありがたい申し出じゃないか」
「いやいや、フレイ君。あの2人は偉い人。私ペーペー、分かる?」
「でも、赤い髪の女の子を探さないといけないんだよね」
こそこそと話しかけてきたフレイ君に、私もこそこそと言葉を返す。
まあ、確かに赤毛の女の子救出は最優先事項の一つでもあるのだけど。……うーん。いいのか?
「私も自分の領地に人身売買をする者のルートが作られているのだとすると、早急に解決せねばいけない内容だと思っておりました。何処の業者が繋がっているのか探しましょう」
「ああ、頼む。どうやら国外ともつながっている組織のようでな。人族領から奴隷の輸入と魔族の輸出を行っているらしい。俺はこれだけ大きな話だと、貴族が関わっているのではないかと思っている」
「さて、それはどうでしょうね」
お、大事になってしまっている様な。
というか、人身売買ってそんな人族領と貿易をするほど大きな話だったの?!自分で出した話題だけど、びっくりだ。……もしかしてこの辺りから、人族領と不仲になって戦争が始まるとか?
いや、それはないか。でも相手国に対してのイメージダウンは避けられない。
それに、なんだか魔王様の言い方が……微妙に突き刺さる。いや、普通の話なんだけど。なんだろう。貴族が関わっているという部分が……。いや、もちろんおおごとになるなら、そういう大物が関わっている可能性が高いのも分かるけれど。
でも、もしかして……本当にもしかしてだけど、魔王様って、デュラ様を疑っている?
ただデュラ様の領地を人身売買の人が出入りしていて、貴族が関わっているとなると、疑わしい人物の1人には違いない。
デュラ様も直接お前じゃないかという言葉を投げかけられていないので、特に何も言い返してはいないけれど、内心楽しい話ではないだろう。うぅぅ。でももしも人身売買に関わっていたら、私を助けたりはしないんじゃないだろうか。
ただ魔王様は人の裏まで読もうとするだろう。だとすると人身売買にかけられそうになっていた子を助ければ、逆に犯人とは思われにくいと考えていると魔王様は勘ぐりするのかも。
それでも私は絶対、デュラ様は犯人ではないと思う。
魔王様もきっとデュラ様が絶対犯人とは思っていないとは思うけれど、怪しまれているならば、ちゃんと身の潔白を証明してあげなければ。デュラ様は、領地の人の為に誠心誠意働いていらっしゃるし、ゲームでだって村人を助けて死んでしまうのだ。そんないい人に、あらぬ疑いがかかること自体間違っている。
こうなったら、デュラ様の潔白証明のために、私も微力ながら協力させていただきますねと心の中で、デュラ様にエールを送る。
とうとうデュラ様に恩返しをする日が来た。
「賢者様っ!!」
「はい?」
デュラ様を助けるために燃えていると、突然声をかけられた。
そこにいたのは、工事で仲良くしてくださっていたおじちゃんの一人だ。どうしたのだろう?
「仲間が喧嘩し始めてしまって!一緒に来て下さい!!」
「えっ?私がですか?」
私じゃ役立つ気がしないんですけど。でもここで乱闘でも起きたら大変だ。折角勇者たちも楽しんでくれているのに。
「ええっと。分かりました。では、少し行ってきます」
役立つかは分からないけれど、私は呼ばれるまま、そちらに向かって走った。




