45話 雪国の仕事(勇者の憂鬱)
「「寒っ!」」
俺とオーディンの言葉が被った。
でも寒っ。
魔物が出やすい地域の雪かきへやってきたのだが、マジで寒い。しかも、何だか悪寒もする。また王家が魔王とくっつけようとか、とんでもないたくらみをしているのかもしれない。……本気で憂鬱だ。
「今年も大雪だねぇ」
もこもこに毛糸の帽子もかぶって万全の恰好をしたフレイがのんびりと感想を言う。そして、コイツは絶対何か自分を暖かくする道具を身につけているに違いない。畜生。そうでなければ、こんな平然としていられるはずがない。
「そうだな。さっさと終わらせて、部屋へ暖まりに帰ろう」
テュールの言葉は最もなのだが、彼の歯がガチガチと鳴らないのは、きっと筋肉のせいなのだろう。いいなぁ、筋肉。ないものねだりだとは分かっているが、雪の中にいると、さらにそんな風に思う。
ちなみにバルドルは熱の為休んでいて、ウルは凍りついたかのように表情をピクリとも動かさず、喋らない。……大丈夫だろうか。
「なあ、フレイの魔法でこの辺りの雪を全部一気にとかせばいいんじゃないか?」
「そんなことしたら、雪崩が起こって、トールは生き埋めになるよ? それでもいいなら、俺は安全圏から遠隔操作で魔法が起こせるように準備するけど」
「ごめん。サボろうとして悪かったから。その笑顔は怖いんだって!」
今十分反省した。だから笑顔でイヤミを言わないでくれ。既に寒いのに、さらに寒々しくて仕方がない。
俺はため息をつきながらも、スコップで地道に雪かきを始めた。勇者の仕事は幅広い。そして基本地味だ。
サクサクと無言で掘り進めながら、ため息をつく。まあでもやっているのは俺だけじゃなく、父ちゃんや兄ちゃんもだから仕方がない。山近くになると、魔物が餌を求めてやってくるので、どうしても雪かきをするのに危険が多くなるのだ。
かと言ってそのまま放置すれば、隣町との行き来ができなくなって、陸の孤島となる。冬に孤島状態になるのは食料や色んな意味で死活問題だ。魔物だけではなく、別の問題で死者が多数出てしまう可能性もある。
「トール! どちらがより多くの雪かきができたか勝負だ!!」
わははははと笑いながら、オーディンが雪をかいていく。あいつ、なんであんなに元気なんだろう。時折、俺よりあいつの方が勇者に向いてるんじゃないかと思わされる。
「何だ? お前の力はそれだけなのか?!」
「分かったよ」
いつまでも絡んできそうなオーディンに答えながら、俺も雪をかくペースを上げる。実際に俺もさっさと終わらせて、暖炉の前で暖まりたかった。
サクサクと雪をかいていると、ひょこっと一匹の小さな魔物が出てきた。真っ白な毛玉の丸い生き物だ。
「ユキンコだな。トール、ちゃんとつぶしておけよ」
「了解です」
テュールに手を振りながら、俺はスコップでユキンコをつぶした。キュウという声と共に、ぺちゃんこにつぶれたユキンコに俺は聖具を当てて浄化する。
ふとその様子をフレイがマジマジと見ているのに気が付いた。
「どうかしたのか?」
「ああ。うん。何でもないよ」
フレイは笑いながら首を振った。
その様子に、俺はぴんと来る。ああそうか。フレイは、ユキンコがつぶされるのが嫌だったんだなと。でも、つぶさないとユキンコがどんどん仲間を呼んで、村を荒らすのだから仕方がない。アイツらは増えると雪を呼ぶのだ。
大雪が起これば、人は村から出られなくなるだろうし、もしも雪崩が起これば誰も生き残れない。
そしてそれが分かっているから、フレイは何も言わないのだ。笑顔で大丈夫な振りをする。それがフレイの強がりだという事も分かっているから、あまり深くはツッコめない。
「こいつらもさ、馬鹿だよな。森から出てこなけりゃつぶされずにすむのにな」
「馬鹿か。魔物にそんな知能ないだろ」
「知ってるよ。だから馬鹿だよなって言ってるんだよ」
オーディンの言葉に、俺は言い返す。魔物の知能なんてたかがしれている。だからアイツらは自分たちが殺される立場だと気が付かず山から出てくるのだ。
「そうだろうか」
ふいにウルが喋った。凍っているのではないかと思うぐらい静かだったが、ちゃんと会話は聞いていたらしい。
「私は、私達が思っている以上に魔物は賢いと思う」
ウルは無表情のまま喋る。
「そうか?俺もオーディン達の見解の方が正しいと思うけどな」
テュールの言葉に、ウルはフルフルと首を振る。ウルは無口だが、結構頑固だ。だから1対全員に例えなったとしても、たぶん折れることはないだろう。
「俺もウル先輩に賛成かな。ちゃんと住みわけできればいいんだけど、できないから辛いところだね。魔族領では、あまり魔物による被害件数は少ないようだし、何か対策方法はありそうなんだけどね」
「それは、アイツらが魔物みたいなものだからだろ?」
「そうかな? 魔族はもっと、魔物とどう関わっていったらいいかを知ってるだけじゃないかな? 例えばユキンコが人郷に来ないようにする方法とか」
そんな方法あるのだろうか?
だって、魔物だぞ。殺す以外に対処方法はない気がする。
「フレイは魔族びいきだな」
テュールが少しだけ不機嫌な声を出す。体格も大きいし、年齢も俺らよりも年上だから、すごまれると少し怖い。しかしフレイは平然とテュールを見上げた。
「そうですか?そう言うつもりはなかったのですが、そう聞こえてしまったならすみません。でも殺さずに済むなら、その方が楽だと思っただけですよ」
確かにフレイの言う通り、魔物を倒さずに撃退できるようになれば楽ではある。
「それに、魔物とひとくくりに考えるのも俺は嫌なので。種類によっては、共存もできるでしょうし、殺すだけなんて不毛だと思いませんか?」
「甘ったれるな。共存できないから今があるんだろうがっ!!」
テュールが怒鳴って、俺らはシンと静まり返る。
テュールもしまったと思ったらしく、フレイから背を向けた。
「悪い」
「いえ。俺もすみません」
「俺、少し離れたところを、雪かいてくるわ」
そう言って、テュールは俺たちから離れるように雪深い方へ歩いていく。
「1人はよくない。私も行こう」
ウルがそう言って、テュールについていった。ウルは行く前に、フレイの肩を気にするなと言うようにポンポンと叩いていく。
「トール、ごめん。俺もちょっと別の場所をかいてくるよ」
フレイはいつも通り笑って行こうとして、俺は慌ててフレイの手を握った。
「駄目に決まってるだろ。こういう悪天候の場所は最低2人で動くのが決まりだろ」
「あー……そうか。そうだったね」
フレイの珍しく落ち込んでいる様子に、俺は心配になる。いつも図太くて、誰よりしっかりしているのに、たまにフレイは脆い。
「はーははは。これだから打たれ弱い奴は困る。確かにフレイはテュール先輩の心の傷をひっかいたが、テュール先輩はお前を許せないほど狭い度量はしておらんぞ。そして、俺もそんな事ぐらいで軽蔑するほど小さな男ではないわ」
「分かってるよ。悪い。俺が自己嫌悪しているだけだから。テュール先輩の度量が広い事も、オーディンが大きな男だという事も分かってるよ」
そう言って、フレイは苦笑する。
テュールの両親は、魔物に殺されていた。それもあって、テュールは勇者のパーティに加わっているのだ。
「なあ、フレイはなんで、パーティーに入っているんだ?」
ふと、当たり前だったことが俺の中で疑問になった。
俺は勇者だから仕方がないし、テュール先輩も両親の敵をとる為という理由がある。聖職者のバルドルは教会の命令でパーティーに入り、オーディンやウルは貴族としてだ。貴族の跡継ぎでないものは、貴族の務めとしてパーティーに入る事が多い。
でもフレイはどれにも当てはまらない。
俺の幼馴染だから、一緒に居るのが当たり前すぎて気が付かなかったけれど、フレイには勇者のパーティーにいる理由が何もないのだ。
特に魔物すら殺すのが苦手なフレイは、そんな無理をしなくてもいいはずなのに。
「必然だからかな?」
「何だよそれ」
「俺は、もっと広い世界が見たいから。自由にいろんな場所へ行ける職業は勇者パーティーぐらいだろう? となると理由的には知識欲が主かな」
本当だろうか。
本当にそれだけで、苦手を克服しようとするだろうか。フレイならなんだってなれるぐらい、頭がいいのに。
じっとフレイの顔を見ていると、フレイが俺の頭にポンポンと手を乗せた。
「何でトールがそんな顔をしてるんだよ。自己嫌悪で落ち込んでるのは、俺だって言っただろ」
そうなんだけどさ。
「俺は、フレイの幼馴染なんだよ!」
なんで、隠すんだよ。俺がそんなに頼りないのかよ。
しかし、結局フレイは全てを誤魔化す笑みを俺にも向けた。




