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さらに台本を読み進めていくと、クライマックスではリアーヌ扮する赤薔薇の騎士に対し、武闘大会で披露した舞を踊るよう指定されていた。
(……ト書きの「武闘大会の時の舞を踊る」って指示、雑すぎない?)
その舞が終わると決着がつく。白薔薇の騎士の剣が、赤薔薇の騎士の胸を貫くのだ。
死にゆく赤薔薇の騎士を胸に抱き、この世で最も大切な親友を亡くした白薔薇の騎士は、世界に絶望し、自ら命を断つ。折り重なるように倒れ、そして幕が閉じる。
そんな、切なくも美しい男同士の「友情」の物語だ。ーーそう、友情なのだ。
「素晴らしい物語です」
脚本を読んだローランが、キャロ教師を褒め称える。
「白騎士の赤騎士に対する深い信頼と愛情が胸を震わせます。特に白騎士の気持ちを考えると、心が痛むと同時に共感しました」
「そうでしょう、そうでしょう!」
キャロ教師は満足げに頷く。
そんな彼女に、ローランが一つ、注文を付けた。
「可能でしたら、赤薔薇の騎士の名前を変えられませんか? 私が子供の頃読んだ絵本に、とても大好きだった騎士がいたのです。その名前だったら、私もより感情移入して演じられると思います」
「まあ、シャルトルさんにも絵本を読むような子供時代が……」
キャロ教師が驚いたように目を丸くした。
確かに、ローランは子供の頃から絵本などには興味を持たず、小難しそうな本ばかりを読んでいたイメージがある。
「シャルトルさんが演じやすいように変えてくれていいですよ。ちなみに、どんな名前?」
ローランは爽やかに微笑み、答えた。
「アンリ、とか如何でしょう?」
「……」
リアーヌは頭を押さえた。まあ、既視感を感じるこのストーリーだ。そんなことだろうとは思ってはいたが。
「すごくいいと思います。是非、感情移入して演じてね」
キャロ教師は乗り気になったローランを見て、嬉しそうだった。
やがて、まだ教師としての仕事が残っているキャロ教師が去り、二人きりになると、
「アンリ」
と悪ノリして、かつての名前で呼んでくるローランを、リアーヌは白い目で見た。
「……いや、貴方、アンリという存在は俺だけのもの、とか言ってませんでしたかね??」
するとローランは澄ました顔で答えた。
「アンリという名は一般的な名前だろう?」
確かにそうだがーーそういうものなのだろうか? どこが彼のこだわりポイントか、分かりかねる。
まあ、ローランの考えていることなど、いつも理解できないのだが。
ローランが台本の表紙を軽く叩いた。
「リアーヌ。ちなみにキャロ先生は、この話を友情ものと思って書いたと思うか?」
「……」
リアーヌは押し黙る。ローランの次の言葉は想像がついた。
「キャロ先生のことだから、恋愛ものだと思って執筆したと思う」
キャロ教師は、前世で大人気だった「黒衣の騎士は聖なる騎士の腕に甘く囚われる」という麗しい男性同士の恋愛小説の著者だった。それを念頭に置けば、ローランの言は正しい。
が、友情ものだとリアーヌは断固として解釈する。
だいたい、ローランと恋愛ものの劇に出るなんて、もぞもぞする。
「私は熱い友情ものだと信じています」
「……いや、脚本家の期待に応えるのが演者の務めだろう?」
ローランがにっこりと笑った。ーー嫌な予感がした。
⭐︎
ちなみにマリアンヌの提案で、劇の練習は基本、部外者立ち入り禁止で行われることになった。そうでなければ、連日、見学者が殺到して廊下が混雑してしまうからだ。その代わり、練習を公開する日を決めた。
「見学も、誰でも自由にとなると混乱しますから、抽選にしますわ」
マリアンヌの目測どおり、見学券はものすごい倍率で、瞬く間になくなったのだった。
そうして公開練習の日。
リアーヌとローランだけは、衣装を身に付けて稽古をすることになった。というのも、リアーヌが女生徒のままの格好であると、一部の過激なローランファンの女生徒からやっかみを受けかねないからだ。
一方で、男装していれば、逆にリアーヌファンの勢いに、ローラン過激派が飲み込まれてしまうだろうという判断らしい。
(そんなもの?)
と不思議に思うが、マリアンヌが言うのなら、そうなのだろう。
公開練習が始まると、先生たちまで興味津々で練習を見に来ていた。
キャロ教師は、リアーヌとローランが騎士の姿で並んでいる様子を見て、
「まあまあ! まあまあまあ! 本当に素敵よ。特にセネヴィルさん、もう、先生のイメージにぴったり!」
と大層ご満悦だった。
さらに稽古中にローランが、
「アンリ」
と名を呼び、白手袋をはめた手でリアーヌの頬に触れると、
「きゃあぁぁぁっ!」
と黄色い声を上げて、見学していたリアーヌファンの女生徒が卒倒した。その中に女性教師も一部混じっていたのはーー見ないふりをすることにした。




