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「家名以外は満点以上の相手じゃないですか。どうやって、たらし込んだんですか?」
「たらし込んでない!」
人聞きの悪い。まるでリアーヌが悪女か何かのようではないか。ーーというか、そんな能力は残念ながら備わっていない。
「なるほど。ーーでは、たらし込まれたんですね。……この鈍感初心なお嬢様をたらし込むなんて、シャルトル家の次男は、ちょっとやりますね」
「たらし込まれてもない!」
ーーはずである。昨日の口づけを思い出し、少し自信がなくなる。
そんなリアーヌの様子に目ざとく気づいたキリエは、リアーヌの耳元で囁いた。
「またまた。キリエには恥ずかしがらずとも良いのですよ。ーーで、どこまで行きました?」
その言葉が「単なる距離」を表すものではないことは、鈍いリアーヌでも、さすがに分かる。
「どこにも行ってない!」
きっぱり否定すると、キリエはよろよろと、わざとらしくよろめいた。
「そんな……駄目じゃないですか。ちゃんと唾を付けておかないと」
ーーこのままでは終始キリエのペースで話が進んでしまう。話題を変えなければ。
「そんなことより、帰りの手配なんだけど」
「高速騎獣の準備はできています。それよりーー」
とさっくり話を元に戻そうとしたキリエが、ふと口を噤む。そして、さっと後ろに引き頭を下げた。
リアーヌもまた、その存在に気付いて声をかけた。
「お父様」
そこには穏やかな佇まいの父が立っていた。ーー先ほどの「おじさんショック」からは立ち直ったようである。
「リアーヌ。少し話をしないかい?」
キリエは優秀な侍女の顔に戻って父に椅子を勧め、自身は親子の会話の邪魔をしないよう、聞き耳を立てぬよう立ち去った。
「どうぞ」
父が、果実を絞ったばかりの新鮮なジュースを持って来てくれていたので、グラスに口をつける。
「あのローラン君は、間違いなくシャルトル家の次男、だよね」
「ええ」
「恋人なのかい?」
「ぶっ……」
あまりに直球な問いかけに、思わず飲み物を吐き出しそうになる。
「違うのかい?」
答えづらかった。
恋人だと確認し合ったことはないが、何度か口づけを交わしていることも事実で、友人以上の関係だろう。しかし父親にそうだと紹介すれば、将来を誓い合っているとみなされる可能性もある。
さすがに、それは早計だと感じたので言葉を濁した。
「ローランはその……友人ですよ」
「そうか、父さんの勘違いか」
「どうして、そんなふうに思ったのか不思議」
家で親密な空気になってはいなかったように思うが。
「そうかな? まずローラン君と話しているお前は、とても自然体だ。いつも、誰といても猫をかぶっているお前が、彼の前では取り繕っていない。そしてローラン君の方は……ずっとお前を目で追っていた。私たちとの会話も疎かにしていないけれど、お前の反応を窺っている。お前を見ながら、私たちとの受け答えが正しいかどうか判断しているようだった。それは、お前の両親である私たちの心証を気にしているということだろう?」
さすがは一領主だ。よく見ているな、と思う。
「そっか……」
直截的に言われると、くすぐったく感じられる。そんなにローランは自分のことを見ているのかと。
リアーヌは照れ隠しに、ローランを少しだけ腐してみた。
「ローランは清廉潔白で完璧な人と言われていますが、ちょっと変わっているんですよ」
「そうみたいだね」
父はふと微笑んだ。
「シャルトル家が私たちを毛嫌いしていることは知っているかい?」
「私もローランも知っています」
すると不意に真剣な表情になって、じっと見据えてきた。
「結婚するとなると壁が高……」
「まだ、そんなこと考えてないって」
先ほど友人と言ったにも関わらず、父が探りを入れて来た。全く信じてもらえなかったようである。




