31-4
そして学園祭当日。
商売人気質のマリアンヌは、赤薔薇と白薔薇のグッズを作って、ちゃっかり荒稼ぎをしていた。儲けたお金は、少し足が出ていた衣装代や小道具代の補填などに充てることになる。
さて、出番を控えたリアーヌは、舞台の脇から客席をこっそり覗きーー飛び込んできた光景を見て、思わず吹き出しそうになってしまった。
一般クラスのレベッカや、副級長のユミナをはじめとする十数名が、最前列を陣取って「騎士リアーヌ、最高!」という横断幕を掲げていたのである。
隣でローランが肩を震わせて笑った。
「期待されているんだ。最高の舞台にしような」
リアーヌもローランも、何だかんだいって完璧主義だ。やるからには最高のものを作り出す。
幕が開くと、真剣そのものだ。
リアーヌもローランも、膨大な台詞の量だが、一度もとちることなく順調に進んでいく。
友情と決別。そしてーー永遠の別れ。
舞の後に崩れ落ちた赤薔薇の騎士を、白薔薇の騎士が抱き起こす。
「君を一人で死なせはしない」
絞り出すような苦しげな声。
(……脚本と台詞が違うな)
ローランが台詞を忘れるとは思えないので、わざとだろう。彼は、この話を恋愛ものだと解釈していた。
ーーとてつもなく嫌な予感がした。
「生まれ変わったら、次こそは……生涯を共にしよう」
ローランはそう言って首を傾けーー口づけてきた。唇に重なる柔らかな感触。
……………。
(うぎゃあーー!)
叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
いくら、もう恋人同然の関係とはいえ、こんな公衆の面前で本当に口づけてくるなど、どうかしている。
幸いにも観客席からは、ローランの頭に遮られ、実際に唇が重なっているところは見えないはずだ。ーーというか、それも彼の計算のうえだろう。
最前列で、きゃーっと叫びたい衝動を堪えて、目を爛々と輝かせているキャロ教師とユミナの姿が目に浮かぶようだ。
そうしてリアーヌとローラン、二人主演の劇は、大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
⭐︎
演技を終えたリアーヌは、控え室のソファにぐったりと沈み込む。室内には他にローランしかいない。ーー何か級友たちに、妙な気を遣われているような気がする。
「……疲れた。もう二度としない」
ぼやくと、ローランは上機嫌に、
「俺は楽しかったな」
と宣った。それもそうだろう。
「好き勝手に動いた貴方は楽しかったでしょうよ」
振り回されるこちらの身にもなってほしい、と思っていると、不意にローランが真顔になった。
「ただ……」
「うん?」
伸ばされた手が、リアーヌの頰にそっと触れた。
「君が先に死ぬのは、嫌だ」
それは、何度も確かめるように繰り返される言葉。
彼の不安を完全に取り払うことは、きっと難しいのだろう。けれど、これだけは伝えておこうと思った。
「じゃあ、こうしましょう。私が先に死んだら、ローランも後を追って死んでいいですよ。ローランが先に死にそうならーー私を殺してもいいですよ」
と言ったあと、大事な事を一つ言い忘れていたことに気づいて付け加えた。
「あ、でも、前みたいに痛いのは嫌だからね」
と釘を刺しておく。胸に刺した短剣をぐりぐりとか、勘弁してほしい。あの日の痛みを思い出し、胸に手を当てていると、ローランがその手を取った。
「それは……すごい殺し文句だな」
そう言ったローランは、リアーヌの手の甲に唇を寄せたのち、満足そうに微笑んだ。
ーーローランのことだ。そういう時が来たら、ためらいなく殺すんだろうな、と思った。
余談だが。
学園祭の後も白赤騎士フィーバーは収まらず、密かにこの題材を利用した二次的な創作物が出回ったらしい。
とうとうエピソードが100を超えました! ここまで続けてこられたのも、読んでくださっている皆様、そしてリアクションや評価、ブックマークで応援くださった方々のおかげです!
完結まであと少し。最後までお付き合いくださると嬉しいです!
TS男女好きさんが増えますように……!




