69話 喧嘩の仲裁(ユイの婚約)
えっと、そもそもの喧嘩の発端は何だったんだろう。
喧騒の中で、私はあまりにあまりな内容に、正直仲裁するのすら躊躇した。何というか、あの輪の中に入りにくい。
えっと、もしかして今の私ってば――。
「……モテキ?」
「モテキ?」
「あ、いやいや。それで、どうして喧嘩が一転して、私の結婚相手トトになってしまっているんです?」
意味が分からないんですが。
ちなみに喧嘩をしているおじさん達が取り合っているのではなく、お互い、その息子が私の婿にいい的な代理戦争状態だ。いやいや。逆ハーレムって、そういう代理的な感じじゃないよね。
でもデュラ様の時もデュラ様が甥っ子を勧めてきたので、ある意味代理。なに?私ってば、息子の嫁にちょうどいい的な感じなのだろうか。
ある意味嬉しいような悲しいような。乙女としては普通に誰かに告白されてみたいものだ。まあ美少女ではないのでそんな夢を見る事がすでに、おこがましいかもだけど。
とはいえ、今回はその意味不明な代理戦争から発展し、何故か私の結婚相手は誰だトトも、別の場所で行われてしまっている。
しかも、随時婿予想相手が追加されていっている。主に、お父様、お母様がたの手によって。いやいやいや。確かに親が結婚を決めるのが普通だったりもするけれど、もう少し本人の意思を尊重してあげて。というか賭けの対象にしないであげて。
「最初はどちらの露店の料理が美味しいかの勝負だったんです」
「はあ。普通の料理対決だったんですね」
「ええ。どちらも芋にマヨネーズを付けて食べる店だったんですけど。それでいつしか自分が元祖という話になりまして」
「看板対決になってしまったと」
確かに日本でも、元祖とか良く出店に書かれていたりするけれど、どれが元祖かなんて良く分からない。
でもマヨネーズの元祖は私のような……。ああ、そうか。芋につけて食べるのが元祖という事か。いや、どっちでもいいし。
というか芋にマヨネーズを付けて食べるだけのシンプルな調理法に違いがあるように思えない。せめてカットされていたり、焼いたり揚げたりした調理法だったらいいが、じゃがバターのように丸々1個の蒸した芋にマヨネーズを付けて食べるという方法。マヨネーズも私が作った基本レシピぽいので差はなさそうだ。
うーん。事前調査で失敗して、これは同じ店が隣りあわせに並んでしまったという事か。
そして差を出すにはネーミングセンスしかないと。
「いや、それと私の婿にどういう関係が?」
「えっと、まあ。マヨネーズを使っているので、誰かが言い始めたんですよ。元祖を語れるのは賢者様に許可をもらってからじゃないかと。で、賢者様はうちの息子と結婚するんだと2人が言い始め、最終的に周りもそれは聞き捨てならない。うちの子だと言い始めたんです」
「私、いつの間にか優良物件になっていたんですね。給料……まあ、そこそこありますし」
貴族のように贅沢三昧ができるわけではないが、女性が稼げる給料としては、まずまずいい方な気がする。そして魔王城で働いているという肩書も、お見合いでは有力的な意味になるのだろう。
うーん。嬉しいような、複雑な気分だ。
「それで、どう止めれば」
確かに私が話題の中心っぽいが……私が仲裁に入っても止まりそうな気がしない。
「できたら、婿を適当に相手を見繕ってくれるといいんですけど。全部断っちまうと、賢者様が高飛車だって噂が流れて婚期を逃すかもしれませんし。賢者様が選べばたぶん収まると思うんです。まあ、皆祭りで浮かれ過ぎているからというだけですから。まじめに選ばなくても、小さい子選んで将来性に賭けますって宣言すれば問題ないと思いますよ」
「それは……私にショタコンの汚名をかぶれと」
「しょたこ?」
「いえ、何でもないです」
動揺しすぎてぽろっととんでもない言葉がつい口から出てしまって首を振る。
とりあえず、店の問題を解決させる前に、私が私の恋人役を選ばねばならないという事か。あくまですべて代理戦争なので、本人たちの意志は丸無視の状態だ。たぶんイベントの一つ的意味合いで、楽しくお祭り騒ぎをしているだけだろう。
だから誰を選んだとしても、本気にとられはしないのも、何となく分かった。
「でも、私。誰が候補に挙がっているのか分かりませんけど」
「ああ。婿候補の受付は文字が書ける、雑貨屋の店主が取り仕切ってます。なのでそちらで聞くと分かるとと思いますよ。お前ら、賢者様が来たぞっ!!」
おじちゃんがそう言うと、何故か歓声が上がった。……魔族って、もしかしてお祭り好きなのだろうか。いつもよりテンションが高い気がする。
そして私が雑貨屋の店主がいる方へ歩くと、ザザザザっと人ごみが割れて、そこに道ができた。何だろう、この神話的な壮大なイベントは。壮大なのに内容がアレなのでなんだか微妙だ。
「えっと、すみません。雑貨屋の店主さんというのは――」
「私ですよ」
そういって出てきたのは、ちょび髭の気のよさそうなおじさんだった。微妙にちんまりした背丈で、私でも見下ろせてしまう。まあきっと、そういう種族なのだろう。
「今、誰が……その、私の相手に挙がっているのか教えてもらえませんか?」
こんな選び方でいいのかなぁ。
ようは書類で相手を選ぶという事だ。お遊びの一環とは言え、何だかあまり褒められたことはしていない気がする。
「賢者様の相手候補は、どんどん増えていましてな。今は、これが最新の一覧です」
ドドンと見せられたのは、大きな粘土板だった。そこに名前が羅列されている。うん、悪いが、誰が誰だか全然分からない。
「えっと全然分からないですけど、一番上の方は……」
これは適当に選ぶしかないだろうかと、とりあえず一番上の名前を指してみる。
「コイツは鬼族の鍛冶屋の息子で、今5歳ですね」
「ちょ、待って。5歳ですか?!」
本気でそんなの選んだらショタコンの称号をもらってしまう。
「賢者様は子供にお優しいですから、結構5歳前後の子も登録していますよ」
「さらに前は、いくらなんでも可哀想です。というか5歳でも、私じゃおばちゃんでしょうが。何を考えているんですか?!」
いくらお祭りだからって、せめてもう少し年齢層を合わせてくれないものだろうか。
ああでも、さっき将来性を考えて云々とかおじちゃんに言われた気がする。いやいや、将来性溢れすぎていて、私じゃ支えきれません。
「別にそれほどおかしな差じゃないですよ」
「は?」
「魔族は色々ですからね。1000歳差の結婚はさすがに色々言われますが100年差ぐらいなら、まあ普通ですし」
……おっと、そうきますか。
確かに長生きの種族もいる、魔族領。長生き種族には100年差ぐらい普通なのかもしれない。でも私場合100年たったらぽっくりいっていそうなんだけど――いや、不老っぽいから大丈夫なのか?
「で、でも。倫理的に、子供に大人の女性がまあ、その……問題ですよね」
「大人?」
「はい。大人です」
真面目にそうこらえると、店主は笑いをこらえたような顔をした。おい、待て。もしかして、このヒト私の年齢間違えてないか?
「まあ、大丈夫。大丈夫。遊びですから。気になる名前でもいいから選んで見て下さい」
だらかニヤニヤするな。
日本人の顔が童顔すぎて嫌になる。
それでも子供っぽく怒るのも癪で、私は粘土板の文字を見つめた。
「あれ? この謎の少年ってなんです?」
何故か花まるまでついている、謎の少年。というかすでに名前じゃないし。
「謎の少年は、謎の少年ですよ。賢者様とよく一緒に居た可愛い彼氏君。あの子が一番お似合いだという意見もありましてね。賭けるなら、その名前は外せないという意見が」
「可愛い彼氏って――あっ」
それって、まさかの魔王様ですか。
いやいやいや。不敬罪とか、色々まずいですソレ。お忍びだったけど。というか、変な噂が流れたら、魔王様大好きルーンに怒られる。
しかもその謎の少年が魔王様と分かった日には――。
さあぁぁぁと血の気が引いていく。魔王様は、変な噂が流れても寛大に許してくれるだろうか。いやいや、魔王様が許してくれても、もしかしたら恋人がいるならと勇者が魔王様の事を諦めてしまうかも。
駄目です、そんな切ないすれ違いは!
「あ、あのですね。その方は――」
「ユイ。楽しそうな事をしているじゃないか」
「まっ――」
魔王様っ?! 何で来ちゃったんですか。
そう思うが、ここでその名前を呼んでいいものか迷う。お忍びで城下町を歩いた時の魔王様の顔を知っている人もいるだろう。どうしよう、ますますマズイですって。
「それにしても、恋人を置いてきぼりにするなんて酷いではないか」
「へ? こい?」
そう言うと、魔王様が私の腕をつかみぐいっと自分の方へ引っ張った。魔王様は子供だけど力が強いので、私は簡単に引き寄せられる。
「そうしておいた方が、この騒ぎも収まるのだろう?」
「えっ。でも、迷惑が――」
「俺の迷惑は気にするな。俺は祭りを成功させたいんだ」
はっ。そうだ。
最優先事項は、祭りを問題なく終わらせること。勇者一行が参加しているのに、喧嘩なんてもっての外だ。
「分かりました。とりあえず。この場だけ、婚約者役をお願いしてもいいですか?」
「もちろんだ」
魔王様が頷いたので、私はバッと店主をみた。
「謎の少年で、お願いします」
「分かりました。今回の賢者様の婿候補は誰だトトは、一番人気の謎の少年に決まりです」
わぁぁぁっと歓声と拍手に包まれるが、恥ずかしい。
どうもと頭を下げつつ、私は隣で配当金を配り始めた店主から離れた。そしてどうか、この謎の少年が魔王様と皆が気が付きませんようにと心の中で祈る。
賢者の恋人が魔王様なんてバレたら、それが例え冗談だったとしても、速攻でクビな気がする。うぅぅ。できたら、勇者達が帰るまでは、その処分は待ってもらえないだろうか。
はぁとため息をつきながら、私は今度はポテマヨのお店へ行く。とりあえず人混みが酷いので魔王様と手をつなぎながら移動した。
「賢者様!うちの息子じゃ駄目ですか」
「うちの息子は本当にいい子なんですよ」
近づくと店屋の店主がそう私へ直談判してきた。
「駄目です。というか、息子さんの気持ちも考えて下さい」
いきなり、良く分からない女と結婚しろとか、可哀想すぎる。少しは反省してほしいものだ。
「後、芋なら、オリーブオイルで揚げ物にする調理方法もあります。棒状に切ればフライドポテト。薄切りにすればポテトチップ。ポテマヨにこだわらず、違うもので勝負してはどうでしょう。揚げたては塩でも美味しいですが、マヨネーズやケチャップをつけて食べても美味しいですよ」
オリーブオイルで揚げるとか贅沢な気もするが、体にはよさそうだ。
「えっ。揚げる?」
「そうです。揚げるんです。カラッと揚げると、本当に美味しいですよ。では、お互い何を売るかちょっと話し合ってみて下さい。油は何処かで調達できないかちょっと知り合いに聞いてみますので」
私はそう言い、とりあえず調理長にでも相談してみるかと、その場を後にした。
とりあえず今回の騒動を考えると、もしかしたら町の中では賢者という言葉もあって、かなり私が美化されてしまっているのかもしれない。
実物がそれほど凄い女じゃないのが申し訳ないくらいに。
「……ユイねーちゃん」
魔王城へ向かって歩いていくと、勇者とばったり会った。そして、勇者にすごく悲しそうな目で見られる。
はっ?! もしかして、先ほどのやり取り見てました? 恐れていたことが目の前で起こっています?
「あ、あのですね。あれは仕方なくて。別に勇者君との仲を裂こうとか思ってないですからっ!!」
私は大慌てで言い訳を口にした。
やっぱり、勇者はいい子だから、好きな人を取られても、けなげに相手の幸せを想って手を引いちゃうタイプなんですね。
駄目ですそんなの。そんなすれ違い切なすぎです。何とか誤解を解かなければと必死に勇者に諭す。
「あ、うん。分かってるよ。たぶん、ユイねーちゃんはそういうつもりはないんだろうなって」
「だから心配しなくて大丈夫です」
「いや、だから心配なんだけど」
何が勇者を不安にさせてしまっているんだろう。やっぱり魔王様が優しすぎるのが原因ですか?! 魔王様が総受けすぎるのが辛いんですね。
「ユイ。油を取りに行くのだろう?」
「あ、はい。そうでした。じゃあ、ちょっと用事が出来ましたので、後でまた会いましょう」
ああ、失敗してしまった。
そう思っても過ぎてしまった事は仕方がない。後でちゃんとフォローしておかなければと思いつつ、私は魔王城へ一度戻った。




