63話 フレイの手紙(勇者の決意)
「フレイ、何見てるんだよ」
俺は部屋で何か手紙のようなものを読んでいるフレイを後ろから覗き込んだ。本ではなく手紙というのが珍しいが、アース国の言葉で書かれているためよく分からない。
「まさか、ラブレターか?!」
フレイは大人っぽくて、学校でもモテていた。
だからあり得ないはなしではない。でもまさかこの短期間で、魔王城で告白されるなんて。魔族女子でも全然羨ましい。ものすごく羨ましい。フレイも男からラブレターをもらって、黒歴史を刻めばいいんだ。俺の苦しみを少しは味わえ、ちくしょう。
「違うよ。というか、馬鹿なこと考えていると、本気で男をそそのかしてお前とくっつけるからな」
「すみませんでしたっ!!」
俺はすぐさまフレイに頭を下げる。フレイが言うと、本当になりそうで、怖くて仕方がない。フレイは冗談も言うが、変なところで有言実行だからなぁ。
「……まあいいけど。とりあえず、これはトールが言うような楽しいものじゃないよ」
「ならなんだよ」
「ハン伯爵領に届け出が出ている、人身販売に巻き込まれたと思われる行方不明者のリスト」
「はあ? 何でそんなもの持ってるんだよ」
というかハン伯爵領ってどこだっけ? えーっと、ハン伯爵領、ハン伯爵領……ああ。ユイねーちゃんが昔住んでいて、石鹸とかが有名な地域の名前か。
でもそれと、行方不明者リストが繋がらない。そもそも、どうしてそんなもの読んでいるんだろう。確かにフレイは勉強家で活字中毒だけどさ。
「姉さんに取り寄せてもらったんだよ。ちょっと気になる事があったからね」
「気になる事?」
そんな遠い場所の何が気になるのだろう。せめて石鹸についてなどだったら分からなくもないけれど。
「ただまだちゃんとした答えがまとまっていないからちょっと待って」
「答えってなんだよ」
「だからまとまってないんだって」
紙から目を離さずにフレイはそう答える。
答えがまとまっていないというか、俺にはどういう答えを求めて、その紙を眺めているのかさっぱり分からない。
俺はそんなフレイの前の席に座るとジッとフレイを観察する。
行方不明者リストを見ているという事は、誰かを探しているのだろうか?でも、魔族領なんかで誰を探すんだ? 普通知り合いなんていないだろ。
ああでも、ユイねーちゃんは、フレイの知り合いだったんだっけ。そういえば、フレイってユイねーちゃんの事好きだよなぁ。魔王もユイねーちゃん好きって言ってたけど、その辺りどうなんだろう。
フレイが好きな女の人って結構珍しい気がする。別に女の人が嫌いというわけではないし、男が好きというわけでもないけれど。でも同級生はフレイからすると幼く見えてしまうみたいで、ラブレターをもらっても、付き合ったりする事がなかった。
その点、ユイねーちゃんは年上だし、フレイの好きな人の条件の一つは満たしている。
なら、俺は魔王を応援してもいいのか?
そもそも、ユイねーちゃん的にはどうなんだろう。俺が見る限り笑えるぐらい魔王は相手にされていない気がする。ユイねーちゃんが魔王の事が嫌いという事はないだろうけど。
「そういや、フレイってさ。賢者がユイねーちゃんだって分かっていて会いたいって言っていたのか?」
フレイが魔族領にいる賢者に対して興味を持ち、会いたいと言っていたのは結構前からだ。その時から、賢者の正体がユイねーちゃんだと分かっていたのだろうか。もしも分かっていたなら、フレイはずっとユイねーちゃんを探してたという事になる。
「ううん。知らなかったよ。だから、本当に驚いたかな。姉さんに会えるなんて思ってもいなかったから。魔族領の賢者に対しては、本当に知識の面で興味があっただけかな」
「本当に?」
「こんな事で嘘をついてどうするんだよ」
そうなんだけどさ。
でもフレイが何かを隠している気がしてならない。だって、親戚の人だからって、普通久々に会って泣くか?
俺はユイねーちゃんを知らないから、フレイだってそんなに頻繁に会っていたわけじゃないだろ。そもそも、何歳の時に会ったんだよ。小さい時だったら、ほとんど覚えてないと思う。
「だって、この間泣いた理由だって俺は聞いてないし。凄く会いたかったって事なんだろ」
「何で俺がいちいちトールに報告しなくちゃいけないのさ」
「だって……幼馴染だから、心配なんだよ」
何か抱えているとか分かるのに、何も知らないと支えられない。フレイにとって、俺は頼りないかもしれないけれど。
「……だよ」
「何?」
「姉さんと会えるはと思っていなかったんだよ。俺は姉さんが死んだと思っていたから、ここで会えるなんて思っていなかった。だから何というか、感極まったんだよ」
「は?」
ユイねーちゃんが死んだ?
いやいや、生きてるし。だって俺は昨日もユイねーちゃんと話したから。もしもユイねーちゃんが死んでいたとしたら、俺が話したのは幽霊になってしまう。
女神の祝福をもらっているおかげで、俺は他者よりも世界の真実がみえやすいらしいけど、生まれてこの方幽霊なんて見えたことがない。まあ、モンスターの中にはゴースト系というのがいると聞いた事はあるけれど。
「ユイねーちゃんがゴーストだって言いたいのかよ」
「違うよ。確かに姉さんは生きてる。だから色々調べてるんじゃないか」
「ユイねーちゃんが死んだって記憶違いしてるんじゃないか?」
フレイの父ちゃんの双子の妹は、行方不明だと聞く。だとしたら、同時にユイねーちゃんも行方不明だったんじゃないだろうか。それで幼いフレイが勘違いしたとかあり得る気がする。
「それはないと思う。その記憶だけははっきりと残っているから。でもだとしたら、今の姉さんは一体誰という事になってしまうんだよね。何らかの魔法が絡んでるのか、それともまた違う状態なのか分からないけれど。今調べているのもその関係だよ」
「その記憶は残ってるって、ユイねーちゃんの死体を見たのかよ」
例えば崖から落ちたところを見たとか、川に流されている所を見たとかなら、生きている可能性だってある。
「あるよ。でもそれもあるから、今の状態が俺も良く分からないんだ。それに何が姉さんにとって一番いいのかも。俺は姉さんには幸せに生きて欲しいから」
「フレイってさ。ユイねーちゃんの事、好きだよな。それでユイねーちゃんは、フレイがそういう事をしているって知ってるのかよ」
何が一番いのかをフレイが調べるって、フレイはつくす派だったんだと思う。
「普通に考えてさ、貴方が死んだ記憶があります。なんて言えるわけないだろ。姉さんも、何でハン伯爵の領地で自分が倒れていたのか気になっているみたいだし。それと赤毛の女の子を探しているらしいから、俺はそれを手伝うという事で、この資料をもらったんだよ」
「赤毛の女の子?」
「俺に似ているらしいよ。その子も人さらいに合っている可能性があるから、このリストの中にいないかなと思ってね。情報がないと、俺も動きようがないし」
「ふーん。それでなんか分かったわけ?」
俺ならこんな紙を見てないで、その場に行って調べるんだけどなぁ。まあ、しばらくはここから離れられないから無理だけど。
「ちょっと仮説はたってきたかな。でもさっきも言った通り、ちゃんとした答えはまとまってないんだよ」
そう言ってフレイは肩をすくめる。まあ、フレイは頭良いし、こんな紙だけでも、俺には見えない事がみえるんだろう。
「そういやさ。ユイねーちゃんといえば、魔王がユイねーちゃんの事好きみたいなんだけどさ」
「みたいだね。相手が魔王じゃなければ簡単に排除できるんだけどね」
「いやいや、ユイねーちゃんに幸せに生きてもらいたいんじゃなかったのかよ」
簡単に排除って。ユイねーちゃんがどう思っているか考えてないじゃん。
「だって、どう考えてもあの腹黒と一緒に居る事が、姉さんの為になる気がしないし。しかもよりにもよって魔王。危険すぎるよ。姉さんにはもっと平凡で平和で幸せな家庭を築いてもらって、姉さん似の子供を産んで、しわくちゃのおばあちゃんになるまで、縁側でのんびりお茶をすすってもらいたいんだよ」
「プランなげーよ」
しわくちゃのおばあちゃんになるまでって。
「まあ姉さんが望むなら、それ以外でも可だけど。でも特にノープランだったら、今の案が一押しかな」
「お前……ユイねーちゃんの何?彼氏になりたいわけでもないよな」
俺以外にユイねーちゃんは似合わないというのかと思ったけど、なんかそれとも違う答えに俺は首をかしげる。
「ただのシスコンな弟かな?」
「自分でシスコンって言うなよ」
「無自覚よりよっぽどいいと思うけど?とにかく、俺は姉さんに幸せになって欲しいんだよ。それだけで、僕は救われるから」
いつからお前はそんな殊勝なキャラになったんだ。よっぽどユイねーちゃんに借りがあるのだろうか?良く分からない。
「もしもお前がユイねーちゃんが好きだって言ったら手伝ってやろうと思ったのになぁ」
「あ、だったら。トールは魔王と付き合って」
「何でそうなるっ!」
ちょっと待て。今の話の流れにそんな流れなかっただろうが。
嫌がらせか?嫌がらせだな。きっとコイツ、俺が魔王の恋に協力している事に気が付いているに違いない。
「だって、それが姉さんの望みだし」
望みじゃねーよ。もう少し考えろよ。
やっぱり魔王にはユイねーちゃんしかいない。俺が魔王とくっつけられない為にも。俺は少し気に食わないけど、魔王に協力することを決意した。




