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64話 城下町の祭(ユイの挨拶)

 勇者達がお祭りで紹介されているのを見ながら、私はぼんやりと空を眺めていた。

 とりあえず、今のところ仕事がないから暇だ。暇だったら、ちょっと城下町のトイレの確認を行いたいところだけど、ここに座っているのが仕事みたいなものだから、残念である。というか、暇だからどこかに行こうと考えて思い浮かぶ場所がトイレというのもなんだか物悲しい。いや、べつにそこで1人弁当しようとかしているわけじゃないからいいんだけど。

「ユイ様、寝ないで下さいね」

 隣に控えているハティーがこそこそと私に囁いた。どうやら噛み殺したあくびがバレたらしい。

「うん、妄想力で頑張る」

 偉い人の話とかどうして眠くなるんだろうなと思いつつも、正装している勇者一行を目に焼き付けて楽しむかと心を入れ替える。


 今日は勇者一行のお披露目を兼ねた、城下町のお祭りだ。収穫祭でもあるのでので、町は気合が入っている。

 そしてここはそんな祭りの特設ステージ。色んな偉い人が民衆に対して挨拶する場所だ。私もこの町のアドバイザー的な立ち位置として、現在末席に座っている。本当なら出席予定はなかったのだが、勇者達が好意的にこの町に受け入れられるよう心を砕いてほしいと魔王様にお願いをされたので参加した次第である。

 そんな勇者一行の本日のお召し物は、何というか、ザ、RPGな服だ。いつもは勇者には魔王様しか相手はいないと思ったが、あの服を見ていると勇者総受けもありだと思えてくる。うんうん。勇者の服が主人公っぽくて大変素晴らしい。

 まあ総受けENDなんて、ゲーム的にはないので、同人誌的意味合いだけど。

 というか、あのゲームで魔王様以外だと、幼馴染のフレイルートが私は好きだった。フレイが弟だと分かると、フレイ推しは何と言っていいものかという微妙な空気になるのだけど、どうやら頭がいいキャラが私は好きらしい。あれか。自分にないものを持っているからか。

 その理論で行くと、私が惚れる相手は脳みそハイスペックとまではいかなくても、頭がいい人なのだろう。うわっ。相手されない感が満載だ。何、この可哀想な女って私だよ。


「――様、ユイ様」

「へ?」

 色々脳内妄想を繰り広げていると、突然ハティーにチョンチョンと肩を叩かれた。きょろきょろと周りを見渡すと皆が私を注目しているような……。ん?

「挨拶です。挨拶」

「えっ?何にも用意してないよ」

 というか聞いていない。突然そんな事言われても困る。

「とにかく、今日は楽しみましょうでも何でもいいので。行って下さい」

 そんな、無茶振りな。

 しかし無言の圧力に負けた私は、椅子から立ち上がった。どどどどど、どうする私。妄想して遊んでいる場合じゃなかった。こういう、皆の前で発表なんて、小学校の学芸会ぐらいのもので、向いていない。

 魔王様が離れた席から私に可愛らしい笑みを向けてくれているけれど、緊張の所為でその笑みに集中ができないです。


「嬢ちゃん、頑張れー!」


 あ、工事現場のおじちゃんじゃん。隣には優しそうな女性と子供。ああ、可愛いい――じゃなくて。いやいや、いくらなんでもここでその感想は不味いから。リラックスはできるけど、世間的に賢者がショタ萌えだなんてばれるわけにいかない。

 気持ちを切り替えつつ、応援してくれる知り合いに感謝する。

 今ので少しだけ緊張がほぐれた。よく見ると、ほかにもチラチラと知り合いの顔が見える。良かった。全く知らない人ばかりじゃない。

「初めまして。魔王城で賢者をやっているユイです」

 とりあえず何を話していいものか分からないので、時間稼ぎで自己紹介をする。きっと私の事なんて知らない人はかなり多いだろう。だとしたらできるだけ、相手への第一印象を好印象にできるよう、礼儀正しくしなければ。魔王城の賢者ってウザいよねー的な空気になったら、勇者君達を紹介するにあたって差しさわりが出てしまう。

「えっと、賢者といわれても何をしているのか分からないと思います。私がこの町で行ったのは、トイレや下水工事に少しだけ口を挟ませていただいたくらいです。正直私一人の力では何もしていません」

 おや?

 話し始めると自分のふがいなさというかできなさが浮き彫りになってしまう。何とも情けない賢者様だ。でも実際そうなのだから仕方がない。

「ですから皆さんの力を借りて、この町を、この国をより良くしていきたいです。トイレの具合はどうでしょうか?下水が詰まったりなど問題は起こっていないでしょうか?色々教えて下さい。ただし私一人では解決できないと思いますので、何かあったら私を助けて下さい。お願いします」

「いいぞー。賢者様!」

「何でも言ってくれ!」

 とりあえず、ぺこりと頭を下げると、知り合いのおじちゃん達が声援をくれた。皆いい人で本当にありがたい限りだ。


「では早速、今回この祭りに参加するにあたって一つお願いごとをしたいと思います。今日はブァン国から勇者様一行がこの国を知りにやってきて下さいました。是非交流を深め、この国の良い部分を伝えて下さい。彼らはこの国の大切な客人であると同時に、私の友人でもありますから」

 本当は戦争が起こらないよう、きっちり仲良くして下さいねといいたいところだが、そんなことを言われても皆困惑するだけだろう。むしろあまり政治色を出し過ぎると、余計に緊張して一線引いてしまうのではないかと考えた。

 なので私は、あえて勇者達を届かない人ではなく、賓客ではあるが皆と変わらない人なんですよという立場まで下げてみた。私の友人と聞けば少しは親近感もわくのではないだろうか。私に勇者との仲を取り持って欲しいと言ったのだから、魔王様もきっとそれをお望みだろう。

 私はよろしくお願いしますともう一度頭を下げ自分の席に座った。

 ある意味、民衆に対して私のお披露目みたいだったなぁと思いながらもほうと息を吐く。すると少し遅れて私に対する労いで拍手が鳴った。

「素晴らしい挨拶でしたよ」

「お世辞はいいよ。グダグダだったって自分でも分かってるから」

 というか、こういうことは事前に打ち合わせしておいてほしいものだ。すこしだけ恨ましく魔王様を見ると、魔王様と目が合った。その瞬間ふわりととほほ笑むからずると思う。そんな可愛い顔をしたら、怒りも継続できない。


「なんだか、私。ダメ教師になっていってる気がする……」

 最近私は魔王様の可愛さにやられっぱなしなのだ。少し離れると多少は冷静な判断ができるのだが、魔王様が上目づかいでお願いしてくると、脳内がフィーバー状態になって、何でも聞いてしまう。でもそれって、教育としては色々マズイ気がする。

 今のところ魔王様のお願いに問題ありなものは含まれていないからいいが、今後もそうとは限らない。家庭教師だからといって勉強だけ教えればいいというものでもないだろう。駄目な事は駄目といえる勇気。それが大切だ。

 もしも魔王様がユイはチョロイとか思っていたらどうしよう。マセた子供でも全然いいし、むしろ生意気な子はある意味いい萌え要素だけど、年上にまったくの敬意を持たなくなるのは困る。やはり年の功というものはあるので、どれだけ頭がハイスペックでも学ぶことはあると思うのだ。

「気を引き締めないと」

 萌えはできるだけ封印っと。

 心の中でそう唱えていると、祭りの開会式が閉幕した。客が順番にお店などの方に流れ始めたのを見ながら私も席を立つ。


 なんというか、平和でいいなぁ。

 ゲーム上ではこんな祭りイベントなんてなかった。というか、すでに勇者とは敵対してしまっているわけだし。こんなのんびりとした世界がいつまでも続くためにも頑張らねば。

「ユイねーちゃん!!」

「あれ? 勇者君? どうかしましたか?」

「あのさ、これから特に用事がなかったら、俺らと一緒に祭を回らねぇ?」

 おっと。まさかのデートのお誘いか。

 勇者達が楽しめるようにするのは願ったりかなったりだけど、私のこの後の予定ってどうなっているのだろう。あまり考えていなくて、時間が空いたらトイレとか下水道の確認をしようと考えていたぐらいだ。後は農家の方にも行って馬糞などを使用してからの状況の確認と、今後どうやって効率的に有効活用していくかなどの検討を考えて行きたいところ。できたら肥料業者という仲介屋を作り、そこが農家へ売るというのが良いかもしれない。

 そうすれば別の地域へ排泄物を運ぶのではなく、肥料となった状態で運ぶことになるので、いい感じに循環していきそうだ。

「ハティー。私の予定ってどうなってる?」

「きっとユイ様自身、色々行きたいところがあると思いまして、予定は入れないようにしました。ただ、最後の閉幕式だけは参加しなければいけませんが」

「さすがハティー頼りになる」

 というか、私の事を良く分かってくれている。

「私の方は大丈夫みたいです。ではどちらに行きましょうか?」

 どこに行っても絶対人ごみは避けられない。勇者がいる事は皆が知っているし、魔王様が丁重に扱えと言ったのだから、よっぽど大丈夫だとは思う。

 でも絶対危険がないとは言えないし、何かあればブァン国との関係も悪化する。なのでもしかしたらあらかじめルートは決まっているかもしれない。


「えっと、ペガサスに乗ってみたいんだ。ウル先輩が乗った話を聞いたら、皆乗りたいって言って」

「それはいいですね。私も実はまだ乗ったことないんですよ」

 馬に乗って空を飛ぶとか、どこの夢見る乙女だと言いたくなるが、私だって一応は乙女の端くれ。少し腐ってはいるが、そう言うものにあこがれがないわけではない。

「じゃあ行こうぜ。優先的に乗せてくれるらしいから」

 勇者に手を引っ張られて、私は少し小走りになりながら、勇者一行に合流した。

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