65話 城下町の祭(魔王の協力)
「あれ? 魔王様?」
ペガサスに乗ろうとやってきただろうユイ達にさりげなく近づくと、声をかけるより先にユイが俺の存在に気が付いた。
黒い目を真ん丸にして俺を見ているので、ニコリと笑いかける。
「ユイ、待たせたな」
「待たせた?」
「よかった、間に合ったな。あれ? 言ってなかったけ? 実は魔王もペガサスに乗る事になってるんだ」
「何それ。聞いていないんだけど」
勇者の言葉に、フレイが少し咎めるような口調で聞き返す。その言葉に、俺は営業スマイルを向けた。当たり前だ。言ったら最後、絶対邪魔をするに違いないと思い、あえて勇者には口止めをしていたのだから。
「昨日、勇者達がペガサスに乗る事を聞いてな。俺も勇者達とできるだけ同じ体験をした方が良いと思ったんだ」
「へぇ。そうだったんですね」
俺の言葉を少しも疑うことなくユイは納得する。
少し位は疑った方が良いのではないかと思うが、まあ今日に限ってはその方が都合がいいのでその言葉は胸の内に止める。
フレイは俺の言葉を鵜呑みにはできなかったようで、俺の事をじっと見ていたが、そんな目線に俺も負ける気はない。俺は営業スマイルをやめずにフレイを見返す。勇者の報告だと、フレイはただのシスコンだと聞いている。しかし俺はフレイは一番油断ならない相手だと思っている。
そもそもフレイはユイと本当の姉弟ではないのだから、シスコンだと言われても、ああそうですかと納得出来るはずがない。
「じゃあ3人乗りだから、ユイねーちゃんは魔王と乗ってよ」
「へ? それだと折角の交流が……」
「いいじゃん。ペガサスから降りたらまた会うんだし。ほら、気心知れた仲同士で乗った方が楽しいだろ?」
「うーん。そうかもしれませんが……。魔王様はどう思われますか?」
ユイは勇者の申し出に困ったような顔をした。交流の面から考えたら確かに、俺とユイが勇者達と別の馬に乗るのはおかしな話だ。
しかしこれは、交流を目的としているのではなく、ユイと俺が2人きりなる為に仕組んだ事だ。最近、仕事の忙しさに加え、フレイの邪魔が入る事によりユイと2人きりで話ができていないのだ。そこで昨日勇者との対談を行った後、ユイに内緒で密談をし、この作戦を決めた。
勇者との話し合いの中で、今の俺がユイにとって子供でしかないという結論に至った為に。実際その通りだし、それを武器にしてユイを繋ぎとめているという節もある。
だがそろそろ、ユイの中での俺のイメージを変えていってもいい頃合い。しかもちょうどタイミングよく、ユイのお披露目も終わったところだ。今回のユイの挨拶で、民衆は今人気の賢者という名前とユイの姿をイコールでつなげただろう。またユイを知っている者達は、賢者と知り合いであることを自慢しつつ、いい噂を流してくれるはずだ。
これにより、一気にユイの人気を引き上げるはず。それはユイの地位の向上にいい影響を与える。このことでユイとの繋がりを持ちたい貴族が、大勢ユイに養子にならないかと打診して来るに違いない。
貴族の養子の件に対しては、慎重に進められるよう、ハティーという防波堤も作った。なので直接ユイに打診するものはいないだろう。
これでユイを俺の傍に留めておく条件はそろった。
「別に勇者の案でいいと思う。この祭は、あくまで勇者達に楽しんでもらうのが前提だからな。それに以前ペガサスを見た時、ユイがキキュウの話をしてくれただろう?またそれを聞きたいのだが駄目だろうか?」
折角のユイとのデートなのだ。俺が邪魔者を入れるはずがない。
俺は小首を傾げてユイを見上げる。可愛いモノが好きなユイはこのポーズの俺に弱い。
「うぅ。うぅぅん」
ユイは俺を見てすごく困った顔をしていた。
多分『可愛い! 叶えてあげなければ!!』という思いと、『いや、でも勇者と仲良くさせなくちゃいけないのに』という考えがせめぎ合っているのだろう。困った顔をするのが俺の為だと思うと、それすら可愛いく感じてしまう。普通なら女性の笑顔に対して可愛いと感じるのだから、困った顔すら可愛いと感じてしまうのは少し病気かもしれない。これはユイに責任を取ってもらう必要があるな。
「ユイっ!」
もうひと押しだなと思っていると、甲高い女性の声でユイの名前が呼ばれた。
「あれ? ノルンちゃん? ノルンちゃんもペガサスに乗りに見えたのですか?」
ノルンだと?
声のした方を見れば、確かにそこにはノルンの姿があった。しかし何故ここに、ノルンが? 貴族の娘だったら、普通もっとゆったりした場所で祭を観察しているはずなのだか……。
それにしても、どうしてよりにもよってノルンなのだろう。
ノルンはユイの影響で男同士の結婚に抵抗がない者の一人だ。その為ユイと揃うと場が混沌と化すことが多い。勇者を見ると、勇者は首を横に振った。呼んだのは俺ではないと。
「俺が呼んだんだよ。男ばかりだから、姉さん的には女の子がいた方が楽しいかと思って」
「ああ。そうだったんですね。気遣いありがとうございます」
だから、鵜呑みにするな。
フレイがあたかもユイの為に呼びましたとアピールしたが、絶対違う。こいつは俺がここへやってくるだろうとこちらの動きを読んで、ノルンを呼んだのだ。俺とユイが2人きりにならないようする為というか、デートを邪魔する為に。
「うん。それにしてもちょうど魔王様が来て下さったおかげで、3で割り切れる数になったね」
フレイの言う通り、現在の人数は9人。これでは、ユイと俺だけという状態にはならない。
やってくれる。
「本当ですね。席順はどうしましょうか。魔王様と勇者君が同じとして――」
「だったら、その席にユイも同席してはどうだ?」
「俺は姉さんと同じが良いな」
「私はオーディン様と一緒が良いけれど、オーディン様は勇者様と一緒が良いですよね」
「当然だ。俺とトールは永遠のライバルだからな」
「空の上で何の勝負をするって言うんだよ!」
「え、えっと。僕は、どこでも……」
流石は9人と言おうか。全くまとまりがない。というか、まとめ役がいないと言おうか。
普段なら俺の意見が通るのだが、客人だらけのこの状態だと上手くいく気がしなかった。特に勇者もブァン国の代表として来ているのだから、俺の命令に従わなければいけないという義務もない。
「止めないか。早く決めないと、後ろの人の迷惑になるだろうが」
いつまでもまとまっりそうもない状態を見かねて、勇者一行の中で一番の年長者である男が止めた。まあ魔王である俺がここに居る時点で、後ろに並んでいる者達は、特に何も文句は言わないだろう。しかしこのままでは埒が明かない。
「でしたら、対等に【あみだくじ】で決めましょう」
「あみだくじ?」
はいっと手を上げて、ユイはそう切り出した。【あみだくじ】とは、聞いた事がない言葉だ。
「縦に棒を人数分紙に書いて、下に1~3の番号を3つづつ書きます。後は横棒を各自好きな場所に引いて、好きな棒を選ぶという、まあ簡単な運試しです。えっと、紙とペンを出しますのでちょっと待って下さいね」
そう言って、ユイは鞄の中から薄く横棒が書かれた紙と、ポーチのようなものを取り出した。その中から以前俺がゲイル伯爵から貰ったペンにそっくりなものを取り出す。ただどういうわけか、紙に出てくるインクの色が赤い。
「姉さんそれって……」
「うん。日本のものだけど、ちゃんと使える時に使わないともったいないし。それに、あまり使わないと、インクが出なくなっちゃうから」
驚いた表情をするフレイにユイは苦笑すると、9本の棒と数字を書いた紙を俺にペンと一緒に差し出した。
「私が書いたこの横線みたいに、何本か線を入れて縦棒同士を繋いで下さい」
「あ、ああ」
受け取ったペンを言われるままに横に動かすと、赤い線が書けた。あの時のペンと同じだ。
「あ、ついでに数字とは反対側に名前も書いていただいていいですか?」
ユイに言われるまま名前を書くが、インクが途切れる事はない。凄く不思議だ。
そう思っている者は俺だけではなかったようで、勇者達も驚いた表情でペンの先を見つめている。
「終わったら隣の人に回して下さいね」
ユイに言われるまま全員が書き終わるとユイはまた別ペンを取り出し赤色の線の上をなぞった。今度のペンのインクは青色をしている。一体、ユイの鞄の中はどうなっているのだろう。
「ユイ、何故このペンはインクをつけなくていいのだ?」
「中にインクが詰まっているからですよ」
「しかし中にインクが入っているなら、逆さにすると出てきてしまうのではないか?」
「蓋代わりに小さな玉があるんです。この玉が回転し、中のインクを導き出すという造りになっています」
玉?目を細めてみると、尖った先が周りと繋がっていない。この小さなものが玉だと言うのだろうか?
「こんな小さいものどうやって作るんだ?」
「えっと、こればかりは職人でないと……」
やはりユイの国は恐ろしい技術者がいるようだ。勇者達も驚いた表情でペンを見ているので、ブァン国にもないものなのだろう。
フレイと知り合いという事で少し警戒したが、やはりユイの故郷はブァン国ではないようだ。
「じゃあ同じ番号の人同士で乗り合わせましょうか」
俺たちがペンに気を取られている隙に、ユイは引っ張った線を全てたどりきり声をかけてきた。そして全員に向かって結果の書かれた紙をみせる。
「よろしくお願いします」




