31 学園祭
「もうすぐ学園祭です」
授業が終わった後の終礼の時間に、担任のキャロ教師が教壇の前で、そう宣った。
「皆さんご存知のとおり、当番学年の全てのクラスは出し物を出す必要があります。特別クラスも例外ではありません」
学園祭は学年当番制のイベントだ。当番学年は一年・三年・五年となり、他の学年はただ見学するだけだ。リアーヌも、去年はマリアンヌとユミナの三人で見て回ったくらいだ。
「そこで私から提案です」
キャロ教師が生徒たちを見回す。
「今年は劇はどうかしら」
そして、いそいそと教卓の中から一冊の本を取り出しつつ、
「実は文芸同好会の顧問として私が書いた短編が、話題になっていて」
とキャロ教師は照れ照れと頭に手を置いた。
「二人の騎士というお話なんですけど」
二人の騎士ーー。
(何というか、微妙に不穏な響きかも……)
そんなリアーヌの不安とは対照的に、教室内は肯定的な雰囲気で、あっさりとキャロ教師の提案は通過した。
「では、騎士の一人はローランで決まりですね」
挙手して、そう言ったのはローランの友人のレノーだ。
(だったら、もう一人はレノーで決まりかな)
二人の騎士とは、二人の男性の物語だろう。レノーは見目も良く、ローランと並ぶ姿に違和感はない。何より、ローラン相手に物怖じしない生徒は限られている。
しかしーー。
はいっと元気な声がして、挙手した生徒がいる。副級長のユミナだった。
「もう一人の騎士役はセネヴィルさんがいいと思います!」
「……」
そういえばユミナは、キャロ教師が顧問をする文芸同好会の部員だった。きっと二人は示し合わせているのだろう。
リアーヌの危惧した不穏な雲行きである。
「え、でも私は女ですから……殿方に演じていただく方が自然かと。ほら、フォートリエ様のような」
フォートリエとはレノーの姓である。するとレノーがぶんぶんと手を振った。
「いやいや。俺なんかより、セネヴィルさんの方が、みんな喜ぶよ」
爽やかに謙虚に辞退の意思を示しているが、その心の奥の本音がありありと窺えた。即ち「面倒臭いことに関わりたくない」と。
リアーヌが彼の立場なら同じことをするだろうから、責めることはできない。
「ほら、女子たちの期待の目を見てよ。これで俺が名乗りを上げたら、俺が恨まれちゃうだろ?」
レノーに促され、リアーヌは教室を見回した。皆がじっと自分を見つめていた。
彼の一押しによる女子たちの熱い視線を一身に浴びーーリアーヌは観念した。
「……はい、お引き受けいたします」
するとキャロ教師は破顔し、女子生徒が盛大な拍手をした。男子生徒も、ローランと比べられずに済み、心からほっとしているようだった。
「実は、仮装した時の衣装があるの」
キャロ教師が再び、教卓の中から衣装を取り出して広げた。準備万端すぎる。
黒を基調とした衣装だが、胸元に赤い刺繍が入り、肩に止めたマントも裏地が赤、そして翻ると燃えさかる炎のように見えて、舞台衣装として見栄えがしそうだ。
(これってキャロ先生が作ったのかな?)
だとすると並々ならぬ執念だ、と思っていると。
「セネヴィルさん!」
キャロ教師とユミナに両腕をがしっと掴まれる。二人からすごい圧を感じた。試着しろということらしい。
「あー、はい」
ずるずると引きずられるようにして、キャロ教師に更衣室に連れて行かれ、なすがまま騎士の衣装に袖を通した。
そして教室に戻り、
「こんな感じでしょうか?」
と言いながら皆の前に出ると、教室は一瞬、水を打ったようにしんとなった。




